「THEIR FINEST HOUR」は第二次世界大戦中の欧州戦域のすべての戦闘を師団規模のユニットで表現するエウロパシリーズの中の1作で、1940年のドイツとイギリスの間で戦われたバトル・オブ・ブリテンと、その後のドイツによるイギリス本土への侵攻計画を扱っています。
エウロパシリーズは、1970年代なかばにGDW社により販売が始まり、販売会社を変えながら、シリーズが継続しているゲームシリーズです。ルールや設定上どれほどの一貫性が保たれているかは不明ですが、その精神は続いているということなのでしょう。
日本ではホビージャパンが80年代なかばにライセンス販売し、大戦初期から中期を扱った6作をリリースしたところでウォーゲームブーム自体が下火*1になったことからかその後リリースは途絶えました。
国内でライセンス販売されたエウロパシリーズ作品
( )はオリジナル版のリリース年、国内リリース年は確認中
THEIR FINEST HOURについて
日本語ライセンス版は1984年の発売。
ルールやゲームのスケールはエウロパシリーズ共通になっています。
陸上部隊:基本は師団単位
航空部隊:40機
艦艇:大型艦1隻単位、小型艦複数隻
1ターン=2週間
1ヘックス=16マイル(約25キロ)
バトル・オブ・ブリテンから強襲上陸、イギリス本土での陸戦への展開を扱っています。キャンペーンシナリオは1940年8月前半~同年12月下旬の全10ターンです。ただし航空決戦に失敗すればその後の海上決戦や上陸作戦&降下作戦は発動しないことになります。
史実では1940年8月1日に空襲開始。
当初レーダー基地などの軍事施設を目標にしていたが、8月末よりロンドン空襲に目標を変更。その後、1940年9月19日に昼間爆撃が縮小され実質中止された。
フルサイズマップ2枚、ユニット総数1200枚のかなりのボリュームのゲームです。
シナリオ紹介
タクテクス17号(1984年9月号)に掲載された空戦シナリオを用いました。
キャンペーンゲームと同じく1940年8月上旬からスタートし、9月上旬までの全3ターンと、史実のバトル・オブ・ブリテンの期間に相当します。
両軍の戦闘序列もキャンペーンゲームに登場する航空部隊の序列にほぼ同一のため、このシナリオは「THEIR FINEST HOUR」の”バトル・オブ・ブリテン”シナリオと言ってよいでしょう。
勝利条件等
勝利条件はポイント制。
イギリス軍の得点事項は次のとおりです。
- 残存する戦闘機ユニット
- 機能しているレーダー
- 機能している工場
ドイツ軍の得点事項は次の通りです。
- イギリス軍のレーダー網の壊滅(5基のレーダーサイトのうち4個を破壊する)
- 残存する航空機ユニット
また両軍とも次の事項も得点になります。
- 航空機能を喪失した敵の飛行場、小都市、中都市、主要都市
- 敵主要都市への1打撃につき
両軍の戦闘序列
数字はユニット数:1ユニット=40機相当
イギリス軍の序列にある+の後の数字は第3ターンの増援
ドイツ軍
イギリス軍
概してドイツ軍のほうが戦闘機等の数は優位にあります。
イギリス軍側に相当の爆撃機がありますが、これは大陸側を爆撃するためのものです(史実でも夜間爆撃を行っています)。
イギリス側は戦闘機の数など劣後していますが、飛行場・レーダー基地・都市などには固有の対空値があり、別に可動の対空砲ユニットの配置が可能となっています。
ルール紹介
前述のとおり1ターン=2週間で両軍プレイヤーは交互にプレイヤーターンをプレイします。各プレイヤーターンで、航空ユニットを扱う「航空フェイズ」が含まれます。
航空フェイズ ・・・各プレイヤーターンに実施
(1) 非フェイズプレイヤー海上航空セグメント・・海上目標に対する攻撃(今回対象外)
(2) フェイズプレイヤー航空セグメント・・陸上目標に対する攻撃
a. フェイズプレイヤー航空移動ステップ
b. 非フェイズプレイヤー迎撃機移動ステップ
c. 空戦解決ステップ
d. 任務解決ステップ
航空ユニットの数値
- 左上:航空攻撃力
- 右上:航空防御力
- 左下:爆撃力(数字がひとつの場合は戦術爆撃力、ふたつある場合はふたつ目は戦略爆撃力)
- 右下:移動力(航続距離)
スピットファイアMk.1
マリーンエンジンを搭載したスピットファイア最初の生産型。ドイツのフランス侵攻時は温存され、バトル・オブ・ブリテンで本格的に投入された。高速・高機動性・重武装で、Bf109に対抗した。Bf109ほどではないが、航続距離が短いのが玉にキズ。1人乗り、7.7ミリ機銃8丁。メッサーシュミットBf109 E型
名実ともにドイツ空軍の主力戦闘機。高速による一撃離脱戦法を得意とする。多数の生産型があるが本機は名発動機”DB601”を搭載した本格生産型。航続距離(移動力)が短いのが致命的。1人乗り、20ミリ機銃☓2、7.92ミリ機銃☓2
爆撃などの攻撃実施までの手順
1. 爆撃を行う側の航空ユニットの移動
爆撃を行う航空ユニット、爆撃機を護衛する航空ユニットは、目標となるヘックスに移動します(目標となるヘックスは航空ユニットの航続距離内である必要があります。陸上ユニットのように、目標まで移動している途中という状態はありません。)
2. パトロール攻撃のチェック
航路の途中で敵戦闘機のAZOC(航空支配地域:航空ZOC:Air Zone of Control)を通過した場合は、「パトロール攻撃」のチェックを行います。チェックに失敗した航空ユニットは哨戒にあたったということで、強制的に帰還させられます。
3. 迎撃側の戦闘機ユニットの移動
相手側はその目標ヘックスに対して迎撃を行う場合は迎撃機を発進させます。
4. 空戦の解決
同一ヘックス内に敵味方の航空ユニットが存在した場合は空戦が発生します。
「空戦の解決」では、迎撃側は護衛の戦闘機へ攻撃を行うユニットと、爆撃機への攻撃を試みるユニットに分けて攻撃を行います。
5. 対空砲火の解決
目標ヘックス内の目標となった施設固有と同ヘックスに配置されている高射砲部隊の対空砲力の合計値を用いて対空砲火の解決を行います。
6. 任務の実施(爆撃の解決)
ここまでで強制的な帰還や損傷を受けていない爆撃機は、爆撃を行うことができます。
「パトロール攻撃のチェック」「空戦の解決」「対空砲火の解決」「爆撃の実施」のいずれも1ユニットずつチェックを行うことになりますので、相当回数ダイスを振ることになります。
またそれぞれ急降下爆撃機、戦闘機、爆撃機といった機種に応じてそれぞれの場面において各種のダイス修整があります。
夜間戦闘
1ターンが2週間というスケールですので、夜間ターン・昼間ターンがあるわけではありません。通常の移動や戦闘・爆撃などの行動の際に夜間航空行動であることを宣言することで対応できます。
- 昼間爆撃機が夜間爆撃任務を行う場合は、目標の到着チェック、搭載爆弾量、爆撃結果判定、帰還時の着陸チェックなどにおいてペナルティを受けます(夜間爆撃機が夜間爆撃を行う場合は、爆撃結果判定時のものを除きペナルティは受けません)。
- 夜間迎撃を行うことができる戦闘機は夜間戦闘機に限定されます。
レーダーサイトの効果
レーダーサイトユニット5箇所配置されますが、個々の耐久力はチットによりランダムに決まり、最低0から8までとなっています。5個のサイトのうち4個を破壊されるとイギリス軍のAZOC(航空支配地域)のヘックス数は1ヘックスに限定されます(通常は、最大4ヘックス)
また受けた損害はターン毎に補充される「装備ポイント」を用いることにより修復ができます。
プレイ
ドイツ軍を当方が担当、Mさんがイギリス軍を担当しました。
初期配置
このゲームではドイツの戦闘機の航続距離の短さには改めて気付かされます。特に主力戦闘機であるメッサーシュミットBf109が致命的です。距離が遠い目標への護衛などについては、航続距離が長いBf110を使うという手もありますが、同機の戦闘力はスピットファイアはもとよりハリケーンにも劣ります。さらには、戦闘力には目をつむったとしても数が足りません。
メッサーシュミットBf110C型
戦間期1930年代に各国で夢想され盛んに開発された双発戦闘機のドイツ版。ゲーリング元帥から「駆逐機」と命名されるが、バトル・オブ・ブリテンでは惨敗し、単発戦闘機に比べて大きく重い双発戦闘機は空中機動において単発機に抗し得ないことを証明した。が、その後は機体に余裕があったことから電探の搭載など様々な改造版がでてきたところは好き。
双発、2人乗り、20ミリ機銃☓2、7.92ミリ機銃☓4ハリケーンMk.1
スピットファイアと同時期に開発され同じマリーンエンジンを搭載しているにも関わらず性能はかなり劣後していた機体。それでもイギリスが本機を採用したのはバトル・オブ・ブリテンが迫っていたためと言われている。Bf109相手の空中戦はもっぱらスピットファイアに任せ、ハリケーンは爆撃機邀撃を行った。
ユニットの数値としては戦闘力において、スピットファイアより1段階落ちている。ということはメッサーシュミットBf109相手では2段階落ちということでかなり分が悪い。
1人乗り、7.7ミリ機銃8丁。
メッサーシュミットBf109の足では、コタンタン半島の北端などドーバー海峡沿いの都市や飛行場に配置しても、届くのはドーバー海峡沿いの飛行場、都市、レーダーサイト、またロンドンまで。最初のプレイということもあり、目標をとりあえず南岸に並ぶレーダーサイトに絞り配置しました。
第1ターン
ドイツ軍の最初の攻撃は南岸の3ヶ所のレーダーサイトとしました。
- 迎撃による損害を抑えるためには、航空優勢をとらなければならない
- ドイツ軍が移動した後でイギリス軍の迎撃機が移動するため、陽動が効かない
イギリス軍の迎撃が予想される以上、まして航空優勢をとることを考えると、攻撃ヶ所は減らして戦力を集中させる必要がある、という結論にいたり、ドイツ軍の最初の攻撃目標はドーバー海峡に面したレーダーサイト3ヶ所としました。
これがバトル・オブ・ブリテンか、と言われると自信はありませんが、システム上、やむを得ません。
戦闘がはじまるとイギリス軍の戦闘機部隊による哨戒活動(「パトロール攻撃」)により20%程度のユニットが帰還させられてしまいます。
その後、イギリス軍の迎撃はドイツが選んだ3ヶ所の爆撃目標のうち2ヶ所に対して行われました。両方ともドイツは護衛機の数で迎撃機の数を上回っていましたので、爆撃機隊はほとんど損害を受けることなく、爆撃目標上空へ侵攻することができました。
ところがその後の対空砲火の解決において猛烈な攻撃を受けます。各レーダーサイトは対空部隊ユニットが配置され対空防御を強化されていたのです。
対空砲火は施設/ヘックスで合算され、その数値がそのヘックスを爆撃する全ての爆撃機・攻撃機に一律に適用されて判定を行います。
イギリス軍もレーダーサイトという重要目標に対して対空ユニットを配置していたためドイツの爆撃機隊は猛烈な対空射撃を受けたのです。
結果、爆撃機隊は爆撃に参加したユニットのうち半分強から三分のニのユニットがなにかしらの損害を得て爆撃の実施ができなくなりました。
航空ユニットの損害は「空戦」「対空砲火」によって、次のようなものがあります。
撃墜・・ユニットは失われます。撃墜された場所が敵地か味方地かによって再編のしやすさが変わります
損傷・・ユニットは損害を受けたということで帰還します。飛行基地ではユニットは裏返され、増援フェイズで修理チェックを行い成功すればユニットは再び使うことができるようになります。
帰還・・ユニットは強制的に帰還させられます。次回以降の出撃は可能です。
損害なし
対空砲火により「撃墜」される確率は高くありません。多くの航空ユニットは「帰還」か「損傷」の結果により、帰還することになりました。
ここまできて残った爆撃機隊が攻撃を実施します。
ここは、たまたま攻撃したレーダーサイトのひとつの耐久力が弱く、壊滅に成功します。
ドイツ空軍は南西部と南部、また南東部(写真には写っていない)の合計3ヶ所のレーダーサイトを爆撃目標として殺到した。
第1ターンのイギリス軍はドイツ空軍の爆撃機隊の本拠地となっていたルールへ夜間爆撃を実施します。
イギリス軍の爆撃機の多くは夜間爆撃が可能であり、夜間戦闘機もそこそこにあります。いっぽうドイツ軍には夜間戦闘機は2ユニットしかなく、実質イギリス軍の夜間爆撃を防ぐ手立てを持っていません。
実際に受けた損害は微微たるものでしたが、ドイツ軍の防衛網の間隙を縫って行われたこの攻撃に衝撃を受けます。
(つづく)