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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦する(1)

スターリングラードを舞台にエリア・インパルスシステムを用いた作戦級ゲーム「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦しました。

 

 

はじめてのエリア・インパルスシステム

エリア・インパルスシステムは別名「アルンヘムシステム」と呼ばれ、いまだにオークションで高値で取引されているアバロンヒル社「アルンヘム強襲」(1981)から始まったゲームシステムです。

本ゲームはエリア・インパルスシステムのルールを継承しながら、スターリングラード戦らしい味付け・アレンジが施されているようです。

マップ

スターリングラード市街地を中心に全体をカバーするスケールで河川や地形により不定形のエリアで分割されています。

Game Map (click "original size" for accurate color and detail)

ユニット

f:id:yuishika:20210316230323p:plain基本は連隊単位。兵種として車輌のシルエットがはいった戦車/装甲または自動車化部隊の他、歩兵、工兵が登場します*1
戦車/装甲・自動車化ユニットは、渡河において制約がある他は特別な能力はなく、歩兵・工兵とは戦闘力・移動力が異なるだけ、という存在になっています。市街戦における両者の価値を表しているように感じます。
工兵は「瓦礫」の除去時に有利な修正がつきますが、戦闘工兵という訳ではないようで戦闘時のプラス修正等はありません。戦闘時は歩兵と同様に扱われます。
砲兵はユニットではなく、マーカーとして登場します。

ドイツ軍の多くのユニットは師団単位に色分けされています。両軍とも同一師団のユニットが3ユニット以上、同じ攻撃に参加すると「同一師団効果」によるダイス修正+1が受けられます。
一方のソ連軍は寄せ集めの部隊という印象で、独立系のユニットが多いです。

ゲームの進行

f:id:yuishika:20210317083405p:plainゲームは「増援」「機動」「再編」「終了」の4つのフェイズからなり、その中核である「機動」フェイズは複数のインパルスから構成されています。

ひとつのインパルスでは両プレイヤーが交互に1アクションを行います。実施できるアクションの種類は複数あるのですが、メインとなる「強襲」アクションでは、エリアを指定してエリア内のユニットを活性化させます。活性化されたユニットは移動と戦闘を行うことができるようになります。

エリア・インパルスシステムの特徴は、インパルスが何回続くか不確定なところにあります。
各インパルスにおいてドイツ軍が最初に振ったダイスの目(2D6)がその現在のインパルス数よりも大きい場合はそのまま次のインパルスに進むことになるのですが、目が小さい場合は日が沈み、夜になります。「日中」が「夜間」になるのです。
すでに「夜間」インパルスだった場合はそのインパルスをもって「機動」フェイズが終了し、実質そのターンの行動が終わることになります。

「昼間」インパルスが何回続き、さらに「夜間」インパルスが何回続くのかはその時々のダイスの目に依存することになります。インパルス数がかさんでくると、インパルス数を超えるダイスの目を出すことが難しくなってくるので継続することが難しくなっていきます。

「昼間」と「夜間」とでは実施できるアクションには大きな違いはないのですが、適用されるルールや修正が異なってきます。概して「昼間」はドイツ軍有利、「夜間」はソ連軍寄りです。
「日中」インパルスの間、ドイツ軍の航空支援が強力なので、ソ連軍は自ら攻撃を起こすことはほぼできないでしょう。一方「夜間」インパルスになるとドイツ軍は航空支援を利用できなくなる一方で、ソ連軍は移動や攻撃にボーナスや特殊なルールを利用できるようになります。

戦闘システム

f:id:yuishika:20210321135159j:plain戦闘システムも独特です。エリア制ですので、両軍ユニットが同一エリアにいる場合、戦闘が発生します。

攻撃側・防御側それぞれ戦闘力を算出した上で地形修正や航空や砲兵の支援修正を施し、攻撃側の攻撃値と防御側の防御値とします。

戦闘力の算定ではエリア内に複数ユニットが存在する場合*2、攻撃側も防御側も「先導ユニット」を指定します。エリア内の戦闘力の算出にあたって「先導ユニット」はユニットに表記された戦闘力をそのまま用いるのですが、「先導ユニット」以外の2ユニット目以降のユニットは、ユニット表記の戦闘力を用いるのではなく、1ユニット=1戦闘力として扱います。いかに強力な師団のスタックであったとしても、額面通りに戦闘に適用することができるのは「先導ユニット」の戦闘力だけということになります(ゲーム中、判断ミスを誘いがちなルールです)。

攻撃値・防御値が算出されたところで両プレイヤーは、それぞれ2D6を振り結果を攻撃値・防御値に加算します。攻撃値から防御値を引いた結果が戦闘結果となります。

  1. 攻撃値ー防御値>0の場合:攻撃側の先導ユニットは1ステップ失う
    防御側は差分の数値分の損害を受ける(ステップロスと後退で吸収)
  2. 攻撃値ー防御値=0の場合:攻撃側・防御側それぞれの先導ユニットは1ステップ失う
  3. 攻撃値ー防御値<0の場合:攻撃側は戦闘に参加した全ユニットが1ステップ失う防御側は影響なし

戦闘判定においてダイスの目の比重が大きいため戦闘結果に幅がでること(事故が起きがちであること)、また戦闘に勝っても負けても攻撃側の「先導ユニット」は必ずステップロスを起こすこと、が特徴的です。

特に後者については、ゲーム中、攻撃を主導することになるドイツ軍を悩ませ続けることになるのです。
さらに言えば攻撃が失敗した場合(上記の3.の場合)に至っては戦闘に参加した全ての攻撃側ユニットは1ステップ失います。通常のゲームでは攻撃側が不利な状況下でもダイスの結果頼りの攻撃を行うことがありますが、そうした運頼みの強硬策を躊躇させてしまうくらいのペナルティとも言えるでしょう。 

航空支援・砲撃支援・ストームグループ

f:id:yuishika:20210316233207p:plainいずれも戦闘にあたって適用を宣言すると攻撃値または防御値の算出時のダイス修正として働きます。歩兵や戦車などの地上ユニットだけでは均衡状態になることが多い戦闘にあたって明確な差をつけるための手段として支援は不可欠な存在になっています。

砲兵部隊はマーカーとしてドイツ軍は師団砲兵、ソ連軍は軍砲兵がそれぞれ登場し、各マーカー毎、「機動」フェイズ期間に1回使用可能です。修正値は+1。修正値が小さいと思われるかもしれませんが、このゲームでは+1でも修正値の有無は大きいので大事です。

航空支援はドイツ軍だけが使用できるマーカーです。「昼間」インパルスの間は毎インパルス繰り返し出動でき、さらに修正値が「1D6」と強力です。

「ストームグループ」は「夜間」インパルスの間、ソ連軍のみに登場するマーカーで、修正値は「1D6」とドイツ軍の航空支援の対になる存在になっています。ただし適用できるのは市街地エリアのみであったり、3ターンまでは第13親衛狙撃兵師団のユニットのみで利用可能だったりと使用条件に制約があります。

オーバーラン

f:id:yuishika:20210317085545j:plain戦闘結果判定の結果、防御側がステップロス・ユニット除去によっても全ての損害を吸収できなかった場合、オーバーランが発生します。攻撃側はそのまま隣接するエリアに移動でき、敵ユニットが存在する場合は2回目の攻撃を実施できます。その際、最初の戦闘で支援を行った砲撃支援や航空支援をそのまま利用できるようというので強力です。地上部隊の前進にあわせて支援砲撃の弾幕や支援の攻撃機が追随していったというところでしょうか。
オーバーランは、ゲーム初期のドイツ軍進撃の原動力となるシステムと言えるでしょう。

ただ最初の戦闘エリアにおいて戦闘結果で「瓦礫」が発生した、またはもともと「瓦礫」があったエリアの場合、もしくはソ連軍が「英雄」マーカー*3を使用した場合、オーバーランは発動しません。

瓦礫

f:id:yuishika:20210321135843j:plain市街戦であったスターリングラード戦を表現するルールとして「瓦礫」ルールがあります。
「瓦礫」はゲーム最初から配置されているもの(ドイツ軍による爆撃によって発生したものを表すものでしょう)と戦闘結果によって発生する場合があります。

「瓦礫」には防御効果があり地形修正が発生します。また「航空支援」にあたっては地形修正とは別に航空支援による攻撃側へのプラス修正を減殺させる効果があります。

「瓦礫」が存在するエリアではドイツ軍は移動力が残っていたとしても必ず停止しなければなりません。またオーバーランが発動できなくなります。
ドイツ軍のソ連軍に対する有利な要素のひとつである機動力を封じられるのです。

「瓦礫」は歩兵や工兵によって除去することができます。

アドバンテージ

f:id:yuishika:20210321143936j:plain「アドバンテージ」はいかにもゲームっぽい仕掛けです。他のエリア・インパルスシステムのゲームにも同様のルールがあるということなので、アドバンテージはエリア・インパルスシステムの特徴のひとつなのかもしれません。

「アドバンテージ」は常にどちらかのプレイヤーが利用権を有していて、利用内容を選んだ上で利用を宣言すると効果を得ることができます。所有プレイヤーが利用するとアドバンテージの利用権は相手プレイヤーに渡ります。

面白いのは、アドバンテージの利用権を強制的に相手方に渡さなければならないタイミングがひとつのターンの間に2回仕掛けられているため、プレイヤーは切り札よろしく使わないまま手元に残しておくことはできません。使わないままで相手に譲渡するくらいなら、と使うようになるのです。

アドバンテージを利用することにより実現する具体的な主な効果としては、次のようなものがあります。

  1. オーバーランの無効化
  2. 攻撃側が負けてしまう結果となった戦闘結果を引き分けにする
  3. 昼インパルス、夜間インパルスの延長
  4. 補充の増加
  5. 増援の追加(キャンペーンゲームの場合)

シビアな戦闘結果を緩和する①や②、はたまた③インパルスの延長などは展開が佳境になるにつれ、喉から手が出るほどの価値を生むでしょう。④や⑤はいささかブラッディーな展開を見せるこのゲームでこそ有意義です。

スケール

1ターンは4日を表します。((エリア・インパルスシステムで同じスターリングラード戦を扱ったアバロンヒル社の「TURNING POINT STALINGRAD」は1ターン=1日だそうです。)

実ははじめてルールブックを読んだ際に、ゲームのシーケンスの件でいきなり詰まってしまいました。
先のインパルスの説明の部分で「昼間」インパルスと「夜間」インパルスの説明をしましたが、ルールブックでは1ターンが4日間であると書いてある端から、「日中」インパルスと「夜間」インパルスの説明がなされているため、訳がわからなくなったのです。英文ルールまで戻って確かめてしまいました。

対戦相手のDさんも同様に混乱したというので、ここはこのゲームのルールを読む上での要注意ポイントなのかもしれません。

エリア・インパルスシステムの元祖「アルンヘム強襲」では「日中」インパルスが終わると「夜間」の処理になるというシーケンスになっており、スケールが1ターン=1日であったこともあり理解しやすいルールだった訳です。
本ゲームはゲームを簡略化するため1ターン=4日とした際に、「日中」と「夜間」という概念をそのままもってきたことにより、リアルな「日中」「夜間」と、ゲームシステム上の「日中」「夜間」が混同し、ミスリードする結果となったようです。

もともとエリア・インパルスシステムに慣れている人であれば特に問題も生じない部分だったのだろうと推測されますが、初めて同システムに触ったものには少々理解しづらい部分でした。 

次回は実際のプレイの様子を紹介します。

 

 

 

 

  

 本ゲームと同じデザイナーによるエリア・インパルスシステムを用いた「伊江島1945」が収録された号です。いつか挑戦してみたい作品です。本誌のほうもエリア・インパルスシステムの歴史を紹介する記事など、参考になる号です。

 

 

 エリアインパルスシステム+デザイナー Michhel Rinellaということでこちらのゲームもプレイしています。

 

 

*1:歩兵のバリエーションとして海兵部隊なども登場しますが、特に固有能力等がある訳ではないです。

*2:エリア内のユニット数は4ユニットまで

*3:ソ連軍だけに1機動フェイズに1回発動できる特殊マーカー。宣言するとオーバーランを止めることができる。ひいてはソ連軍の戦線崩壊を食い止める英雄である・・といったところでしょうか。