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「九七式中戦車」(ツクダ)を試す

 

タンクコンバットシリーズ4作目、太平洋戦域と日本軍を扱った「九七式中戦車」(ツクダ)を年初早々入手した。
プレイしてみたいというよりも日本軍戦車のデータカードを見たかったのだ。

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高荷義之によるボックスアートはシリーズ中でも屈指のカッコ良さだと思うのです。

 

 

タンクコンバットシリーズについて

ツクダホビーがシリーズ化していた戦術級ゲーム。戦車戦だけをピックアップしており、歩兵は登場しない*1。対戦車砲対戦車ミサイルは登場する。第二次世界大戦ものから現代戦まで6作リリースされ、本作は第4作にあたる。
シリーズ作品は次の通り(たぶん)

 

< タンクコンバットシリーズ作品 >

 

1ヘックス=50メートル。1ターン=30秒。

なによりも本作を特徴づけているのがエンドレスフェイズシステムと呼ばれる進行手順。1ターンをさらに5秒毎の6つのインパルスに分割している。
それぞれのインパルスでは移動-戦闘を行うのだが、時間を細切れにした分、移動は少しずつ細切れに実施される(ひとつのインパルスでの移動距離は2~3ヘックス程度になる)。

戦術級ゲームでは、相手の移動中に射撃を行う臨機射撃という概念があるが、このエンドレスフェイズシステムを用いることで、臨機射撃の複雑なルールを用意する必要がなくなる。実際はリアルタイムで同時じタイミングで活動を行っているはずの両軍の活動を、時間を細切れにすることによりリアルタイムに近づけていこう、プレイヤーが交替で動作を行っていく通常のゲームの矛盾点を解消していこうという試みだ。


エンドレスフェイズシステムによる移動の仕組み、また戦闘システムについては次の記事でまとめているので参照されたい。


本作について

1939年のノモンハン事変から、1945年の本土決戦までが収録されている。収録された車両は、日本軍29種類、アメリカ軍8種類・ソ連軍10種類の計47種類になっている(他に対戦車砲のデータカードが複数)。

日本軍車両のラインナップを見ると改造型も多く、また本土決戦用に温存されたため実戦未投入の車両や試作や計画止まりであった車両も含まれている。

  1. 八九式中戦車・甲型(八九)
  2. 八九式中戦車・乙型(八九)
  3. 九七式中戦車(チハ)
  4. 指揮戦車(シキ)
  5. 九七式中戦車・増加装甲型(チハ)
  6. 九七式中戦車改(チハ)
  7. 九七式中戦車改・増加装甲取付型(チハ)
  8. 九七式中戦車改・砲塔装甲強化型(チハ)
  9. 九七式中戦車改・57ミリ砲装備型(チハ)
  10. 一式中戦車(チヘ)
  11. 三式中戦車(チヌ)
  12. 三式中戦車改(チヌ)
  13. 四式中戦車(チト)
  14. 四式中戦車・57ミリ砲装備型(チト)
  15. 五式中戦車(チリ)
  16. 九七式軽装甲車(テケ)    ※ 砲搭載型が収録されている
  17. 九五式軽戦車・前期型(ハゴ)
  18. 九五式軽戦車・後期型(ハゴ)
  19. 九五式軽戦車・ケニ車砲塔型(ハゴ)
  20. 九八式軽戦車(ケニ)
  21. 九八式軽戦車改(ケニ)
  22. ニ式軽戦車(ケト)
  23. 三式軽戦車(ケリ)
  24. 四式軽戦車(ケヌ)
  25. 五式軽戦車(ケホ)
  26. 一式砲戦車(ホニⅠ)
  27. 三式砲戦車(ホニⅢ)
  28. 特ニ式内火艇(カミ) ※ フロート有り/無しの2パターン用意されている
  29. 特三式内火艇(カチ) ※ フロート有り/無しの2パターン用意されている

 

ちなみにアメリカ軍・ソ連軍の車両は戦線に登場した車両となっている。

 

日本軍ルール

ASLや以前にプレイしたOLD SCHOOL TACTICALなど欧米でデザインされた戦術級ゲームでの日本軍の描き方としては、良く言えばケレン味がある、悪く言えば”変わった”軍隊扱いしているものが少なくない。

本作では日本軍特有のルールはほぼない。日本軍の特徴を表す状況としては、大戦末期近くまで日本軍戦車兵の練度が最高練度を保持し続けていることくらいだ。

ASLやOLD SCHOOL TACTICALにおける日本軍ルールは次のような記事でとりあげている。

 

 

登場する日本軍の車両について

デザイナーズノートに辛辣な記述がある。
「・・デザインを終えてあらためて判ったことは、日本戦車の予想以上の性能の低さです。」

性能がいまいちな点として、砲弾/貫通力、装甲、機動力といずれも他国の車両に遅れている、と記している。貫通力、装甲はわかるとして機動力については、馬力が低く速度が遅いと言っている。

唯一乗員の質の高さだけは「世界一」と評価した。オプションルールで乗員レベルのルールがあり、時期毎・国毎の乗員のランクが数値化されているが、ドイツ軍戦車兵のピーク時(1941年夏)の数値と同じランク7のレベルが、日本軍戦車兵に対しては戦争のほぼ全期間に渡って設定されている。

 

では日本軍戦車がどう評価されているかを見てみる。
タンクコンバットシリーズにおける戦車砲の射撃時の戦闘解決は次のような手順によっている。

<戦闘解決手順>

① 命中判定
- ベースとなる命中率は距離と使用砲弾によって決まる【データカードに記載】
- 目標の状態による修正(サイズ、捕捉状態、移動状態、地形)
- 射撃側の状態による修正(射撃状態)
- ラッキーヒットあり

② 命中箇所判定【データカードに記載】

③ 装甲厚判定【データカードに記載】
- 水平方向での入射角(車両前方・後方・側面の他、それぞれ入射角30度という斜めからの射線も考慮)
- 垂直方向での方位(車体上面、車体下面、稜線の考慮

④ 被害判定
- 目標ユニットの装甲厚と射撃ユニットの貫通力より判定

 

■ 九五式軽戦車 vs. M3軽戦車

M3軽戦車は大戦初期にフィリピンやビルマに配備されていたので十分対戦する可能性があった車両だ。

主砲は両車とも37ミリ砲を搭載しているが、性能は大きく違う。
平地で撃ち合った場合、九五式軽戦車は正面からではM3 軽戦車を破壊することはできない。側面または後面から距離100メートル(2ヘックス)まで近接してようやく約60%の確率でで破壊できる。

いっぽうのM3軽戦車は距離1300メートルであっても命中さえすれば、どこに命中したとしても九五式軽戦車を破壊できる。距離500メートルでの命中率は半分強、距離1000メートルで命中率10%弱。

移動力はM3は19、九五式軽戦車は13と大きく差がつけられている。

 

九七式中戦車改 vs. M3軽戦車

対戦車戦闘を想定して主砲を47ミリ砲に換装後の車両。いわゆるチハたん
九七式中戦車改の47ミリ砲(一式)は、M3軽戦車の37ミリ砲(M5)より射程が若干長く、同じ射程であれば命中率も若干高い(砲身の長さの差か?)が、貫通力はM5のほうが勝っている。

結果、正面から撃ち合った場合、距離400メートルになってはじめてM3軽戦車を撃破する可能性があるが、M3軽戦車は距離1000メートルでかなりの確率で九七式中戦車改を撃破できる可能性がある。

側面・後面からであれば、距離1000メートルでも、九七式中戦車改もかなりの確率でM3 を破壊できる。

移動力は九七式中戦車が12なので、機動力でも差が大きい。

こうしてみると鹵獲後のM3軽戦車が、日本陸軍最強の戦車と言われたという話もうなづけてしまう。

 

九七式中戦車改 vs. M4A1中戦車・後期型

日米両軍の実戦ベースでの主力戦車同士の場合の比較だ。M3軽戦車相手ですでに差がつけられていたように、M4シャーマン相手ではその差は圧倒的になる。

九七式中戦車改がM4A1を破壊するためには、シャーマンの側面か後面から距離400メートルまで接近してかなりの僥倖に恵まれた際に可能。距離100メートルでは半分超の確率で破壊可能。

対するM4A1側からは正面から撃ち合った場合、距離2000メートルでも九七式中戦車に命中さえすればほぼ破壊できる可能性がある。もっとも距離2000メートルでの命中率は2~3%となる。

なお機動力の比較では両車とも移動力は12のため同等。

 

■ 一式中戦車 vs. M4A3中戦車

本土決戦用に温存されていた車両だが、主砲は九七式中戦車改と同じなので貫通力は変わらない。装甲が若干向上しているが、シャーマンの前には同じだ。正面からでは2000メートルでも破壊されてしまう可能性がある。

一式中戦車側の威力は九七式中戦車改と同等。

なお機動力の点で、移動力が14に向上している。

 

■ 三式中戦車 vs. M4A3中戦車

主砲として日本陸軍保有した最良の対戦車砲である九○式野砲を搭載した車両。このあたりからようやくアメリカ軍車両に対抗できるのではないかと期待したが・・。

正面から撃ち合った場合、距離900メートルでハッチに命中させることができればM4A3を破壊できる。もちろんハッチへ狙って命中させるのは至難の技であることは言うまでもない。

側面・後面からであれば距離1500メートル程度でも破壊できる可能性がある。

三式中戦車の装甲は一式中戦車と同等。決して強くはなく、九七式中戦車からわずかに改善された程度だ。

機動力の観点では、両車とも移動力13。

 

■ 四式中戦車 vs. M4A3中戦車

三式中戦車までは実車が存在するので実戦配備されていたことが伺えるが、このあたりになるとちょっと試作車という印象がある。

主砲は75ミリ。カードを見て驚いた。貫通力こそM4A3にわずかに劣っているものの、装甲や貫通力でM4A3に遜色ない数値になっている。むしろ砲身長により長射程での命中率は若干、四式中戦車のほうが優位だ。
距離2000近い距離で正面から撃ち合っても拮抗する。乗員の質や長射程の命中率の差によりもしかすると、四式中戦車のほうが良いスコアを出すかもしれない。

機動力の観点では、わずかに四式中戦車が優れている。

 

■ 五式中戦車 vs. M4A3中戦車

試作レベルで終わった車両。砲塔に四式中戦車と同じ75ミリ砲、車体に37ミリ砲を固定で搭載。主砲の威力は四式中戦車と同じ、また装甲値も四式中戦車と同等とされている。機動力は四式中戦車よりもさらに向上した移動力15となっている。

副砲まで搭載して機動力マシマシというのは日本の発動機の製造技術から無理だろう、という印象だ。

貫通力、また装甲が同等ということから、M4A3中戦車との比較では四式中戦車と同等となる(副砲の37ミリ砲の使い所がない・・)。

 

四式中戦車以降でようやくアメリカ軍の車両性能に追いついたというところ。本ゲームにはカードははいっていないが、本土決戦となるとM26パーシングが投入されていたであろうことから、機会があれば「パットン」にはいっているパーシングのカードと比較してみよう。

 

【2022/01/19 訂正】

「パットン」のカードは他のカードと互換性がないという指摘がありました。確かにそんな気もします。「パットン」は第二次世界大戦直後から対戦車ミサイルや特殊砲弾が行き交う1980年近くまでカバーしているので数値項目の変更があったような気がします。確認しようと「パットン」を探したのですが見つからないのでとりあえずうろ覚え状態で。

代わりにパーシングは、「タイガーⅠ」にはいっているそうです。

 

(終わり)

 

 

 

*1:最終作となった「レオパルドⅡ」のデザイナーズノートによると、同作が扱った現代戦では索敵の重要度が高まり歩兵を登場させる必要性が生じた、と書かれている。エキスパンションキット等で歩兵を登場させるといった予告がなされたが、リリースはされなかった。