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「ミリタリークラシックス 78号」を読む

 

少し前になるが、ウクライナ戦争で西側諸国からウクライナに供与される兵器として榴弾砲がとりざたされた頃があった。2022年の初夏の頃だったと思うが、榴弾砲がゲームチェンジャーとして、平日昼間のテレビの情報番組の中で喧伝されていたのを覚えている。榴弾砲という一般人にはなじみの薄い兵器の名称が、司会のアナウンサーの口から鹿爪らしく語られるのは不思議な感じを受けたものだ。

 

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本号の第1特集は自走榴弾砲の走りともいうべき、ドイツ軍の「フンメル」と「ヴェスペ」、さらに自走歩兵砲の「グリル」シリーズをとりあげられた。
第2特集は、日本海軍の水上機母艦の「日進」と「瑞穂」の2艦。
第1・第2特集とも、戦場では最前線で使われるというよりは、後方からの支援的に使われる、いわば”脇役"の兵器で、期するものがあったのかは不明ながらその”通”な選定に、迷わず本誌を購入した。

「フンメル」は、Ⅲ/Ⅳ号戦車の車台に150ミリ榴弾砲を搭載、「ヴェスペ」は、Ⅱ号戦車の車台に105ミリの榴弾砲を搭載したオープントップの車両だ。ともに9000メートル程度の射程を持つ。榴弾砲という性格から長距離からの支援砲撃が本領と言えるが、直接的な対戦車戦闘にも時として使われたという。
記事の中に次のような記述がある。

・・歩兵不足から連続した防御線を構築できないドイツ軍が採用したストロングポイント方式の防御戦とその火力支援に活躍した。戦いの中で戦車、突撃砲がすべて失われた後に、間接射撃任務のため戦力を残している傾向が強かった自走砲大隊が最後の手段として直接火力支援に投入される、といったパターンは戦争後期から末期にかけて、自走砲部隊の典型的な戦い方になっていた。・・

「グリル」シリーズは150ミリ歩兵砲を38(t)戦車の車台に搭載した、さらに通好みの自走砲だ。車台は同一ながら砲の積載スタイルにいくつかのタイプがある。歩兵砲という性格上、上記の2車種よりは前線の歩兵部隊への直接的な砲撃支援など使われた。
本誌の得意のパターンとして、兵器の詳細な構造から設計思想、運用や戦闘などまとめられており、読み応えがある。
さらに本特集においては、ドイツ軍が用いた様々な自走榴弾砲フランス軍からの鹵獲戦車を車台にする等)や、日本軍の一式10糎自走砲や、アメリカ軍のM7プリーストなども紹介される。

第2特集がとりあげる水上機母艦と言えば、後に航空母艦に改造された「千歳」「千代田」が有名だが、この「日進」「瑞穂」がとりあげられるというのは本誌だけに限らず非常に珍しい。同様に建艦構想から各仕様、運用、編成、実際の活躍とたどっていく。
甲標的母艦としての役割期待と想定された戦術、さらには実験艦的な位置づけでの装備の紹介なども興味深い。
他国の水上機母艦の紹介ページでは、「ゴトランド」や「コマンダン・テスト」などもとりあげられる。

 

おまけ

「フンメル」「ヴェスペ」「グリル」が登場するゲームを探すと、「Panzer Blitz」「Panzer Leader」(以降、PB/PL)、それから「アドバンスド・スコードリーダー」(以降、ASL)が思い浮かぶ。

 

   上から「PanzerBlitz」での「フンメル」「ヴェスペ」「グリル」の各小隊ユニット。
ユニット上の数値は左上から逆時計回りに、「攻撃力」「防御力」「移動力」「射程」。シルエットの上にある「H」は兵装の種類を表し、榴弾砲などの高炸裂弾(HE弾:High Explosive Shell)を表す。「H」ユニットは、直接目標に対して行う直接射撃だけではなく、間接射撃を行うことができる。
PB/PLのスケールは1ヘックス=250mのため、ゲーム内での「フンメル」の最大射程は6キロとなる。後に紹介している「ASL」と異なり、こうした支援砲兵部隊そのものを登場させるには、PB/PLのスケールはちょうどよいということだろう。

「フンメル」の攻撃力60、「ヴェスペ」の40とも数値としては、ゲーム内に登場するすべてのユニットの中でも(対非装甲ユニットの戦闘においては)最強クラスのユニットである。ちなみにソ連軍の「SU152」の攻撃力は40だ。

「Panzer Leader」の中に登場する3ユニットは数値性能は同じなのだが、登場ユニット数が異なっている。

 

 

  「アドバンスドスコードリーダー」に登場する順に、「フンメル」「ヴェスペ」「グリルM」。
1ヘックスが40メートルであるASLのスケールでは、「フンメル」「ヴェスペ」クラスの射程を持つ兵器が戦場に登場するには小さすぎるためか、シナリオの中でこれらの車両が登場したものを見たことはない。ただ記事内で引用したように、撤退戦で唯一の装甲車両として「ヴェスペ」や「フンメル」が登場するシナリオというのはありなのかもしれない。

ユニットの上の記号の読み方は複雑で、例えば「フンメル」のユニット上の数値や記号は次のような性能を表している。

  • 完全装軌車両(=無限軌道を持った車両)
  • 回転砲塔はなく、オープントップ(上部開放)
  • 主兵装は150ミリ。ただし徹甲弾は発射できない
  • 主兵装は、故障(弾切れ)を起こしやすい(=搭載砲弾数が少ない)
  • 車体が大柄のため目標として命中しやすい
  • 砲塔が脆弱で砲塔部分の装甲は車体の装甲よりも弱い
  • 機関銃などの副兵装はない

 

「日進」「瑞穂」が登場するゲームと探してみたが、見つけられなかった(除く、「艦これ」)。もしかするとツクダ「航空母艦」に登場しているかもしれないので箱を探してみよう。