Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム

「歴史群像 161号(2020/6)」を読む

歴史群像 161号 2020年6月号です。

 

第1特集は日本陸軍航空隊

冒頭から、海軍航空隊に比べると陸軍航空隊は“イメージが曖昧”で“影が薄い”という表現が目につく。かの加藤隼戦闘隊もその戦果は茫洋としている・・とまである。まさにそんなイメージ。

巻頭カラーページでは陸軍航空隊は偵察機は充実していたとある。
代表格は100式司偵で、九九式軍偵や九八式直協など各種偵察機を揃えていたと。ただよくよく見ると後者2機種は航続距離が1000キロ程度なので短い。これだと大陸でしか使えなかっただろうな、と読んでみるとたしかにそうだったようだ。どおりで太平洋側の島嶼戦などではみかけないはずだ(あとアメリカ軍機相手だと速力が遅いといったこともあると思う)。
偵察機はカードゲームで相手の手札を見るための特殊能力のようなものという表現があった。至言。

なぜに陸軍航空隊の爆撃機の爆弾搭載量は少ないのか?近接航空支援系の航空機はなぜ目立たなかったのか?(軽爆や襲撃機といった機種はある)一方で大戦後期には疾風のような名機を生み出していたりもする。
こうした陸軍航空隊の成り立ち、どのような思想の元、整備され大戦の中でどのように変容したのか。また翻って他国、例えばアメリカ陸軍航空隊、ドイツ空軍、イギリス空軍はどうだったか?

航空隊の編成上、地上軍の配下におかれていたため作戦上も戦略上も地上部隊の軛を逃れることができなかった、ようやくその制約から解放されたのは戦争末期になってからだったとある。また海軍との協同作戦などができるようになったのも末期だったという。とやかく言っていられない状況になっていたということだろう。
記事のサブタイトルにもなっている海軍航空隊と合同するという帝国空軍の可能性。海軍とのリソースの奪い合いなど、若干それぞれのテーマの割にボリュームが薄い点は否めないが、ひとつひとつの戦歴・戦果を追うのではなく組織としての成り立ちや思想などに着目した内容は興味深いものがあった。

 

第2特集は日露戦争における旅順攻囲戦

今までも多数の研究がなされてきたがこれまでの内容は主に日露戦争後に編纂された大本営側の資料に基づくものが多く、今回は近年発掘されてきた第三軍側関係者による一次資料に基づいて検証したという。

旅順攻囲戦というと司馬遼太郎の「坂の上の雲」のイメージが大きい。同作は攻略を担当した第三軍司令部の旧守とした硬直的な考え方・姿勢を激しく非難するスタンスに貫かれ、作中劇的に演出されている。いわゆる司馬史観というやつだ。 

「二十八サンチ砲をもって、二〇三高地に援護射撃を加えよ、とおっしゃいましたが」
「うむ、言った」
児玉は佐藤を見据えた。
「となれば、味方を射つおそれがあります。おそれというより、その公算大であります。」
「そこをうまくやれ」
と、児玉はおだやかに言った。
佐藤は承知しなかった。
「陛下の赤子を、陛下の砲をもって射つことはできません。」
といったから、児玉は突如、両眼に涙をあふれさせた。
この光景を、児玉付きの田中国重少佐は、生涯わすれなかった。
「陛下の赤子を、無為無能の作戦によっていらずらに死なせてきたのはたれか。
これ以上、兵の命を無益にうしなわせぬよう、わしは作戦転換を望んでいるのだ。・・
援護射撃は危険だからやめるという、その手の杓子定規の考えのためにいままでどれだけの兵が死んできたか!」
乃木はだまっている。      

                       司馬遼太郎坂の上の雲」より

坂の上の雲」の中で山場のひとつといってもよい児玉源太郎による作戦転換の前に第三軍は3回の総攻撃を実施し失敗している。本記事ではそれぞれの総攻撃の方針や取り組みは第三軍司令部が手を抜いた訳でも固定的な考え方で計画したわけでもなく、それぞれ合理性があったのではないかと説いている。決して同じ失敗を繰り返した訳ではないと。
例えば、第1回目の攻撃の主攻軸を要塞正面といってよい東北方向からとし、二○三高地のある西北方面にしなかった理由なども分析される。
結果的には攻略に威力を発揮する二十八センチ砲の投入は陸軍大臣寺内正毅の発案だったとか(これはこれで意外)。
ただ第三軍参謀長であった伊地知幸介は優柔不断でその任ではなかったとある。

 

カラーページ「P-61 ブラックウィドウ」「ベルリン攻防戦1945」

カラーページは巻頭近くの「P-61 ブラックウィドウ」と中央部にあるCG彩色による「ベルリン攻防戦1945」が印象的。

夜間戦闘機は独特の雰囲気とロマンがある。
中でもこの機体はドイツ空軍のHe219ウーフーと双璧なす機体ではないかと思う(日本海軍の月光はダメだ。夜間戦闘機としては非力すぎる。余談)。
双胴式で真っ黒の機体に爆撃機並の強力なエンジンを搭載した3人乗りのいかにもアメリカっぽいパワー重視の機体は迫力がある。最後期での登場だったとはいえ大戦中の被撃墜0機という記録もまたすごい。

 

ベルリン攻防戦のほうはもう少しページ数がほしかった印象。
カラー化されることによってそこに写った人物や事象の迫真性は圧倒的になる。
パンツァーファウストの操作方法を教わるヒトラーユーゲントの少年や後ろに居並ぶ少年隊員たち。築壕作業に駆り出された手元さえおぼつかないような老人たちの写真など。

 

フィリピンの第二次世界大戦

他の興味深かった記事として、「フィリピンの第二次世界大戦」がある。
アメリカ領フィリピンに日本が侵攻して占領下に置き、アメリカ軍の反抗により再度戦場となり一大激戦地となったフィリピンの戦前・戦中、さらには戦後への影響を取り上げたもの。

他国の植民地と異なりアメリカは戦前よりフィリピンの独立に向けてのロードマップを定め実行してきた、という。
その途上に日本が占拠することになったが明らかな占領政策等の失敗により反日意識が醸成された。この点はインドネシアのそれと比べると大きな違い。
またマニラ市街戦(これもまた避けられたものを、陸海軍の作戦方針不一致から発生したもの)では1ヶ月間で10万人規模のフィリピン人が死亡したが、これは「戦闘の巻き添え」ではなく、日本兵による殺害の犠牲者だった、と指摘している(舌鋒するどいので筆者を確認すると山崎雅弘氏だった。さもありなん)。
一方でアメリカの再占領と独立実現にあたってスムーズな移行のため、「日本軍協力者」層を残したため共産勢力との内戦が戦後長らく残ることとなった、ともある。

 

 

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