「第三次ソロモン海戦」を扱うソリティアゲームが付録についているというので、去年に引き続き「MCあくしず」を買ってみた。
まぁなんというか本屋で買うには気が引けてしまう表紙なのであまり見ることもないのだが(「ミリタリー・クラシックス」はずっと買ってます)、シミュレーションゲーム付きとあらば見逃す手はない。
雑誌本体の話
特集記事や通常記事については萌え系イラストや兵器擬人化イラストなどの萌え要素を除けば(まぁ、除いてしまうとページ数が半分くらいになってしまいそうな勢いだが)、ミリタリー初心者・入門者を意識して平易にわかりやすく書いてあり、楽しめた。
第1特集は戦後の第2世代戦車
各国の戦車事情を(真面目な)図解や、写真も多く紹介してあり、第2世代戦車というテーマで一覧するにはちょうどよい印象であった。各車の大判の擬人化イラストがあれなんだが、まぁ良しとしようか。
感心したのは、スイスのPz.68や、スウェーデンのStrv.103、さらには珍品でインドのヴィジャンタという車輌まで紹介されていた点(ヴィジャンタは、イギリス戦車の改造ライセンス生産版とのこと)。
少し前に第2世代戦車が登場するゲームをやっていただけに、特殊砲弾の種類、ソ連のT-62とT-64の違い、第2世代戦車と第3世代戦車とでは何がどうしてどうなったのか等も含め、全体像を平易に書いてある書物はなかなかなかったりするので、興味深かった。
日本からは74式戦車が紹介されていたが、好みから言えば、メガネキャラ化されていたのはいただけない。また自衛隊が想定していた対戦車戦術の一端、60式無反動砲との連携戦術なども紹介されている。
萌えよ!戦車学校は朝鮮戦争テーマ
朝鮮戦争前半、釜山防衛戦あたりまでをコミックと文章のページで詳細に紹介。北朝鮮、韓国、米国の装備から戦況推移、主要な戦闘も含めて詳細に紹介してあって読み応えがあった。
これもまたこの雑誌流だろうが韓国の将軍なども萌え化しているのはなんとやら。
さすがに主席の人や”マ”のつく元帥などは登場していないので、それらの人たちの萌え化はされていない。このあたりのさじ加減は大事。
仁川上陸ソウル奪還以降は次号ということなのだろう。
上記以外の記事
以降も主に軍人の萌え化キャラと兵器の擬人化キャラが飛び交うページが続くのだが、ところどころに真面目な記事があったりして侮れない。
「女体化英雄列伝」という強烈な題名の連載記事では三十年戦争に参戦していたスウェーデンのグスタフ・アドルフ2世がとりあげられている。イラストは萌えキャラ化されているが、記事は真面目。
他にも通史として30年戦争を取り上げた記事もあったりして読ませる。
歴史テーマの雑誌はたくさん出版され数あれど、三十年戦争をとりあげている雑誌は珍しい(そもそも世界史テーマをまともに取り上げているのって「歴史群像」くらいしか思いつかない)。
第2次世界大戦時期のチェコでのレジスタンス運動をとりあげた記事もおもしろかった。
「ミリタリー・クラシックス」が第2次世界大戦時の兵器に絞っているのに比べると、中世ヨーロッパから戦国時代、兵器についても鎮遠の擬人化キャラが登場したりと見境なく、なんでもあり状態だったのもすごかった。
記事ばかりではなく、ハイスクール・フリート、ガルパンといったピンナップも付属していたりと盛りだくさん。
付録ゲーム「第三次ソロモン海戦」
付録ゲームはソリティアゲームで「第三次ソロモン海戦」がとりあげられている。
デザインは堀場亙氏。
マップはポイント・トゥ・ポイントタイプの「艦隊マップ」「作戦マップ」、戦闘解決の際に用いる抽象化された「戦術マップ」の3種類からなる。
「艦隊マップ」はブーゲンビル島からガダルカナル島までの千キロ近くを範囲としており、ショートランドやトラックから出撃した艦隊がガダルカナル島に到着するまでを表す。
ガダルカナル島に到着すると、鉄底海峡を描いた「作戦マップ」に移行し、さらに戦闘が発生すると「戦術マップ」に移行する。
マップとゲームシステム
艦艇は1ユニット=1隻単位だが、基本は複数の艦艇からなる部隊単位に移動や戦闘を行う。部隊には、外南洋部隊・前進部隊などがあり、各艦艇の所属も決まっている。
艦隊マップ、作戦マップのエリアは索敵パラメーター(日本軍は索敵される側だが)がそれぞれ決まっており、索敵により発見される確率や発見された時の空襲を受ける確率が異なる。必要移動距離も異なるため、敵中突破が可能な艦隊がある反面、輸送艦を携えた艦隊はルートを選ぶ必要がでてくる(と思われる)。
天候ルールとして、艦隊マップ、作戦マップではスコールが降ることがあり、スコールのエリアは索敵されなくなったり、すでに発見されていた艦隊をロストする場合もある。一方で、スコール以外の海域で一度発見された艦隊はその後も継続的に監視されやすくなる。
作戦マップには、ガダルカナル島付近に「揚陸エリア」と「砲撃エリア」があり、陸上部隊の揚陸や艦砲射撃が成功すると、陸上のアメリカ陸軍の士気や飛行場の稼働機が低下していく。相手の艦隊に与えた損害とあわせてこれらが勝利条件に関わってくる。
作戦マップ上のエリアで米艦隊と接敵すると、艦隊戦が発生し戦術マップへ移行する。
そう、艦隊マップでは空襲を受けることはあるが、アメリカ艦隊の迎撃を受けるのは作戦マップだけである。
使用しているマップにあわせて時間の進み方も数段階に分けられている。
ゲーム全体としては、1942年11月12日から15日までの4日間を描く。
さらにゲーム内では4時間を1ターンとして1日6ターンとしている。
鉄底海峡に突入すると作戦マップになるがこれは30分を1ターン、さらに戦術マップは10分を1ターン。
戦術マップと戦闘システム
戦術マップは格子状になっており、彼我の艦隊の距離を相対的に示すことになる。
接近すれば、砲や魚雷はあたりやすくなるが、当然相手方からの攻撃を受けやすくなる。アメリカ軍の艦艇はルールで定められた規則に従い運動を行う。端的に言うと、士気値があがれば接近し積極的攻勢にでるが、士気値が下がると距離を保ったり、一定値以下となると撤退行動に移っていく。
攻撃方法には「砲撃」「雷撃」がある。
「砲撃」の場合は命中すると命中を受けた艦の耐久力と砲威力+ランダム要素との比較となる。戦艦・巡洋艦は2ステップ、駆逐艦・輸送艦は1ステップもっている。
「雷撃」は命中率は「砲撃」に比べると低いが、命中すると耐久力などは関係なく、即相手に損害を与える。たとえ相手が戦艦であってもだ。これはかなり怖い。
なお雷撃は各艦1回だけ可能で巡洋艦であっても再装填のためにはいったんショートランド泊地まで戻る必要がある。
アメリカ軍の戦艦にはレーダー射撃ルールが適用され命中確率がかなり良い(命中判定のチットを2回引くことができよい方の結果を適用できる)。
ここまで出てきた、「索敵判定」「砲撃判定」「雷撃判定」「数字判定」また、アメリカ艦隊との遭遇時に用いる「遭遇判定」などは全てチットで処理される。
登場する艦艇
ユニットは戦艦から輸送艦クラスまで1ユニット=1隻単位。
含まれる艦艇は実際に海戦に参加した一連の艦艇の他、参加する可能性があった、金剛・榛名・隼鷹・利根他といった艦艇も含まれている(オプションルール)。
日本海軍側は実に軍艦50隻余、輸送艦だけでも10隻超という規模。
対するアメリカ軍側は、戦艦から駆逐艦まで20隻程度といった規模。
最強はアメリカ軍のワシントンとサウスダコタ。砲力・耐久力とも優れている上、レーダー射撃能力も持っている。
一人プレイしてみようか
11月12日、トラック島を発した戦艦比叡・霧島に軽巡長良、駆逐艦6からなる挺身攻撃隊は一路ガダルカナル島を目指す。
同様、ショートランドからも別働隊として駆逐艦5隻が同じタイミングでの突入を目指し進発。少し遅れて輸送艦11隻とその護衛隊が続いた。
挺身攻撃隊は同日昼過ぎにはアメリカ軍の偵察機他に発見されるが、空襲等を受けることなく同20時、鉄底海峡に突入成功。別働隊も同タイミングで突入。
(ここまで艦隊マップ)
第1戦術ターン
挺身攻撃隊はサボ島沖北方で米巡洋艦隊を発見、先に発見したことにより先制攻撃を行う。「全軍突入」の命令一下、水雷戦隊の各艦はアメリカ艦隊に向け魚雷を投射。
旗艦サンフランシスコ、その後のポートランドから水柱があがり、駆逐艦カッシンが轟沈する。
アメリカ艦隊もすぐさま抱えていた魚雷を発射、これが比叡に命中。比叡は中破してしまう。「雷撃」は耐久力関係ないので、命中してしまうと戦艦もあっさりと損害を被る。
第2戦術ターン
主導権はアメリカ。勇敢なアメリカ軍駆逐艦の肉薄攻撃により日本海軍駆逐艦は大損害を受ける。雪風、天津風、雷撃沈。
代わる日本軍はアメリカ軍駆逐艦、ラフィーとステレットを撃沈。
第3戦術ターン
主導権は日本軍が取り返し、駆逐艦オバロン、アーロンワード撃沈。
日本軍側は暁、照月撃沈。もはや近距離での壮絶な打ち合い。
若干、チットの引きはアメリカ軍のほうがよい。日本側の戦艦はいっこうに有効弾を与えられないでいる。
第4戦術ターン
アメリカ軍軽巡洋艦放った一弾が比叡に命中、比叡はそのまま戦闘不能となり沈んでいった。アメリカ軍のチット引きが冴え渡り、軽巡長良、唯一残っていた駆逐艦電も失われた。この段階で日本軍投了。
感想戦
簡単なルールでプレイはスムーズ。
索敵・空襲・接敵、また接敵後の砲雷撃と全てチット処理され、チット引きが意外に盛り上がる(一人でだが)。白刃での斬り合いのような壮絶な第三次ソロモン海戦での殴り合いを実感できる点は面白かった。ソリティアのため仕方ないが、P2Pマップで移動のバリエーションがないため、運ゲーの要素が強い。
今回は何も考えずに手持ちの部隊をそのまま突入させたが、輸送部隊がこのままだと翌日日中にガダルカナル島に接近することになりタイミングがまずい。
戦艦を擁する艦隊でもあっさりと被害を受けることからしても、もう少し兵力をためてからの突入のほうがよかったのかもしれない。ただしその場合、アメリカ軍側に戦艦部隊が登場する可能性が高まる。
今回は、アメリカ軍側に戦艦部隊が登場しなかったので、楽勝かと思われたが、巡洋艦・駆逐艦でもしぶとく、雷撃と近接戦闘での打ち合いとなり、逆に日本艦隊側が壊滅してしまった。戦艦も簡単に沈んでしまう印象。当然、それ以上に駆逐艦はあっさりと沈む。
魚雷は命中率は低いが威力は絶大。
今回は比叡・霧島が全くといっていいほどいいところがなかったので、これもまたチットの引きによってはがらりと変わった展開になる可能性が高いように思う。
デザイナーズノートに、実際の日本軍がおかれた状況を実感してほしいといった事が記載されていたが、それはよく理解できるように思う。
策源地からはるか遠方にある島をめぐる戦いは補給線の長さだけでも日本軍が圧倒的に不利なことを実感できる。進撃路のほとんどの制空権はなく攻撃にさらされる可能性が高い。強力な戦艦であっても、狭い海峡での撃ち合いでは簡単に失われてしまう可能性がある。比叡・霧島失陥後、連合艦隊が戦艦の投入を躊躇したのも理解できる。夜戦での壮絶な打ち合い・・。やはりガダルカナル島をめぐる戦いは、陸戦だけではなく、海戦もかなり無理ゲーだったんだな、と実感できる。
蛇足だが、戦術マップでのイニシアティブ判定時の数値の扱いがよくわからなかったので、別途確認したい。(確認させていただきました。2020/6/27)