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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「パットン」(ツクダ)を試す(1)

コロナ禍の元で比較的時間の自由が効く(ただし外へは行けない)ので、いろいろ積みゲーを引っ張り出しては中身を眺めています。
「パットン」はタンクコンバットシリーズという80年代にリリースされていたシリーズの三作目にあたり、第二次世界大戦後に登場した東西の戦車が登場する戦車戦を描いた戦術級ゲームです。
このゲームを選んだのはさほどの理由はなく、3月の千葉会でGMTがシリーズ化している「PANZER」の手ほどきを受けたことから、戦車戦つながりということで選んだようなものです。

タンクコンバットシリーズが発売されていた当時は、戦車戦だけを対象としているというゲーム内容から避けていたのですが*1、いまだにオークションなどでも高値で取引されているところを見ても人気作だったということなのでしょう。
往年のタクテクスの記事などでゲーム内容やシステムについては多少かじってはいたものの、今回、はじめてこのタンクコンバットシリーズの作品を試してみることにしました。

タンクコンバットシリーズと「PATTON」

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ゲームが対象にしているのは1946年から1980年とかなり広範囲で、シナリオとして朝鮮戦争中東戦争ベトナム戦争に材をとったヒストリカルシナリオから、真剣に危惧されていた第三次世界大戦の仮想戦シナリオまで収録されています。
収録車両はWWⅡの最終盤に登場した車両M24、M26、T34/85、JS2などから1980年ということで、西側車両としてM60A3、レオパルドⅠ、74式戦車、東側車両としてT72、T80*2あたりまでが対象となっています。米ソ英仏独日の車両の他、スウェーデン、スイスといった独自に兵器開発を行っていた国の戦車も収録されています*3
この30年の間に兵器はかなり発展を遂げています。スタビライザー、特殊砲弾、火器管制システムをはじめとする電子機器、自動装填装置、ガスタービンエンジン、複合装甲やアクティブ防御、なんといっても対戦車ミサイルの登場と普及は戦車戦術自体にも影響を与えています。

タンクコンバットシリーズの共通的なコンセプトとして戦車戦だけを扱っており、歩兵は登場しません。武装した歩兵輸送の戦闘車両、ハーフトラック、トラックなどはもちろんですが、装甲車すら登場しません(訂正:BMPやPT76は登場しますが、M113などは登場しません)。少なくとも戦車戦の最中には登場しないような車両は端から含まれていないのです。登場する車両についてもデータシートには各車両の機関銃装備の記載はありますが、ゲームには用いないと書いているくらいです。
ただ「パットン」について言えば、イスラエルが採用したオールタンクドクトリンと対戦車ミサイル部隊との戦いが発生する第四次中東戦争を扱っている関係でRPGやアラブ軍対戦車部隊が装備した各種の対戦車ミサイルは登場します。

1ヘックスは50メートル。戦術級ゲームとしては普通のスケールです。

1ターン*4は30秒。1ターンはさらに6つのフェイズに分割されるため1フェイズは5秒単位になります。

エンドレスフェイズシステムとは

実際は同時に移動や射撃を行っているはずの戦闘を、ゲームに落とし込むにあたって特に戦術級ゲームに起こるのが、“相手が移動している途中に相手の移動を妨害したり阻止したりするために行う射撃”をどう取り込むかという問題です。「臨機射撃/機会射撃」や「防御射撃」といった形で取り込まれることが多いのですが、往々にして複雑なルールになりがちです。
この命題に対してのタンクコンバットシリーズの回答は有名なエンドレスフェイズシステムになります。

エンドレスフェイズシステムの基本

エンドレスフェイズシステムはひとつのターンを6つのフェイズに分割し、その分割されたフェイズ毎に、相互に移動を行い射撃をした場合は解決を行うというものです(射撃結果は同時適用)。
例えば後のリプレイに登場する、T54の移動力は16ですが、6フェイズに分割して2-3-3-2-3-3となります。フェイズ毎の移動力は各車両のデータカードに定めてあります。もう一方のM48A1の移動力は14で、フェイズ毎の数値は2-2-3-2-2-3です。

少し動いて交代、というパターンを繰り返すことにして、相手の移動途中に射撃を行うためのルールの考慮を不要としているのです。実際はこれに射撃時の装填時間や旋回などの考慮がはいります。

エンドレスフェイズシステムは双方の移動を細切れにした上で交互に移動させることで、擬似的に同時に移動や戦闘を行っているような状態に近づけようとするシステムと言えます。 

移動力の”前借り”

ぱっと見、優れているように見えるこのシステムですが面倒な点が出てきます。
一般的なウォーゲームの場合、ターンを跨った移動は許容されない*5のですが、エンドレスフェイズシステムではひとつのフェイズで使える移動力を小さくしてしまった結果、移動先のヘックスの地形にはいるために必要な移動力をひとつのフェイズの移動力では賄えないということが多発するため、複数のフェイズの移動力をまとめた上での移動を認めています。移動自体は現在のフェイズで行うのですが、足りない移動力分を後続のフェイズの移動力から消費する、ちょうど”前借り”をするように使うのです。

具体例をあげましょう。

T54もM48A3も平地ヘックスにはいる必要移動力は4となっています*6。前述の通り、両車両ともひとつのフェイズに使える移動力は2か3のため、平地に入ることができる移動力に足りません。どうするかというと、足りない分は以降のフェイズに割り当てられている移動力を追加で消費して間に合わせるのです。
T54 が第1フェイズで平地ヘックスに移動を行う場合、第2フェイズに割り当てられている3移動力のうち2移動力もあわせて4移動力とし、これを消費することで、第1フェイズにその平地ヘックスに移動します。
続く第2フェイズの手番になった際には、2移動力消費しているので残った1移動力を使って(場合によっては以降の移動力もあわせて消費して)移動を行います。この際、第2フェイズに移動力が残っていなければその手番は移動を行うことができずに終わります。

必要移動力が6である森ヘックスにはいるであれば、第1フェイズの2移動力、第2フェイズの3移動力だけでは足りず、さらに第3フェイズから1移動力を消費して、第1フェイズに森ヘックスに移動します。第2フェイズの移動力は消費済なので、第2フェイズになった際には移動は行なえません。

 

このようにフェイズを跨った移動力の”前借り”のような消費が常に起こりえます。
移動力の消費状況を記録するため、このゲームでは記録表を使用します。

なおフェイズで使わかなった移動力を後のフェイズに先送りにすることはできません。

 

戦闘解決システム

戦闘解決システムの基本的な考え方は多くの戦術級ゲームと共通ですので、導入はスムーズでしょう。
命中判定を行い、命中した場合は損害判定を行う、という流れです。ただ戦車戦を精緻に描こうとするこのゲームですから手順と修正値や修正考慮が多いのは特徴です。

<戦闘解決手順>

① 命中判定
- ベースとなる命中率は距離と使用砲弾によって決まる【データカードに記載】
- 目標の状態による修正(サイズ、捕捉状態、移動状態、地形)
- 射撃側の状態による修正(射撃状態)
- ラッキーヒットあり

② 命中箇所判定【データカードに記載】

③ 装甲厚判定【データカードに記載】
- 水平方向での入射角(車両前方・後方・側面の他、それぞれ入射角30度という斜めからの射線も考慮)
- 垂直方向での方位(車体上面、車体下面、稜線の考慮

④ 被害判定
- 目標ユニットの装甲厚と射撃ユニットの貫通力より判定

 

特徴的なことを言えば、装甲厚判定の際に用いる、どちらの向きから射撃を受けたのかという向きの考え方です。例えば、ASLでは装甲車両は、前面装甲・側面装甲・後面装甲の3つの方向のいずれかに判定します。最近よくプレイしているOLD SCHOOL TACTICAL(OST)の場合は、前面防御力と後面防御力の2つのいずれかに判定します。
この部分について「パットン」では、前面・側面・後面の他、それぞれについて入射角30度という概念を設けています。

その他のルール

ここまでのルールに視線(LOS)に関するルールをあわせたルールが基本ルールになりますページ数にして10ページ程度ですので複雑というほどでもないでしょう。
他に選択ルールがあります。

選択ルールとしては次のようなものが用意されています。

  • 砲弾搭載量・・・プレイ開始前に1両ごとに砲弾種類毎の搭載量を決め、プレイ中は消費状況を記録する
  • ダミーユニット・・・実ユニット以外のダミーユニットを登場させる
  • 煙幕弾・・・煙幕弾、スモークディスチャージャー

極めつけは次の2つ

乗員

乗員練度を決めます。乗員能力は4段階ありこれはさらに国別に定められた練度表から一定割合で車両毎の乗員能力を決めます。
能力が優れた乗員が搭乗していることになると、攻撃や移動や他の行動にあたってプラス修正になります。逆に練度が高くない乗員の場合はマイナスに働きます。

また命中等を受けて乗員に被害が生じた場合、どの乗員に被害が生じたかによって不利な事象が発生することをルール化しています。

誘爆判定の導入(被害判定の詳細化ー上級ルール)

被害判定の詳細化として誘爆判定が導入されます。
誘爆はエンジンタイプ、命中した砲弾種類、その車両の搭載砲段数などによって発生確立が上下します。

 

ここまでがルールになります。
まぁエンドレスフェイズシステムを除けばそれほど特異なものはないのですが、精緻化の元、細かいルールが多いです。

 

(つづく)

 

yuishika.hatenablog.com

 

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*1:少ないこずかいの投資先は厳選する必要があったためです

*2:T80が第二世代なのか、という議論はあるかと思いますが、存在までは確認されていたが詳細が不明であった車輌として収録されたというところでしょうか(分析要)

*3:微妙にイスラエルの国産戦車が収録されていないのですが、これは次の「レオパルドⅡ」に収録されているのでしょうか。

*4:ツクダのゲームの場合、”ターン”はなく”イニング”と呼ぶが、ここは通例に従って”ターン”と記載する

*5:次のヘックスへの移動に必要な移動力に足りない場合は次のターンの移動フェーズまで待って移動する。そもそもそのユニットの移動力が必要移動力に足りない場合はそのヘックスに移動することはできない、といった原則 

*6:地形毎の必要移動力も車両毎のデータカードにて設定されています。低接地圧車両と通常の車両との性能差なども取り込むための仕様だと考えられます。