隔月刊誌「歴史群像」最新号(2020年10月号)です。
■ 本誌としては珍しいゲーム関係の記事
ボードゲーム関係の記事が2つあり、「歴史群像」としてはボードゲーム記事自体珍しくユニークな内容であったのでまず紹介したい。
1つ目は有坂純氏による記事「ミニマル・ウォーゲームのすすめ」。
戦争や争いを題材にゲームとして扱うにあたってのアプローチとして、『歴史的あるいは仮想的な戦闘をシミュレーティング』するとか、『戦闘そのものを具体的に模倣』するのではなく、『あらゆる戦闘が共通して持つ原則や構成要素-機動、攻勢、戦力の集中、奇襲、予備等々-のみを抽出してモデリング』し、かつ碁石やトランプを用いて遊ぶゲームの紹介がされている。そのアプローチが、いわゆるシミュレーションゲーム/ウォーゲーム、さらに広義なボードゲームをやる身として非常に面白い記事であった。
2つ目の記事は、前号の付録であった「ノルマンディの戦い」と「米軍空挺部隊の戦い」の2つのゲームをデザイナーの山崎雅弘氏が、豊富な写真と共にプレイ事例を8ページに渡って紹介した記事。こうしたシミュレーションゲーム/ウォーゲームを未経験のプレイヤーも想定読者としており、二人用ゲームを一人でプレイするソロプレイとはどういうことなのかといったところから丁寧に説明してあったのが印象的。
興味があってシミュレーションゲームやウォーゲームに接した人だけではなく、毎号本誌を買っていた購読者やたまたま買った雑誌に付録としてゲームが付いていたといった外部要因でゲームに接することになった人たちにも積極的に紹介しようという動きは非常に良いと思う。いくらボードゲームブームが来ていると言っても、まだまだ”以前と比べると”というレベルであり、さらにはシミュレーションゲーム/ウォーゲームジャンルに至ってはその中のごく一部のマイナー領域にすぎないので、メジャー誌でとりあげられる意義は大きい。
次に必要なのはフォローアップとしてここからゲームの世界にはいった人たちがどこに行けばいいのかを紹介する記事かな。これで次に行くのが「艦これ」や「ワールドオブタンクス」や「信長の野望」「大戦略」ではあまりにもさみしすぎる。
■ 枢軸ファンとしては憂鬱な特集記事
戦艦ビスマルク最後の大砲撃戦
第1特集は「ライン演習」に始まるドイツの戦艦「ビスマルク」の最期の出撃の話。昔々、少年向け戦記もの単行本を持っていたな、と思いながら記事を読んだ。
この出撃によってドイツ海軍は単にビスマルクという艦隊戦力を失っただけではなく、英海軍が行った追跡作戦により、外洋で活動する戦闘艦の支援を行っていた補給艦などの支援艦艇群が壊滅したという指摘は気付かされるところがあった。
単艦で通商破壊戦を行う長期出撃を行う戦闘艦、さらには戦闘艦を補給などの面で支援する支援艦の話って谷甲州の「航空宇宙軍シリーズ」にそのような作品があったような・・と思い出し、ビスマルクの航海に材を取ったのか、と今更ながら気づいた。
比島航空決戦1944-1945
第2特集の「比島航空決戦1944-1945」は、フィリピン戦を航空戦という側面で描き出し読み応えがあった。
フィリピン戦といえば「台湾沖航空戦」での大誤報(結果、以降の日本軍の作戦計画すらも誤った方向に変えてしまったほどの)や「レイテ沖海戦」の壮絶な判断ミス、さらには末期の悲惨な戦いなど色々思うところはある(あと、特攻作戦の開始なども)。
「台湾沖航空戦」での損害はフィリピンの軍備計画にも影響を与え、また同じような過剰な戦果報告はその後も続いたという。
一方で、新鋭機「四式戦」の大量投入、また出撃距離が南方での戦い(例えばソロモン海での航空戦など)に比べると短いことなどから、1944年の秋時点では一時的に制空権をとりかけたこともあるとまである。
少しだけ触れられているが、温存されていた「雲龍」「天城」「葛城」に爆装零戦を搭載した機動部隊による特攻作戦(出撃命令まで出ていた)や、「雲龍」に「桜花」を搭載してマニラに輸送する作戦(「雲龍」が撃沈される)などもあったようだ(艦艇ファンとしては前者の作戦など胸アツなところが多々あるが・・)。
こうした一連のキャンペーンがどのような顛末をたどったのかはぜひ記事を読んでほしい。
また多数現地に配備された陸海軍の飛行隊に所属したパイロットや、地上要員がどうなったのかも含めて。
■ 日本史ファンとして
戦国大名 大内氏の滅亡
大内氏と言えば、かつて散々プレイしたエポック社製「戦国大名」では名前がはいったユニットを用意してもらえずランダムに能力が決まる程度の大名であり、また毛利元就や大友宗麟などが活躍する一つ前の世代といった印象があるので、要はとても地味な印象の大名だったが、実際どうだったのか、という記事。
大内氏の起源・隆盛にはじまり、末期に毛利氏などに領地を蚕食される様子などかなり詳しく紹介されている。
佐賀の乱(前編)
幕末から明治維新、さらには西南戦争といった反新政府対明治政府の内戦までをゲーム化したいというアメリカ人と話をしていると、彼の整理では、西南戦争で薩摩軍を率いた西郷隆盛や、佐賀の乱を起こした江藤新平は「反幕府」だが武士社会を壊す近代化には反対する「反近代化」というグルーピングをされていた(落とし込むゲームシステムとして、GMT社のCOINシリーズのシステムが想定されていた)。
ゲームデザインはともかくとして、日本人でも、西郷隆盛と西南戦争はまだしも(例えば、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」や、大河ドラマもあったため)、佐賀の乱や江藤新平になるととんとよくわからない。今回の記事は前後編の前編、最新研究と軍事的視点からということ。
■ 世界史ファンとして
赤軍大粛清
延々と加古隆の「パリは燃えているか」のメインテーマが頭の中でリピートし続けるような記事。スターリン体制化における大粛清、さらには赤軍大粛清を紹介しながら、後に第二次世界大戦における名将のひとりに数えられるジューコフがなぜ大粛清を逃れ得たのかというテーマが描かれる。
済州島4・3事件
1910年に日本に併合された韓国が解放されたのは言わずとしれた1945年。その後、日本の歴史の本に韓国朝鮮が登場するのは1950年の朝鮮戦争の勃発なので、1945年から1950年の5年間に何が起こったのかは教科書的知識からすれば全くのミッシングリンクになっている。
この記事で取り上げられるのは1948年に済州島で「反共」の名の元で行われた軍・警察による住民虐殺。犠牲者数はこの記事では25000人から30000人、ウィキペディアではあ60000人(島民の5人に1人)とされている。
済州島のおかれた地理的・歴史的経緯、また日本統治時代に触れ、解放後の事件を描いていく。
歴史の因果を考えると日本も決して他人事とは言えず一方で、なぜに韓国また済州島でこれほどまでの犠牲者を伴う事件が発生したのかを考えさせられた記事であった。
女王ブーディカの反乱
このキャラって、Fateにでてこなかったかと思い調べるといた。グッズも販売されているところを見ると人気キャラのようだ。ただキャラデザは初見だったので、他のキャラと混同していたようだ。ちなみにFGOはプレイしたことはない。
紀元1世紀のケルト人イケニ族プラスタグス王の王妃。皇帝ネロの治世。
夫プラスタグス王の死後、ローマ帝国は王国を併合し属州とし、またローマ人による土地の簒奪、重税、高利貸など民衆を苦しめたことから反乱を起こしたという。
歴史群像2020年8月号はアマゾンで見るとKindle版しか出てこないので、ゲーム付録の入手は難しくなっているのかもしれない。
加古隆の「パリは燃えているか」のサントラはメインテーマの様々なアレンジバージョンが収録されていたりするので、どっぷりと「映像の世紀」の雰囲気に浸れます。 個人的にはおすすめのアルバム。