Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「MANIFEST DESTINY」(GMT Games)を対戦する

マニフェストデスティニー」は、植民地時代から現代の北アメリカ大陸を舞台にした3~5人によるマルチプレイヤーゲームです。

 


各プレイヤーは”経済帝国”(?)*1を操り、新市場として大陸さらには海外の各エリアを経済的に支配します。支配下に置いたエリアやエリア毎の産物から得られた資金によりトークンや追加スキルを購入します。トークンは、支配エリアの拡大や都市の建設、追加カードの獲得、また技術・社会・文化の発展への投資に使用されます。

 

 
マップは北アメリカが大きくフィーチャーされていますが合衆国だけではなく、カナダ、メキシコ、キューバ、中米・南米なども範囲になり、盤端には、アラスカ、ハワイ、アジア、オセアニア、中東、欧州などを表すボックスが用意されています。海外エリアは、追加スキルとして「蒸気船」が使えるようになると影響力を及ぼすことができるようになり、支配対象となります。

各エリアには支配下におくために必要なトークンの数(1~3個)と特産品が記載されています。特産品は小麦・果実・毛皮・たばこといった一次産品から、石油・鉱物・金・布製品といった鉱工業、科学技術・観光といったものが登場します。イベントカードの中にはこれらの特産品が記載されたものがあり、イベントの発動とあわせてカードに記載された特産品を産するエリアを支配しているプレイヤーにはボーナスがはいることになります。

収入は支配したエリアから恒常的に得られる他、イベントカードによるイベント(ただしマイナスになる場合も少なくない)、カードに記載がある特定の特産品を産するエリアも持っている場合のボーナスがあります。

ゲームの勝敗に関係する勝利ポイントは、エリアを支配することで得るのではなく、投資をすることによって得られるスキル(下記写真参照)や、「ブレイクスルー」と呼ばれるひとりのプレイヤーだけが早いもの勝ちで取得する特別スキルを獲得したときに得ていきます。
エリアの支配は勝利ポイントの獲得に関係ないという構造は、プレイヤーをミスリードする罠です。

 

資金を貯めて投資をすれば獲得できるスキル。
すべてのプレイヤーがそれぞれ獲得でき、役立ち度はスキルによって、またゲームの局面によって異なるが、早めに獲得するに越したことはないだろう。けっこう種類があるので後のほうで獲得したスキルは適用を忘れがち・・。
例えば、テレコミュニケーションジャンルの最初のスキル「電信」では、通常自分が支配しているエリアに隣接したエリアまでしかトークンを配置することができない(影響を及ぼす)のに対し、2エリア先のエリアまでトークンを配置できるようになるというもの。ゲーム初期の展開のスピードアップに寄与する。トランスポーテーションジャンルの2つ目にある「蒸気船」では、海の向こうのエリア(欧州、中東、アジアなど)へ影響範囲を広げることができるようになる。

 

「ブレイクスルー」のスキルも複数の種類があるのですが内容が強力になり、投資すれば即獲得ではなく、獲得のためには複数回ダイスチェックに成功*2する必要があります。ひとりのプレイヤーが獲得に成功すると早いもの勝ちでそのスキルは他プレイヤーは獲得できなくなるので、所有の帰趨が決まるまで他プレイヤーとの競合が生じます。

 

「ブレイクスルー」で得ることができるスキル。
それぞれのスキル欄にある数字欄をすべて獲得するとそのスキルを得ることができる。
写真では左下のスキルを除いてすべてその所有者が確定している(キューブが配置されている)。

 

植民地時代から現代に至るアメリカ史は3つの時代に分けられ、イベントカードは時代毎に提供されます。時代毎に生成される山札のカードを使い切ると次の時代がはじまり3つの時代のすべてのカードがなくなった時点でゲームは終了します。

イベントカードにはアメリカの歴史上の事件や人物が配されています。人物の場合はリンカーンルーズベルトといった大統領が多かったように思いますが、エジソンのような民間人も含まれます。
イベントにはアラモ砦のようなものから、南北戦争大恐慌、世界大戦といったアメリカ史の大小イベントが収録されています。

 

イベントカード。
写真は今回のゲーム終盤に猛威を奮った「大恐慌」。各カードには使用可能な時代があり、その時代が終わった後は使用できなくなるため、有力なカードだからといっていつまでも手元に残しておくと使用するタイミングを逸してしまう・・

 

エリアの獲得・保持、社会・技術・文化等への投資、都市の建設などにはトークン(キューブで表す)を用いるのですが、トークンの総量は各プレイヤー25個に限定されています。
トークンの総量が限定されているのにくわえ、エリアの支配のためにいったん配置されたトークンはプレイヤーの意思で自由に取り除くことは難しくなっているため*3、うまく使っていかないとゲーム途中で自由に使えるトークンがほとんどなくなるという事態も発生しがちです。ゲームの前半で調子良くエリアの支配範囲を広げることに注力しすぎると、中盤以降、投資を実施する際に使うことができるトークンの総量がひどく少ないということになりかねません。

特産品ボーナスでエリアから得ることができる収入がそれなりにあるのであれば、エリア支配に力を入れてもよいのでしょうが、実は特産品ボーナスは発生頻度が高くなく、さらには一部の一次産品については複数のエリアを確保していたとしても得ることができる収入が少ないことがわかったのです。

ゲームを通してプレイヤー間のバランスをとることに注意が払われており、誰かひとりのプレイヤーが独走しないような仕掛けが施されています。

 

スタート地点はプレイヤーの人数にあわせて場所が決まっていて*4、先に配られた手札のイベントや特産品ボーナスを見て、ビットを行いプレイ順を決める(2ターン目以降は前ターンに使ったカードの重要度によって順番が決められる)。

 

ゲーム序盤は各プレイヤーが調子良く支配エリアを広げていく。
写真は北アメリカ大陸の空エリアがなくなったあたり。灰茶色の四角のユニットは建設された都市を表す(都市が配置されたエリアは収入が増える)。

他プレイヤーの支配下にあるエリアにトークンを配置した場合、ウォーゲームの戦闘解決のように、ダイスを用いトークンを除去しあうことになるが、マルチプレイヤーゲームの常として戦闘にリソースを費やすのは得策ではない。
またエリア支配にばかりかまけて手持ちのトークンを使ってしまうと、スキル獲得に配置するトークンが不足してくる。しかも、エリアに配置されたトークンの再配置が難しいという”罠”により、どうしようもなくなるということもある模様。

 

ゲーム最終盤。海外エリアもひととおり支配やスキル獲得の帰趨が固まりつつある中、「大恐慌」が発生し北米中西部エリアのトークンが軒並み除去されるという惨事にあう。その後、イベントカードが一巡したところでゲームが終了した。

 


感想戦

プレイヤーは何者?

ルールブックを読んだ時の最初の疑問はプレイヤーは何を仮託された存在だろう?というものでした。プレイヤー間の「同盟」はルール化されているのですが、国家間の外交の要素がなく、世界大戦や恐慌といったイベントは外挿的に発生するものであって回避したり損害を減らしたりするようなムーブはできないことから、政府や国家、はたまたそれらを操る影の支配者といったシチュエーションでもなさそうです。
可能性としてはアメリカの各所からでてきた経済勢力、コングロマリットのような組織なのでしょうか。日本や韓国でいうところの財閥、モルガン家・ロスチャイルド家といった名だたる一族といったところでしょうか。

経済ゲームとして

エリアを押さえてエリア毎の産業から収入を得て、と一見、経済ゲームのような構造をしていますが、表面的なものに終わっています。エリアが産する産品は初期状態から変わらず、ひとつの産品を産する複数のエリアを独占することによるボーナスも少ないなど、エリア支配から経済圏の拡大という誘導は、強くありません。というか、てっきりそういう方向のゲームかと誤解し、思いっきりミスリードされてしまいます。

ゲーム終盤になると一次産品は得ることができる収入が多くなく、保有トークンの総個数の制限もあるため、多数のエリアを支配することの重要度が少なくなる印象を受けました。
また、経済というものの、企業、金融、貿易、産業の高度化といった要素がある訳ではない(または弱い)です。さらっとひと撫でしたくらいの印象です。

 

プレイは半日程度は要するのですが、ゲームを通したプレイ感は良くも悪くも軽いです。地理、経済・産業、歴史イベント、各種発展史などの要素を取り込んでいるのですが、ゲーム的な処理が施されすぎてひねりや発展や深みはありません。

 

エリアを拡大しつつ、技術を発展させる・・・という構成は、例えば、宇宙開拓ものの「SPACE CORP」(GMT Games)などにも通じるところがあります。
「SPACE CORP」は宇宙開拓、また内惑星から外惑星、さらには銀河と展開しているスピード感や全編に溢れるセンス・オブ・ワンダーの雰囲気があるのに比べると*5アメリカ史に詳しくはない+ロマンを感じるところが少ないという要素もあり、本作はいま一歩劣るように感じました。

 


 

 

 

 

 

*1:なんとも変な言葉ですが、BGGではmercantile empireと表現されています。プレイヤーは何を体現しているのか、というのは後述しています

*2:または一部のイベントカードの効果により獲得

*3:厳密にはゲーム後半で実現するスキルを使うことにより再配置が可能となる

*4:4人プレイの場合は、ペンシルバニア、ヴァージニア、ルイジアナ、メキシコ。5人になるとケベックが追加される

*5:「SPACE CORP」もゲーム終盤にはゲーム的な仕掛けの要素が大きくなりセンス・オブ・ワンダーの要素は減少してしまうのですが