エポック/国際通信社の「マレー電撃戦」には、ゲーム本編とは異なるルールの「シンガポール攻略戦」が付属しています。
ユニット数は両軍あわせ100ユニットを超え、プレイ時間も2時間~程度要するなど、ミニゲームやおまけゲームと言うには、本格的な内容になっています。
ルール
ゲームの進行は、移動-戦闘を繰り返すシンプルなものです。装甲移動といった突破戦闘の機構はありませんし、補給源から補給線を引いて・・といった補給ルールはありません*1。
登場するユニット種類は、歩兵・砲兵・装甲の3兵種。ユニットに部隊規模、名称や番号などの記載はありませんが、ユニット数から推察すると大隊くらいの単位になるのではないかと思われます。
砲兵は射程を持っており、戦闘比を1シフトする砲兵支援能力があります。
装甲ユニットが戦闘に参加すると戦闘比1シフトする装甲効果が得られます。
特徴的なルールとしてモラルポイントがあります。
両軍とも全体としてモラルポイントを保有しています。
両軍スタート時に保有したポイントから、損害を受ける、拠点の占拠などが発生した場合に都度モラルチェックを行い、失敗した場合にモラルポイントを失っていきます。
モラルポイントの状況によって戦闘などに影響がある訳ではないのですが、最終的な勝利条件に関わってきます。モラルがゼロになった軍はサドンデスで敗北となります。
モラルチェックを引き起こす損害にとしては、ユニット除去やステップロスだけではなく、後退の結果も対象となります。防御側の後退、DRの場合は後退するスタック毎にチェックをするのですが、攻撃側後退、いわゆるARの場合は、後退が発生したユニット毎のチェックとなり、攻撃側が攻撃に失敗した場合のペナルティのほうが重くなっています。
英軍はメイアタックなのですが、日本軍はマストアタックです。
マップ
シンガポール島全体が含まれています。日本軍はゲームスタート時にはマレー半島側に配置されており、ジョホール水道を渡渉(ウィキによればゴムボート等を利用したとあります)し、シンガポール島側に上陸する必要があります。上陸戦にあたっては不利な戦闘比が強制され、また日本軍の運搬能力の制約から1ターンに上陸することができるユニット数の制約があります(特に装甲・砲兵部隊は装備を渡渉させるには歩兵部隊の数倍の運搬ポイントを消費する必要があります)。
島内では南部に位置する市街部の他、数箇所の要塞エリア、また島中央部には地形効果が高いジャングルや高地が点在しています。ジャングル等はスタック制限が厳しいのですが両軍とも同じ制約を受けるため、これらもまた攻撃を続けなければならない日本軍に不利に働きます。
第1ターン(1942年2月8日)
初期配置において英軍は全軍の半分のユニットは海岸線上に配置するように指定されています。さらに島の北半部のジョホール水道に面した海岸線ヘックスは自軍ユニットを配置するか、ZoCが効果を及ぼすように配置することになっているため、基本的には1ヘックスおき間隔で配置することになり、スタックはほぼできません。
海岸線ヘックスには配置された部隊ユニットとほぼ同数のダミーユニットが裏返しになった状態で配置されることから、日本軍側から見ると、上陸可能な海岸線をみっちりと英軍ユニットにより埋められた状態から始まります。
残りの英軍ユニットもそれぞれ海岸近くの内陸部、さらにシンガポール市街に配置するように指定されており、海岸部と同じく裏返し配置されます。
日本軍は、マレー半島側に自由に配置します。
プレイでは史実と同様、シンガポール島北西部海岸から北部の道路橋(橋は落とされているため利用はできない)にかけて上陸することになりました。
上陸地点は余計な隣接ヘックスが生じないようなヘックスを選んで行われ、高い戦闘力比率を保つことができたことから、ほとんどのポイントで英軍を撃滅または後退させることに成功します。*2
緒戦においてモラルポイントを下落させたのは、もっぱら英軍となりました。
英軍ターンでは海岸線に配置された部隊は内陸に後退し、地形効果を得られるヘックスを中心にスタックを組み、戦線を張ります。また日本軍の上陸がなかった東海岸の部隊や内陸の部隊を中心に配置転換が行われました。
第2ターン(1942年2月9日)
日本軍は侵攻し英軍の戦線を攻撃します。
スタックが構成された上に地形効果が高いヘックスに拠った英軍部隊を攻撃するため、部隊を集める訳ですが、マストアタックの制約により一部の隣接する英軍に対しては戦闘力比率が高くない攻撃も挟んでいく必要があります。
またどんなに戦力を集めたとしても、地形効果が高い地形に対する攻撃を行う際には比率が大きく下がってしまうため、日本軍の圧倒的な戦力差による力押しとばかりにいかない場面が随所に出現するのです。
第2ターン、内陸部に下がりジャングルや高地、また北部の要塞ヘックスなどの地形効果が高いヘックスを中心に戦線を張った英軍に日本軍の進撃はゆっくりしたものになってしまいます。
第3~5ターン(1942年2月10日~12日)
地形に依った英軍の抵抗は頑強でこのまま耐え抜くのではないかとさえ思える中、日本軍の地道な攻撃で一歩ずつ有利な地勢を得ることでようやく状況を打開します。一部では英軍部隊の包囲殲滅にも成功し、ここにきて英軍は内陸防御第一線の防衛線を捨て、占拠されればモラルチェックを伴う拠点(町や水源ヘックス)を含む第二線へと後退しました。
日本軍は戦力が強力な分、攻撃の自由度が高いようにも見えるのですが、マストアタックによる制約に苦しみ続けます。
英軍の粘り強い(いやらしい、とも言う)防御により、マストアタックによって強制される攻撃のため、日本軍もARによるモラルチェックによりポイントを失うなど出血していきます。
第6ターン(1942年2月13日)
全8ターンの中、6ターンに至り、日本軍の戦線はシンガポールにはほど遠く、占拠すれば英軍のモラルチェックが発生する拠点ヘックスもひとつも占領に至っていない状況です。ここに至り、残り3ターンの中でシンガポール市街の占拠はかなりハードルが高い状況と見ました。
しかしながら破局も迎えたのは英軍のほうでした。
中央戦線で連続して英軍は部隊を失い、ダイス修正を受けたモラルチェックの結果、つるべ落としのようにモラルポイントを失い、ついにゼロとなったことによりここに降伏します。*3
感想戦
全編を通してモラルチェックが両軍を縛っています。
基本英軍は防御側ですので、後退やステップロス、除去によってポイントを失っていくのはわかります。
攻撃側である日本軍も自軍のモラルポイントを気にしながら攻撃を続けなければならないという状況に置かれます。攻略を急ぎ、出血を伴う強攻を続けた当時の日本軍の状況をうまく表しているよに感じました。
冒頭に書いた通り、防御側が後退した場合(DRの場合)は、後退するスタック毎に1回のモラルチェックなのですが、攻撃側が後退した場合(ARの場合)は、後退するユニット毎にチェックを行う必要があります。
加えて日本軍はマストアタックになっています。
日本軍は勝利するためにはシンガポール市街を1ヘックスでも占拠することか、英軍のモラルポイントをゼロにする必要があるため遮二無二に攻撃を仕掛けていく必要がありますが、マストアタックであるため、戦闘力比率が低い攻撃もあわせて実施していかなければなりません。
戦闘結果表は、やや攻撃側に辛い仕様になっていることもあいまって、日本軍は一定程度損害(ARが出てモラルチェックが引き起こされ、モラルを失う)が出ることを覚悟する必要があるのです。
戦線が内陸部に至った際に英軍はうまく地形を利用することにより日本軍を阻む戦線を張ることができます。戦力に優れる日本軍にだんだんと押される状況には変わりないのですが、いやらしく日本軍に出血を強いる防御を継続することはできます。
今回は十分考慮できなかったのですが、初期配置時点から日本軍の攻撃がある位置を想定しながら水際防御を張ることも可能な印象も受けました。
ゲームバランスを語ることができるほどやりこんだ訳では全くないのですが、こうして少し触っただけでも、対照的な両軍の状況がうまくゲームの中に仕込まれているように感じます。派手な要素はないゲームですが、しっかりと作られバランスがとられているように感じました。佳作ゲームと言ってよいのではないでしょうか。
思い立って「マレー電撃戦」をやろうとしたら、VASSAL非対応でしかも現物マップはテーブルに乗らなかったため代わりに付録の「シンガポール攻略戦」をソロ中。
— yuishikani (@yuishikani1) 2021年7月9日
最初、日本軍有利に見えたけど、英軍もいやらしく守ることを考えると、これって英軍有利? pic.twitter.com/ml6pha05Yf
ルールはオーソドックスな移動-戦闘パターン。両軍にモラル値があって後退含む損害毎にチェックの上、下がっていく。
— yuishikani (@yuishikani1) 2021年7月10日
日本軍は強力だがマストアタック(英軍は任意)。戦闘結果表や地形効果シフトが攻撃側に若干厳し目で、日本軍は攻撃側後退の結果によるモラルチェックを被るリスク覚悟の強攻を継続 pic.twitter.com/qejO8V2qQL
意外と英軍が持ちこたえるんじゃないかという中、モラル値が低下していた英軍は終盤加速度的に値を失い、6ターン目でモラル値=0(降伏?)(前の写真)。
— yuishikani (@yuishikani1) 2021年7月10日
ひねりもないルールは簡単で短時間で終わり結構良かったかも。
モラル値の初期値が記載していない等、厳密にはルール不明部分もあるが全体は良し pic.twitter.com/0MOfNLuVY8