
戦術級・現代戦
『BATTLEGROUP CRASH: BALTICS』は、近未来のエストニアを舞台にNATOとロシアの軍事的衝突を小隊規模のユニットスケールで扱った戦術級ゲームです。
本作はイギリス軍が訓練用に開発したシミュレーションシステム(Battlegroup Wargame System(BGWS))を、民生用のホビーゲームとして製品化したものです。実際の軍事訓練に用いられていたシステムという出自から、従来のウォーゲームとは異なるアプローチが見られ、プレイすると随所に新鮮な発見がありました。
現在進行形のウクライナ戦争の地上戦闘で見られる要素が色濃く反映されており、ドローン、電子戦アセットといった要素の取り上げ方は、数ある戦術級ゲームの中でも最も"今日的な"内容になっているのではないでしょうか。

ゲームの概要
スケール
- 規模: 1ユニットは小隊(~分隊)。シナリオに登場する部隊全体で複数中隊から大隊規模
- 扱う兵力: 陸上兵力のみ。マップ外からの砲兵支援あり。制空権を巡る争いが続いているという設定により航空戦力は登場しない
- ターン: 1ターン=15~30分。シナリオは全6ターン~で構成
- マップ: 実際の衛星写真から起こした実在の地形。ヘックス等なし。1cm=100メートル
ゲームシーケンス
- 準備フェイズ: ゲーム開始前に一度だけ実施する。両軍は配下の部隊の全てのタクティカルグループについて、全ターン分の計画(シンクロマトリクス)を作成する
以下、ターン毎に実施
- 指揮フェイズ: 部隊の士気回復(Rally)、計画の変更(新規命令の発行)、電子戦活動(チットドロー)
- 実行フェイズ: イニシアティブ決定後、交互に部隊(タクティカルグループ)を活性化してアクション実施(基本的にはプロットした命令に沿ったアクション)
本作の特徴
本作における従来の作品には見られない特徴的な要素を紹介します。
1. プロットシステム
プレイヤーはゲーム冒頭に1度だけ実施する「準備フェイズ」で、「タクティカルグループ」(数個小隊からなり、シナリオで指定される)ごとに、全ターン分の行動計画(Sync Matrix(シンクロマトリクス))を作成します。
プロット制と聞くと、歴戦のウォーゲーマーの中にはのけぞってしまう方が少なくないかもしれませんが、本作のプロットはかつての航空戦やモビルスーツのドッグファイトを扱う作品にあったような厳密な逐次プロットではなく、記載内容は作戦オーダーレベルの簡易なものです。
とはいえ、全ターンの活動計画をプロットするには、かなりの検討が必要です。シナリオでは相手の勝利条件や兵力についての情報を見ないようにすることが推奨されており、登場位置の情報はあっても相手の作戦意図を推測しつつ計画を練る必要があります*1。
この事前プロットでは砲兵部隊による砲兵支援や攻撃用ドローンが攻撃対象とするエリアも同様に事前にプロットしておく必要があります。つまりロシア軍が得意とする火力連携*2のためには、前線部隊の侵攻速度や位置、目標となる相手の場所を想定した計画としておかなければならないのです(NATO軍も同様)。
シナリオには複数のタクティカルグループと砲撃支援や攻撃用ドローンが登場するため、プロットはこれらグループ+支援+ドローンの数、作成する必要があります(最低でも5個以上)。
プレイ途中で命令内容を変更することは可能ですが、その際にはペナルティが発生します。
- 命令変更が行われたターン中は、対象のタクティカルグループは行動不能になる
- 命令変更を行った場合、命令変更を行った場合、無線通信などが増加することなどから相手に情報を与えてしまうことから、相手へ特典を与える(ETXマーカー(電子通信マーカー)が付与される)というペナルティを負う
上級ルールでは両軍それぞれの特性が反映されます。
NATO軍は部隊運用の柔軟性を反映して命令変更時のペナルティが緩められる一方、ロシア軍はゲーム途中の命令変更が一切認められなくなります!
2. ドローンの扱い
本作では2種類のドローンが登場します。個別の機体を表すものではなく、その戦場で使用されている複数の機体をマーカーとして表現することで、プレイアビリティを損なうことなく、表現しています。
- 偵察用ドローン(UAS:Unmanned Aerial Support Drone)
- 攻撃用ドローン(FPV:First Person View Drone)
偵察用ドローン
偵察ドローンはプレイ前のプロットが不要で、毎ターン自由に行動できます。
配置されたエリア内の全ての敵ユニットを、森林や市街地などの障害物に関係なく視認可能です。本作では盤外または盤上の砲兵ユニットからの砲撃支援が強力な攻撃手段として登場しますが*3、偵察ドローンは間接射撃を行う際の観測チームの代わりとして機能します。
ドローンはマップ上のどこへでも移動でき、また地形に関係なく敵を"見る"ことができるため、相手からすると隠れる場所がありません。
通常は移動距離の制限はありませんが、オプションルールの「天候」を導入すると、特定の天候状況下(低雲、強風)でドローンの移動距離は制限されます。
攻撃用ドローン
攻撃用ドローンは、ドローン自体が盤上のユニットを攻撃することができます。
攻撃用ドローンは、盤上・盤外の砲兵からの間接射撃と同様に、プレイ前のプロットで毎ターン攻撃するエリアを指定しておく必要があります。攻撃エリアは、マップ上のどこでも指定できます。ただし、事前にプロットした位置とは異なるエリアを攻撃したい場合は計画変更が必要です(前述の命令変更時のペナルティを被る)。
攻撃用ドローンの特異な能力として、移動目標に対する攻撃時の不利なダイス修正が不要という点があります。ウクライナ戦争でもドローンが目標となる兵士や車輌を追いかけて攻撃するという映像を見ることがありますが、そうしたドローンの機動性を表した処理ということです。
隠蔽ルールの不在
ドローンの登場により地上部隊はマップ上のどこにも隠れることはできず、隠蔽状態があり得ないという解釈から、本作には隠蔽・隠匿、またそれらに対する発見といったルールが存在しません。多くの戦術級ゲームで煩雑なルールとして組み込まれていた要素が、ごっそりと省かれています。
なお、地上部隊ユニットからドローンを撃ち落としたり除去したりすることはできません。
偵察部隊(ISTARアセット)の役割
本作では地上部隊ユニットの中で偵察能力がある部隊(ISTARアセット)と通常の部隊が区別されています。偵察部隊は固有の光学機器や小型ドローン能力を持つと見なされ、観測や砲撃の誘導といった局面で特別な効果が設定されています。ドローンがあるためこうした専用の偵察部隊が不要となった訳ではなく、現代戦においてはむしろその重要度が増しているように扱われています。
3. マップシステム
ASLのような従来の多くの戦術級ゲームでは、ヘックスに合わせて地形が描かれていました。それに対し本作は実在の地形を元にしてマップを作成しています。さらにマップ内にはヘックスやグリッド、エリアといったものはありません。
マップ上には10cm幅(ゲーム内の1000メートルに相当)で縦横にラインが引かれていますが、これは初期配置や間接射撃・ドローン攻撃の位置を指定する際に用いるだけです。ゲーム内の移動距離や射程距離の測定は、彼我の間にあるヘックスの数を数える代わりに、文房具の「ものさし」を用いて行われます。
例えば、徒歩タイプの歩兵ユニットの1ターンあたりの移動可能距離は以下のように設定されています。
- 開豁地: 750メートル(=7.5cm)
- 疎林: 500メートル(=5.0cm)
特定の地形のみの移動であれば問題ありませんが、例えば開豁地(平地)を渡って疎林に入るといった連続的な移動を行う場合は、移動可能な距離を算定するのに少々面倒な計算処理が必要となります。*4
とはいえ、くねくね曲がった道路を移動するユニットの移動距離を計測するのに、その形状にあわせて正確に計測するようなことは求められてはいませんのでご安心ください。
マップ上の部隊ユニットの位置も正確な位置ではなく、「おおよその位置(近似値)」を表しているだけと定義されていることなど、厳密すぎるアプローチはとらないことを推奨されています。

シナリオ1の舞台となるマップ
10cm単位で白いラインが引かれているが、10cm=1kmとなりスケール感がわかりやすい。実際の地形をもとにしているため、戦場がかなりリアリスティックに感じられる。
4. 電子戦・情報戦
部隊が無線や電子機器を使用した際に発生する「電子的な痕跡」を抽象的に表したものとして、ETX(電子通信)マーカーが登場します。
自軍が間接射撃を実施したり、事前プロットした命令からの変更(新規命令の発信)といったアクションを行うと、相手プレイヤーはETXマーカーをランダムドローします。マーカーには0~2の数値が書かれており、ドローしたプレイヤーは戦闘解決の際の修正値として任意のタイミングで使用できます。
またETXマーカーとは別に、毎ターン両軍がそれぞれランダムにドローするEW(電子戦)チットが登場します。これは戦術レベルでの電子的な妨害や支援に関するランダムイベントですが、EWチットのドロー枚数も、ETXマーカーのポイントが多い方が追加で1枚ドローできるようになっています。
つまり、間接射撃や命令の変更を行うことで、戦場ではその分通信を多用することになり、相手から発見され攻撃されやすくなる、相手に攻撃のチャンスを与えることを表現しています。事前プロットシステムとあいまってこのペナルティの処理は他ではみることがないシステムで、うまいデザインではないでしょうか。
基本システム
ここまで特徴的な要素を紹介してきましたが、ベースとなる移動・戦闘といったルールはオーソドックスな内容で、総じてシステムの難易度も高くありません。戦術級ゲームの経験者であれば、スムーズに理解できるレベルです。
ユニット
各ユニットには火力として、「対人(非装甲)」目標に対する数値と「対戦車(装甲)」目標に対する数値があります。歩兵小隊などの歩兵ユニットは自前の火力値の他、歩兵携行型対戦車兵器を保有しているものがあり、盤面では特徴的な三角形のマーカーによって表現されます。
歩兵携行型対戦車兵器には、例えばウクライナ戦争で有名になったJavelinやNLAW(エンロー)が登場します。対するロシア側にはRPGが登場します。発射回数が制限される点は、運用において最も配慮しなければならない事項でしょう。
歩兵の対戦車兵器が別ユニット化されているのは、往年の『SQUAD LEADER』でパンツァーファウストやバズーカーなどが独立したユニットとして表現されていたことを想起させられて良いですね。
現用兵器の性能向上によりユニットの攻撃可能範囲が広がっているのも、WWⅡ時代の戦術級ゲームに慣れているプレイヤーには新鮮ではないでしょうか。
- 歩兵ユニットのLOS距離: 最大3000メートル(偵察部隊は4000メートル)
- 歩兵の携行火器の射程: 1000メートル
- NLAWの射程: 1000メートル
- Javelinの射程: 3000メートル

疎林の中に設けた陣地でロシア軍を待ち受けるNATO軍の歩兵小隊(2個)。
ユニットの向きには意味はないが、ユニットがマップ上の地形にどこまでかかっているかによってユニットが存在する地形が判定される(50%ルール)。
置かれているマーカー類の説明は次の通り。
「OVERWATCH」(監視状態=敵のアクションにあわせて「反応射撃」が可能)状態で、陣地内に位置している(=「SHELL SCRAPERS」)ことを表す。「TGp1」は、「タクティカルグループ1」を表し、これらのユニットは同じタクティカルグループとして行動をプロットされている。黄色の三角のマーカーは歩兵携行対戦車兵器(この場合はNLAW)を表す。四角の中に記された1の数字は射程(1,000m=10cm)を表す。
戦闘
戦闘には、「直接射撃」、「間接射撃」、「突撃」の3種類があります。
「直接射撃」は部隊ユニットが相手を直接視認できる(LOSを設定できる)場合の攻撃手法、「間接射撃」は他の偵察用ドローンを含む他の友軍ユニットが視認できる位置にいる敵に対する攻撃。本作における「突撃」はやや概念が広く、歩兵同士の白兵戦だけではなく、車輌ユニット等も含めた近接攻撃を含んでいるようです。
戦闘解決は戦闘種類毎に用意された専用の解決表を用い2D6で判定されます。戦闘解決の際、各種修正が施されます。
- ユニットの訓練度
- ユニットの士気状態
- 各種マーカーによる修正
- 地形効果(防御)
- ETX(電子通信)マーカーから得られるポイント など
間接射撃
間接射撃は、盤内に配置された砲兵ユニット(迫撃砲小隊)、盤外のより大きな火砲、または攻撃用ドローン(FPV)から行われます。攻撃用ドローン以外は直接目標に対してLOS(視線)を設定せず、観測できる味方ユニットを介して目標を視認し攻撃します。この際の観測に「偵察用ドローン」を用いることができるため、マップ上のどのユニットも攻撃目標になり得ます(隠れることができる場所はありません!)
突撃
部隊ユニットが実施できるアクションのひとつとして「突撃」があります。
「突撃」アクションは1,000メートル以内の場所にいる敵ユニットを指定して宣言を行います。
詳しい説明は省きますが、「突撃」を宣言された相手ユニットは反応射撃を行うことができ、付近にいる味方部隊ユニットも戦闘に呼び寄せることができるなど、なかなか楽しい(盛りあがる)処理になっています。
上級ルール:弾薬管理
上級ルールでは弾薬ルールが加わり、各ユニットが携行する弾薬に残数が設定されます。突撃アクションを行うと弾薬の消費量が増えます。なお、歩兵携帯型対戦車兵器はマーカー毎に最大2発しか射撃できません。
(つづく)
1980年代に危惧されたワルシャワ条約機構軍による西ヨーロッパ侵攻を作戦戦術級レベルで扱った作品。ユニットスケールは中隊規模なので、今回の作品と比べると1レベル大きなレベルとなる。
1980年代に想定されていたのは大規模な戦線突破を伴う戦闘だが、2030年代に想定されているのは小規模(大隊~旅団)規模での局所的な機動戦と想定している戦闘の内容が異なる
1980年代に危惧されていたワルシャワ条約機構軍による西ヨーロッパ侵攻を今回作品と同じ、ユニットスケールが小隊規模で扱った戦術級ゲーム。
作戦開始にあたって相手の戦力や作戦意図は秘匿され、手探りで展開していくプレイ感が良く、緊張感のある展開を楽しめる。C2(Command & Control)要素もややとってつけ感はあるがルール化されている。
M1エイブラムスがやたらと強いのが玉にキズ?
想定している時代は2030年代と今回作品と被っており、舞台もバルト海周辺とかなり近いところにおける戦闘を扱っている。カードとして登場する各種の最新兵器では、ドローンや電子戦を含んだ様々な現代戦の要素を含んでいる。
一方で今回作品が陸戦に特化しているのに対し、本作は陸海空の三軍を扱っている。陸上兵力のユニットスケールは本作と同じ小隊単位ではあるが、描写の詳細度は今回作品のほうがはるかに細かい。
事前プロット制ではないが、どのような装備を揃えるかという検討が必要なため、プレイ開始前にかなり時間を要する点は今回作品にも通じる。