Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

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「GUADALAJARA」(MMP)を試す(2/3)ゲームの紹介

スペイン内戦を題材にした作戦級ゲーム、MMP社のStandard Combat シリーズから、「GUADALAJARA」を試してみた。

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国際旅団の兵士写真。ファシズムからスペインを守るという大義名分のもと世界中から義勇兵として参加してきた男たち。国別出身者ごとに大隊が編成されたことから、このゲームの中でも国際旅団のユニットは国別に国旗があしらわれたデザインになっている。
イタリア人義勇兵で構成されたガルバルディ大隊は、グアダラハラの戦いでイタリア遠征軍相手に勝利した際に、ムッソリーニが派遣したイタリア正規軍の兵士たちに共和国軍に加わるように誘ったという。
ちなみに国際旅団に参加した日本人が戦死者1名の他数人はいたと伝わっているが詳細は不明。戦前日本から遠く欧州で義勇兵になるというのは留学・遊学などで現地に渡っている人たちだけではないかなと思うと、非常にレア。
集まった義勇兵の純粋な思いとはうらはらに国際旅団自体の実態はソ連の傀儡組織と言われており、戦争が進むにつれその正体を現し、最後のほうは共和国でもその存在を持て余したという。
NHKの傑作ドキュメンタリー「映像の世紀」の中では、国際旅団に参加した兵士たちはパスポートをとりあげられていたため、部隊の解散後、母国に帰るに帰れなくなったと一節触れられていたが、フランコ政権下のスペインでどうしたのだろう、と思うと暗澹としてしまう。

 

スタンダードコンバットシリーズ(SCS)の紹介

スタンダードコンバットシリーズは、簡単な共通ルールをベースに「経験者から初心者まで、素早く覚えることができ、シンプルにプレイを楽しむことができる」とうたい様々な戦場を扱ってきた連作ゲーム。ウォーゲーム経験者であれば標準的な(クラシカルともいう)ウォーゲームのルールのからアレンジされている部分だけを確認すればすぐにプレイできる。ルールブック冒頭から「ルールをざっと読んだら、何よりユニットを並べて楽しんで欲しい」と書いてある。
デザイナーズノートでも、「夕方にビールとプレッツェルを片手に、じゃあやろうか、的なノリではじめることができる気楽なゲーム」だ、と言っている。

特徴的なルールとしてはZOCの制約が弱い点がある。敵ZOCに入る際に+2移動力を消費するが、その追加移動力を消費できれば敵ZOCから敵ZOCへの移動も可能である。また戦闘結果による後退時の敵ZOCの影響、補給線に与える影響なども通常のゲーム感覚とは異なる。

最もユニークな点は、戦闘力比を計算する際の計算方法だ。通常のゲームのように戦闘比率の計算時の端数処理が防御側に有利になるように切り下げまたは切り上げを行うのではなく、四捨五入を行う。正確にいうと、攻撃側の数字と防御側の数字を比べて小さい方の数字でもう一方の数字を割った後、四捨五入を行うことになる。
この計算方法自体は、同じMMP社からリリースされているOCS(オペレーションコンバットシリーズ)でも採用されている。*1

他にはオーバーラン攻撃、「移動」「戦闘」を行った後にさらに一部のユニットに認められている「突破移動」といったルールもあるが、複雑なものではない。

「GUADALAJARA」の紹介

マドリッドを奪取し、スペイン内戦を速やかに終結させることを最終目的として、イタリア正規軍からなる遠征軍(CTV)がグアダラハラに向けて開始した作戦を描いた。共和国軍の予想外の厳しい抵抗により作戦は失敗に終わり、ナショナリスト派は首都占領を諦め、勝利を宣言するために国全体を占領するという長い道のりを歩まざるを得なくなった。

yuishika.hatenablog.com

 

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実際の地図にゲームの範囲をあてはめると上図のようになる(地図上の青い四角の枠、ただし精緻な範囲ではないので目安)。

ムッソリーニ率いるイタリア遠征軍やフランコ将軍率いるナショナリスト軍はゲームマップの右側(北東方面)より侵攻を開始し、ゲームマップを右から左に走る幹線道路を突破し、グアダラハラ(緑の蛍光ペンで示した町)を目指す。グアダラハラの先には、首都マドリッドがあるという位置関係だ。地図を見てわかる通り、ゲームタイトルになっている戦いの名称となったグアダラハラの町は、ゲームマップ上には登場しない。

マドリッドからグアダラハラの町までの距離は約50キロ。
東京から北東方面に50キロの距離と言えば、茨城県牛久あたりになる。ゲームスタート時のイタリア遠征軍・ナショナリスト軍の前線はグアダラハラから北東に50キロ程度のラインになる。牛久から北東50キロを言えば、水戸あたりだろうか。
例えると、水戸から侵攻してきたイタリア軍ナショナリスト軍に対して、牛久の少し先あたりで共和国軍が迎撃したという戦いといえるかもしれない。 

1ターン=1日
1ヘックス=1キロ
1ユニット=中隊~大隊(主力は大隊規模)

シナリオは4種類
ナショナリスト派の侵攻にはじまり共和国軍の反撃までの11日間を扱うキャンペーンゲームから、戦役の一部だけを扱うショートシナリオあわせて4シナリオが用意されている。

ユニット数は多くはないが、スペイン内戦の複雑な内情を反映して主義主張や出身母体毎に編成された部隊は多彩でそれぞれの出自毎に色分けされているためユニットがカラフル。
ナショナリスト派は、ナショナリスト軍(Spanish Nationalist Army)、ファランヘ党軍(ファランジスト/Falangist)、カルロス主義派軍(カルロス民兵:Carlism)、イタリア遠征軍、イタリア義勇兵

共和国側は、人民共和国軍、共産党軍、無政府主義者軍(イベリア・アナーキスト連盟:CNT・FAI)、国際旅団などなど。

 

「GUADALAJARA」専用ルール

専用ルールがけっこうしっかりと用意されている。基本ルールだけであれば難易度は初級クラスだが、専用ルールを適用すると中級クラスに足がかかるといった印象(OCSが中級の上だとすると、本ゲームは10段階の4とか?)

ルール量も多く、煩雑であったため、専用ルール部分は自家製和訳を作るハメになってしまった(ソロをするぞ!と宣言してから時間を要したのはこれが理由。読む分にはいいが、プレイ中などに後からルールを参照する際に、標準ルールと専用ルールが別個になっているのは、記述箇所を探したり、細かい適用条件や、ダイスの目の修正値などを探すのが面倒だったりする)。

 

専用ルールの中でも目を引くのは、戦車、装甲ユニットに関するルール。
デザインノート言うところの「・・・未発達な戦術や隊形、低い機械的信頼性、貧弱な装甲と武装、経験不足な乗員・・」といった事を背景に、”残念な”ルールが用意されている。
対戦車戦闘に不慣れだったり、有効な対戦車兵器を保有していなかった当時の軍隊を表すため、装甲ユニットが参加する戦闘にダイスの目修正がつく一方で、無限軌道を装備しているクセに不整地走行が苦手で道路上にいない場合は機動力を十分に発揮できなかったり、戦闘に参加後には特別に故障チェックを行う必要があったり(修理は可能)といったルールが並ぶ。装甲車両を有する部隊は通常の歩兵のような戦闘ユニットと異なり、戦闘力/攻撃力を持たず、歩兵ユニット等と(必ず)いっしょに戦闘に参加することでダイス修正を行うことができるという存在として扱われる。単独で戦闘を起こすことはできない。

このゲームに登場する戦車の大部分は、イタリア軍が持ち込んだC.V.33(後にL3と改名)になるが、ゲーム内でも表現されているように、弱武装・弱装甲・前方のみの射界など実戦において問題が多い車体であった。 

「CV33 ガルパン」の画像検索結果

ja.wikipedia.org

 

 

 

他にも追加されるルールとしては、航空支援(直協支援/水平爆撃/交通妨害)、砲撃支援、火炎放射器装備部隊、部隊の再編、突破部隊の指定、トラック輸送、また国別、軍隊別のルールも用意されている。特にイタリア軍は異郷の地への遠征軍ということもあり有数の戦力を誇りながらも様々な制約が課せられている。

 

プレイ

キャンペーンシナリオを選んだ。

勝利条件はポイント制。地図内にかなりの数の村があるのだが、重要度が高い村には点数がついており(1~5ポイント)、占領した村のポイントの合算で比較する。
30ポイントでドロー、46ポイントを超えるとナショナリスト派の勝利だ。
史実に照らせばナショナリスト党は前半進撃し、後半共和国軍の反撃にあうことを考えると、前半戦でどれだけ多くの村を占拠できるかにかかっているということだろう。村の平均ポイントが2~3ポイントだとすると、目安として10を超える村々を占領していく必要があるということだろうか。

初期配置

初期配置位置は一線部隊は、連隊単位でおおよそ決まっており、指定されたヘックスから1~5ヘックス以内に配置というパターンが多い。マップは欧州内ということもあって、かなり多くの道路や鉄道が走っている。

専用ルールにより補給ルートとして道路ヘックスから大きく外れることができないため、進行ルートは道路を中心としたものにならざるを得ない。
戦車は上記のとおり様々制約を設けられており、移動においても不整地走行が苦手という性能にすぎないため(もとより、トラックなどの装輪/自動車化ユニットは不整地走行は苦手)、進行ルートは道路・鉄道に沿ったものにならざるを得ないことになる。

 

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*1:なぜ切り上げ・切り下げではなく四捨五入かという理由もデザイナーズノートに記述があるが、なかなか頷ける理由であった。