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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム

「Golan '73」(GMT)を対戦する(1/2)

GMT GamesのFast Action Battle シリーズから「Golan '73」を対戦した。コマンドマガジン135号で本ゲームの紹介記事を書かれているMさんにお相手いただいた。

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Fast Action Battleシリーズとは

同シリーズは「The Bulge」、「Sicily」と発売され、本作は3作目となる。現在4作目にあたる「Crusader」がGMT Games社のHP上でP500の中の1作として予告・プレオーダーを受け付けている(なかなか発売されていないという話もあるようだが・・)。

1ユニットが連隊から師団単位になっており、木製の積み木ユニットを使う。マップはエリア方式。1ターンは1日から数日(Golan'73では1日*1)。ブロックの数は多くはなく、本ゲームでは両軍あわせて60駒少々となる(ゲーム内ではブロック駒以外にも、砲兵、工兵などの支援部隊を表す紙製ユニットの部隊駒が別途登場する。後述)。
難易度は初級、プレイ時間は4~5時間とされている。

www.gmtgames.com

 

Golan '73について

第4次中東戦争における激戦地のひとつゴラン高原におけるシリア軍とイスラエル軍の戦いを扱う。

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マップはエリア方式。精緻に描かれた地図と落ち着いたカラーリングの美しいマップ。
地形の違いは、エリア番号を表す数字を囲む形によって表されている(丸、四角、六角形、三角と順に地形効果が高くなる)。直感的にはわかりづらい・・。
ブロック駒は緑色がシリア軍、青色がイスラエル軍を表す。せっかくのマップデザインなので、カラーリングが原色系なのが少々そぐわない気がしないでもない。

戦闘は両軍が同一エリア内に位置した際に発生するが、ゲームは10月6日、シリア軍が停戦協定ラインを超えてイスラエル軍監視エリアに侵入したところ(侵攻による最初の移動を終了させた時点)から始まり、第1ターンについては移動フェイズをスキップして戦闘フェイズから開始することになる。

 

ゲームの手順はオーソドックスなターン制。

移動フェイズに予備ユニットとして指定されたユニットは、相手プレイヤーターン途中に挟まれるリアクションフェイズでの移動や戦闘、または自分のプレイヤーターンの後半に置かれた突破移動・戦闘が可能となるため、戦線の突破にはその活用は必須。

また「リソース」と呼ばれる紙ユニットで表される部隊の存在もユニーク。積み木ユニットによる部隊とは別に、準備砲撃を行う砲兵部隊、航空支援を行う航空部隊、また戦車壕への架橋や地雷原除去などで必須となる工兵部隊、攻撃力の増強や損害の吸収に使える独立系の歩兵部隊や機甲部隊といった補助部隊を表している。

「リソース」は各ターンに両軍決められた数をランダムに引き、そのターン中に種類に応じたタイミングで使うことができるようになる。使用された「リソース」はランダムプールに戻される(使わなければ手元に残したまま次ターンに持ち越すことも可能)。

各ターンに得られる支援砲撃や航空支援の攻撃力をダイスを振らせてランダムに決めるゲームがあるが、それをチット化したと言うことができるかもしれない。

さらにこの「リソース」には、イベントチップや、プレイヤーに+αの恩恵をもたらす特殊能力のチットも混じっているため、毎ターンの「リソース」の”引き”はゲームに影響を与える。

 

戦闘はファイアパワー方式。火力分の個数のダイスを振り成功値以下の数値が出ると相手に損害(ステップロス)を与える。成功値は部隊の質(ベテラン/一般/新兵)の差、陣地や地形効果、航空支援効果、装甲効果等により補正される。

戦闘は両軍のユニットが同じエリアに存在した際に発生する(はじめて同じエリアになったタイミングでは必ず戦闘は発生、前のプレイヤーターンより継続している場合は任意)。

両方のプレイヤーは手持ちの「リソース」からその戦闘の支援に使う「リソース」を選ぶ。一度の戦闘に適用できる「リソース」の数は上限があるが、一度戦闘支援を行った「リソース」は使用したことになり、ランダムプールに戻されることから、そのターンの中で各「リソース」をそれぞれの戦闘に割り当てるかが、考えどころであり、またプレイヤー間の駆け引きになる。

思い出して欲しい、このゲームで敵の部隊ユニットは積み木ユニットのため、戦力を見ることができない(”情報収集”など相手ユニットを見ることができる能力は登場するが、通常は見ることができない)。相手の積み木ユニットの戦力を推測しながら自分の戦力を見比べ、「リソース」をどう投入して戦力のテコ入れを行うのか・・。

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GMT Games Golan'73 PlayBook より
自分が保有する「リソース」の状態を整理するために用意されたテーブルと「リソース」の例

 

各ターンで得られる「リソース」の量は各プレイヤー毎に決められている。シリア軍は最初から多くの「リソース」を利用できる他、序盤多くの「リソース」を得られるが、先細りしていく。一方のイスラエル軍は後からその量が増えてくる。

勝利条件は特定エリアの占領、また積み木ユニットの除去などによって得られるポイントによる。AARで記述するが、両軍とも途中のサドンデス条件が厳しい。

 

ゴラン高原の戦いについて(第四次中東戦争

世界的には「ヨム・キプール戦争」と呼ばれる第四次中東戦争は、ユダヤ暦で最も神聖な日とされる「ヨム・キプールの日(贖罪の日)」であった1973年10月6日に、エジプト軍とシリア軍がそれぞれイスラエル軍を奇襲したことにより始まった。戦闘はアメリカやソ連の介入の懸念が高まった最中に発効した停戦により同年10月24日に終結するまで続いた。

本ゲームがとりあげているゴラン高原シナイ半島とあわせ激戦地となった地域で、シナイ半島ではエジプト軍、ゴラン高原ではシリア軍がアラブ側の主力となり、イスラエル軍と戦った。

f:id:yuishika:20210221085130p:plaineconomist.comより引用
ゴラン高原がどこにあるかというと上図がわかりやすい。

東西の幅が30キロもないようなので自動車化された部隊であればひとまたぎに見える。高原の北辺にはゲーム内でも要地となっているヘルモン山がある。ちなみにヘルモン山は北イスラエルで唯一のスキー場として観光案内が紹介されている。麓には十字軍時代の廃城の遺跡がある模様。

「hermon mountain」の画像検索結果

シリア軍は前線に3個歩兵師団を置き、各師団は機甲1個旅団が増強されていた。さらに後方には2個機甲師団が控えていた。展開兵力の合計は8万人、戦車1500両、砲1000門だった*2。装備戦車はT55とT62。

作戦計画では北翼の第7師団が停戦ラインを超え侵攻、その後中央から南翼に布陣した第5師団、第9師団が突破、開戦2日目夕刻までにはヨルダン川西岸に達する(=ゴラン高原を横断する)計画であったという。

対するイスラエル軍は停戦ライン上の警備部隊の他、2個機甲旅団が主力であり、兵力3000人、戦車180両、砲60門の規模であった。装備戦車はM60パットン、センチュリオン

A map of the fighting on the Golan Heights (USMA Department of History/Wikimedia)

Wikipedia(English)より

10月6日14時、シリア軍の前衛は空爆と準備砲撃の後、停戦ライン("パープルライン")を超え進撃を開始。同じタイミングでイスラエル軍の観測所があったヘルモン山空挺部隊が降下占領する。*3

シリア軍の攻撃にイスラエル軍は不意を突かれる形となり、数と勢いにおいて圧倒的に劣勢な状況にも関わらず奮戦した。イスラエル軍は動員が完了した部隊から逐次投入を行いシリア軍の攻撃をしのぎ続ける。

シリア軍北翼を担った第7師団は休戦ラインを超えた後、西進しクネイトラ峡谷(=通称「涙の谷」?)でハルダウンしたイスラエル軍戦車の迎撃を受ける。シリア軍は6日から9日にかけ攻撃を続け、イスラエル軍の第7機甲旅団を壊滅寸前まで追い詰めるが、イスラエル軍が増援を得たことでシリア軍側が後退をはじめることとなった。*4

中央・南部の戦線を担ったシリア軍第5・第9歩兵師団の攻撃に対し、防衛側のイスラエル軍第188機甲旅団は戦闘正面が広すぎたこともあり比較的容易に突破され、7日には後方のナファク基地にまでシリア軍が突入する事態となる。ただここでもイスラエル軍は増援を逐次投入していき、最後にはシリア軍を押し返す。

イスラエル軍は8日に南翼で増援として投入された2個師団により本格的に反撃を開始。10日までにシリア軍をゴラン高原から追い出した。
11日、イスラエル軍は北翼よりシリア領への逆侵攻を開始する。 

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初期配置状態。
画面右手が北側になる。2色のユニットが並んでいる間あたりで左右に走っている太めのラインが休戦ラインでありイスラエル軍は戦車壕を設けた。シリア軍は侵攻開始に伴い車両通行を容易にするため、ここに戦車橋を架けていく(ゲーム内でも工兵部隊の重要な役割として戦車壕への架橋がある)。
ヘルモン山イスラエルの観測所があった場所でシリア軍は空挺部隊により占拠する。ナファクと涙の谷はいずれも激戦地で両軍の戦車が多数撃破された場所。*5
ゲームではこの3ヶ所はいずれも得点エリア(赤と黄色の星印が表記)になっているため、シリア軍は必然的にここを目指して侵攻する必要がある。
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ウィキペディアより
2010年に撮影された「涙の谷」の風景。南北2キロ、東西1.2キロの窪地地帯。シリア軍第7師団はこの地域の突破を図ったが、その攻撃はことごとく失敗する。 

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戦車壕と擱座(?)して放棄されたシリア軍戦車。奥に橋桁が外れた戦車橋と横転した車両が見える。

 

(つづく)

 

 

yuishika.hatenablog.com

 

 

第1次中東戦争からの戦史、装備兵器の紹介、戦術ドクトリン、主要人物伝と盛りだくさんの内容なのでひとつひとつの記事の記述は多くはない。全体感を得るには良い感じ。

 

ヨムキプール戦争全史

ヨムキプール戦争全史

 
中東戦争全史 (学研M文庫)
 

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*1:ただし第1ターン・第2ターンは変則的な構成になっている。後述

*2:このあたりの数値は参照する資料によって異なる。

*3:もともと航空支援を前提としていたイスラエル軍は砲兵部隊が少ない編成であったが、シナイ半島でも猛威を奮ったアラブ側のSAM部隊により航空部隊による近接航空支援を封じられたことに加え、ヘルモン山の観測所を失った事により砲兵隊は効力を減退させてしまう。

*4:この前日にシリア軍の先鋒を担った師団の師団長が戦死したこと、イスラエル軍の少数の増援戦車を実体以上の数の増援と見誤った事などが原因にある模様。

*5:蛇足だが英文ウィキの第四次中東戦争の記事では「涙の谷」という言い方はせず、地名からクネイトラ峡谷という言い方をしている。このあたりの日本人との情緒との違いかな?(なお英文ウィキにも涙の谷の項目は別途ある)