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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「関ヶ原」(バンダイ)を試す

 

積みゲー解消月間も残り少なくなりつつある中、短時間にこなすことができそうな低難易度ゲームとしてバンダイ関ヶ原」を引っ張り出してきました。
バンダイというと「宇宙戦艦ヤマト」はかなりおもしろく遊んでいた覚えがあるのですが、それ以外のゲームは往年のタクテクスでもほとんど取り上げられてなかった事情もあり、知ることも少なく正直不案内でした。

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今回のプレイ結果まとめ

評価したい点

  1. ダイス・CRTを使わずカードを用いた戦闘解決システム
  2. マップが美しい点

むむむ・・だった点

  1. ゲームシステムと勝利条件等との詰めの甘さ
  2. 運の要素が強いブラッディーな戦闘
  3. 勝利条件・参戦条件

    これは個人的なものですが
  4. カードシステムのためソロ不向き

 

ゲーム概要

ゲームスケール

ゲームは関ヶ原の戦いが行われたと言われる関ヶ原盆地をマップ左手におき、実際の戦闘には参加しなかった毛利勢や長宗我部勢がいた南宮山東山麓までを含んだ、いわゆる関ヶ原の戦いとして一般的に言われていた範囲が含まれています。
ゲームスケールは1ユニット=2000人。
1ヘックスは実際の地図と比べると100~200メートルでしょうか。また1ターンは1時間です。
ゲームシーケンスは東軍先攻で移動-戦闘のオーソドックスなスタイル。
ZOC有り、マストアタック。
戦闘システムは独特でダイスや戦闘結果表ではなく、数字が書かれたカードを用いて結果判定を行います(詳細後述)。

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マップ

考慮しないといけない地形は山地(濃い茶色の線で囲われた部分)と河川のみで必要移動力が2となり、それ以外の地形は1移動力になります。マップ上はもっと様々な地形があるように見えますが、色だけの違いです。
戦闘においては河川ヘックスにいるユニットは川の中で戦っているということで戦闘力がー1されます。
変わったルールとして、地形の判定でもめたときには両プレイヤーのジャンケンで決めてくださいとあります。

移動

スタックは移動途中また戦闘結果による「後退」途中においても認められていません。移動途中のスタック制限のため特に関ヶ原盆地上は敵味方の押し合いへし合いになります。
むやみに密接しすぎると「後退」の際に退路を確保できずに除去となる懸念があるので注意が必要です。
ZOCルールは一般的な内容です。

ユニット

ユニットには武将名がはいった武将コマと武将名はなく所属する大名家の名称がはいった兵士コマがありますが、武将コマに特別な機能が付与されているといった性能差はありません。単に武将を含んだ部隊とその他部隊といった違いになります。
兵士コマには、騎馬武者・鉄砲足軽・弓足軽・槍足軽といった兵種のシルエットが記載されています。ただし兵種による機能差はなく、各ユニットの性能を表す移動力や戦闘力が兵種によって差がつけられています。例えば、鉄砲足軽は移動力2・戦闘力5、騎馬武者は移動力5・戦闘力3といったような違いです。
大名家や武将によっては若干の差はあるようですが極端な違いはないです。石田三成島津義弘等の一部武将コマが通常の兵士コマや他の武将コマよりも戦闘力が1多いといった程度の違いなので、戦闘解決に用いるカードの数値で簡単にひっくり返ってしまいます。
武将コマは基本的には大名なのですが、石田家だけは家老である島左近、蒲生郷舎が独立した武将コマとして登場しています。また大谷家は大谷吉継の他、子の大谷義勝のユニットが登場します。いずれも武将ユニットに特殊機能はありませんので飾りでしかないです。
東軍には大名以外の武将ユニットはなかったように思います。

戦闘システム

このゲームの一番の特色は戦闘システムです。
ダイスとCRTを用いたものではなく、カードを用いて戦闘解決を行います。
東軍・西軍それぞれ1から9までの数値が記載された40枚のカード(最頻値は5で、1と9が最も出る確率が低い)があり山札とします。両軍プレイヤーはそれぞれの山札から5枚のカードをドローし手札とします。
戦闘が発生すると両プレイヤーは手札から1枚のカードを選びその場に出します。カードに記載された数値を戦闘に参加したユニットの戦闘力合計に足し、合計値の差を算定します。

  • 差が3以上の場合:小さいほうの数値の側はユニットを除去、
  • 差が1~2の場合:小さいほうの数値の側のユニットは5ヘックス後退
  • 数値が同じ場合:再度カードを出し合い勝敗が決するまで繰り返し

手札を使い切ったところで山札から5枚ずつ補充します。
戦闘処理の順番は攻撃側が指定するので、その順番を確認した上でどの順番でカードを出すのかを決める必要があります。手札にある中でどの戦闘に力をいれる(大きな数値カード)のか、また逆に小さな数値のカードをいつ消費するのかという捨て試合をどこにするのかも含め、カード繰りやカードの読み合いが発生します。
なお戦闘後前進については特に言及はないのでないものと判断しています。

シナリオ設定

特にバリエーションやIFシナリオが用意されているわけではないです。よって豊臣秀頼徳川秀忠の参戦や立花宗茂や前田軍の登場、島津軍の増強などはありません。
初期配置位置は明治期に編纂された「日本戦史 関ヶ原役」に依拠した教科書などでも記載されていたりする有名な布陣になっています。ただしこの布陣については信憑性が薄いという話もあるようなのですが、まぁ最も流布された配置ということなのでしょう。
初期配置位置は上記の史料に基づき、武将コマの配置位置だけが決まっており、兵士コマは所属する大名家の武将コマの周囲に配置することになっています。
ツイッターでいただいたコメントで「セットアップ時の眺めが壮観」とありました。まったくの同意です。はからずもコマ台に立てられたユニットが旗指し物のように見えなくもありません。 

勝利条件

勝利条件は以下のいずれか

  • 敵コマを合計30戦力超除去した場合
  • 徳川家康のコマが除去された場合
  • 10ターン終了時に盤上に残った戦力の合計値の比較

参戦条件

このゲームを取り上げた際の一番の関心は、関ヶ原の戦いを特徴づける小早川秀秋の寝返り、西軍の日和見勢の参戦がどのように表現されているかでした。
ゲームに登場する東西の軍勢は以下の5つのグループに分けらており、それぞれについて戦闘に参加するための条件が定められています。

  1. 西軍の主戦部隊(石田三成宇喜多秀家大谷吉継など)。関ヶ原盆地にあり、グループ2と対峙している状態です。
  2. 東軍の主戦部隊(福島正則黒田長政松平忠吉井伊直政など)。関ヶ原盆地にありグループ1と対峙している状態です。
  3. 西軍の予備部隊(毛利秀元吉川広家長曽我部盛親など南宮山東山麓に布陣した部隊)。盤面写真の右側下にいる青色の2つの集団です。
  4. 東軍の予備部隊(徳川家康と旗本衆、浅野幸長池田輝政など桃配山または南宮山北側に布陣した部隊)。盤面写真で”徳川家康 旗本衆”と書いたグループとその右側にいる赤色の部隊です。
  5. 中立部隊(小早川秀秋など松尾山に布陣した部隊)。盤面写真では左側下にいる黄色のグループです。

1と2についてはゲーム開始時から戦闘状態にあります。
3については1が4に対して攻撃を仕掛ける回より戦闘状態にはいることができます
4については1が攻撃を仕掛けた際から戦闘状態にはいることができます。
5については敵軍のユニットを除去する毎にカード(さきほどの戦闘解決に用いるカードです)をドローし、そのポイントが東軍60ポイント、西軍80ポイントを超えると超えた側に参戦します。

その他・コンポーネント

マップはハードマップです。当時はアバロンヒルをはじめ国内のツクダやホビージャパンのゲームなどハードマップを採用していたところが多かったですが、本ゲームのマップもしっかり豪華につくってあります。マップ上のデザインもきれいです。
ユニットはコマ台にたてためにかなり分厚くなっています。
問題は色で、東軍の前衛部隊の“赤”と予備部隊の“薄赤”との区別がつきません。
ユニットについてはもうひとつユニットが持つ数値は移動力と戦闘力の2つです。これが「移動力」-「戦闘力」の順に書いてあるため非常に紛らわしく、最初混同してしまいます。

バンダイ製ゲーム名物 ”コマ台”と”参棒”

コマ台に立てたユニットは、上からつまみやすいという利点はあるものの、見にくいです。写真も撮りにくいです。さらにこのゲーム場合は、各ユニットが所属する大名家の表示がコマ台のプラスティック部分にかぶるように印字されているため、読み取りにくくなっているという難点もあります(実務的には各ユニットの所属大名が問題になるのは初期配置だけではありますが、でもやっぱりゲーム途中でもどの部隊がどこにいるというのは見てみたいですよねぇ)。
”参棒”については柄が短すぎるので実用には供し得ません。

 

プレイ

カード繰りの部分はソロプレイに向きませんが、いちおうそれぞれの軍の立場でそのターンに発生する戦闘の優先順位をつけ、カードを割り当てるという自分ルールを用いました。

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第1~2ターン

主戦場となる関ヶ原では北側を伊吹山山麓、また南側を小早川秀秋等の中立勢が陣取る松尾山でそれぞれ塞がれているため、翼端から回り込むことは不可能です。よって両軍のユニットが戦線上にびっしり並び、正面から激突することになります。
東軍・西軍双方から前進することで戦闘がはじまります。
1回の移動でいきなり接敵できるわけではないので先攻の東軍が不利な印象です。初期配置で工夫する必要があるかもしれません。

マストアタックのため隣接した全ての敵ユニットを攻撃しようとすると1ユニット対1ユニットの組み合わせになる点、また手札のカードの中には数値が小さいカードも必ず混じるため、戦闘の組み合わせは捨てる戦闘と強調する戦闘とを作っていく必要があるでしょう。
また「戦闘力」+「カードの数値」の差が3以上の場合、ユニット除去となるため、結構派手にユニットが除去されていきます。戦闘結果の数値がカード数値に依存する割合が高いので、ユニットの戦闘力が最強クラスの5のユニットでも容赦なく除去されていきますので、運の要素が強いように感じられます。

両軍の北翼は石田三成軍と黒田長政軍あたりが対峙するのですが、ちょうど間に河川(相川)がはいるため双方攻撃を躊躇します(河川ヘックスから攻撃を行うとー1の修正)。
南翼はそうした障害となる地形がないため両軍戦闘にはいります*1

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第3~ターン

作戦や戦術の巧拙というよりカードの引きとカード繰りの結果により、ユニットの除去と5ヘックス後退を強制されるユニットが多く、東軍の南翼(福島正則藤堂高虎等)に大きく穴が開きます。

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第5ターン

第4ターンには大勢は決していたのですが、5ターン目に東軍側の除去ユニットの合計戦力が30戦力を超えましたので、西軍のサドンデス勝利となりました。
松尾山の小早川勢は動かず、また東軍南翼の危機にも関わらず徳川家康本陣も動かないままになりました。
今回のプレイの中で除去された(討死?)武将は以下の通りです。

<東軍>

<西軍>

  • 戸田重政

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感想戦

予想はしていましたがほうぼうに詰めの甘さがありますね。
対戦の際には事前に詰めておいたほうがよいでしょう。

デザイン面では以下の2点が気になったのですが、色々考察していくと関ヶ原の戦いというテーマの中では致し方なかったのではないかという考えも浮かんできました。
(好意的にとらえれば、デザイナーの苦肉の策?)

戦闘システム

一定枚数の手札を持ってその中で攻撃の強弱とそのタイミング(カードを出すタイミング)をコントロールする点は可能性を感じました。
ツイッターでご意見をいただいた通り、”カードマネジメントと読み合い”がこのゲームの醍醐味だという点は首肯します。
ただ一方で手札は5枚でかつ順次使っていく必要があるため強い数値カードをいつまでも、それこそ決戦の時まで、手元に残し続けるといった操作はできません。このためカードをマネジメントする範囲よりも、”運”に任せてカードを切ることのほうが多いのではないかとも思います。
リプレイの部分にも書いたようにカードの数値によって左右される割合が高いため、作戦や戦術ではなく、ここでもカードによる”運”に任せる割合が高いように思えます。

まぁもっとも両軍の主戦部隊が激突する盆地内の戦闘はひとつの戦線の中に多数の部隊が押し合いへし合いするような戦いのため、作戦や戦術を云々するような内容でもないことも確かです。
そうした”あまり面白みのない”戦いを取り上げるにあたって、ゲーム性をもたせるために戦闘結果をブラッディーな味付けにして、”運”の要素を強調して、読み合いとカードマネジメントを楽しめるカードシステムを作ったのではないかといううがった考えも浮かんだものです。 

勝利条件・参戦条件との兼ね合い

松尾山の中立勢力を参戦させるためには敵ユニットを除去していくことでポイント貯める必要があるわけですが、その条件を満たす前にサドンデスの勝利条件(30戦力以上のユニットを除去する)が充足される可能性が高いように思います。
特に西軍側で参戦させるための80ポイントというのは非常に難しいのではないかな。
もっとも小早川秀秋が味方についたほうは戦力比でも相手を圧倒するのは必至ですから、ゲームとしては小早川勢の旗幟が明らかになる前にゲームとしての勝敗は白黒つける必要があったということなのかもしれません。

もうひとつの徳川家康本陣の参戦条件も不思議です。
西軍がこれらの東軍予備部隊と分類されているユニットを攻撃した場合に、彼らは参戦することになっています。
西軍からすると攻撃することで大量の部隊が相手側に加わってくることを考えれば、わざわざ攻撃するとは思えないですよね。特に西軍が不利な状況にあればなおのこと東軍予備部隊を攻撃することはないでしょう。
西軍有利な状況だとしても、東軍予備部隊を呼び出すまでもなく、東軍の主戦部隊をボコ殴りにしていたほうが、サドンデスの発動を考えると現実的です。

小早川勢の参戦にしても、徳川家康本陣の参戦にしてもそれらが参戦した時点で合戦としては白黒ついてしまうと考えると、ゲームとしては主戦部隊同士の戦闘で付ける必要があったということでしょうね。
じゃあ何のために小早川勢や徳川家康馬廻衆、毛利家や長宗我部家の部隊が登場しているのか、ということになっちゃいますね。

関ヶ原の戦いをテーマにデザインしているうちにいろいろ勝利条件を詰めていくと主戦部隊の勝敗でゲームとしての勝敗をつけるしかなくなった。ただ”関ヶ原の戦い”を標榜している以上、実際ゲームでは使われないかもしれないが、ユニットは収録しようか・・といったところでしょうか。

冒頭に”むむむ・・だった点”と記載していますがそれぞれ致し方ない理由があったのかもしれないな、とも思えてきました。

(おしまい)

 

 

 

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実際の関が原の戦いは全く違った様相だったのではないか、という第一特集が非常におもしろかった号です。これに対する反証もでているようですが。少なくとも今回のゲームのような両軍配置ではなかった模様です。
最近の研究として一見の価値があると考えます。

関ケ原(上) (新潮文庫)

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歴史小説での「関ヶ原」といえば定番的な作品です。

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うろ覚えですが司馬遼太郎関ヶ原」を下敷きにしたドラマです。
森繁久彌徳川家康が憎々しいこと。

司馬版「関ヶ原」では目立ったなかったような武将も含め、関ヶ原に臨む大名が各人各様に思いを抱きながら参集していく様が印象的でした。

*1:ここでルール違反を1点しています。実際は松尾山に陣取る中立勢(黄色のユニット)のZOCには両軍ユニットとも進入不可です。