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OLD SCHOOL TACTICAL Vol.3(Flyingpig Games)における太平洋戦域・日本軍ルール~日本軍はゾンビだった!

Flyingpig Games社がシリーズ化している第二次世界大戦時の戦術級ゲーム「OLD SCHOOL TACTICAL」(以降、OST)に太平洋戦域を題材にしたVol.3がリリースされました。
共通ルールはVer.5.5からVer.5.6にバージョンアップし、さらに太平洋戦域・日本軍用に専用ルールが別冊で用意され、両方ともHP上で確認できるので目を通してみました。

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ルールの変更点については青字で印字しているということだったので、共通ルールのルールブック内を探したのですが、見当たりません。図版なども前バージョンと同じだったので修正・追加は実質なかったのでしょう。

yuishika.hatenablog.com

 

共通ルールとは別に今回は、Vol.3 太平洋戦域向けに特別ルールが別冊で用意されています。
以前にアドバンスドスコードリーダー スターターキット #4 PTO(Advanced Squad Leader Starter Kit #4 PTO)で、ASLにおける日本軍ルールを見た経緯もありますので、今回この特別ルールを元にOSTにおける日本軍ルール・太平洋戦域ルールを見てみたいと思います。

yuishika.hatenablog.com

 

日本軍ルール

特別ルール、冒頭から飛ばします。

”日本軍は指導者や天皇に対する盲目的(unthinking)な服従に裏打ちされた名誉の掟(a code of honor)に従っていた。戦場での死は名誉であり、降伏は論外でした。”

特別ルールによると次の通りの対応になっています。

  1. ユニットは動揺(Shaken)や士気阻喪(Broken)状態にはなりません。ただ損耗状態(Casualties)の損害のみを受けます
  2. 日本軍は”Gut Check”値をもっていません。(補記:士気チェックの値が設定されていない)。
  3. 歩兵戦闘表(ICT)や車輌戦闘表(VCT)での、動揺(Shaken)・士気阻喪(Broken)の結果は無視します

ASLでの日本兵は士気チェックに失敗すると、「混乱」(一時的な戦闘不能状態)に陥る代わりに、戦力を損耗させて戦闘を継続するという軍隊でした。
通常の国の兵の場合は士気チェックに失敗すると「混乱」するため、戦闘不能状態となり身を隠すことができるような場所に自動的に退避しなければならないのですが、日本兵にはそのような自主的な撤退や離脱は起こりません。
一方で他国兵は退避した先で指揮官に叱咤激励(回復)されることにより、再び完全戦力になって戦線に復帰する可能性があるのですが、日本兵は損耗しているため完全戦力に戻ることはないという一長一短ある性質を与えられていたものです。
損害が発生する確率は他国軍隊と同じですが、損害の内容や手順が異なるのがASLでの日本軍でした。

OSTではどうでしょうか。
考えようによってはさらに過激になっているようにも感じます。
OSTでの何らかの損害を生じる戦闘結果は、低いほうから「動揺(Shaken)」「士気阻喪(Broken)」「損耗(Casualties)」「除去(Destroyed)」となるのですが、日本軍は下2つの結果について無視することができます。
日本軍ユニットに損害が出るのは実際に戦傷や戦死によって肉体的に戦闘を継続できなくなった場合のみ、ということになります。

損害に関する特別ルールにより日本軍の場合の損害発生割合がどの程度、少なくなっているかを計算してみました。

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歩兵戦闘表から「火力-防御力-地形効果等」の数値欄毎に損害が発生する確率を集計しました。
「動揺(Shaken)」と「士気阻喪(Broken)」はこの結果が出た後、士気チェック(Gut Check)を行い失敗した後に影響が発生しますので、「動揺(Shaken)」と「士気阻喪(Broken)」の発生確率については、Vol.2におけるアメリカ軍のGut Checkの値の平均値7から士気チェックに失敗する確率を考慮して計算しています。
上段の表はアメリカ軍をはじめ通常の国の場合の結果、下段が日本軍になります。
※ 「C-S」「C-B」は損耗(Casualies)を受けてさらに「動揺(Shaken)」か「士気阻喪(Broken)」のチェックも行うというもの。

 

通常の軍隊において損害が発生する確率と日本軍のとを比べた差が下記表になります。

攻撃側の数値別、日本軍の損害発生確率の減少数値

-5 -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3/+4 +5/+6 +7
-5.8% -10.4% -13.9% -12.7% -12.7% -18.5% -12.7% -17.4% -10.4% -8.1% -3.5%


戦闘結果表の構成の関係で若干ばらつきはありますが、だいたい10%強程度、損害の発生が軽減されるようです。
もっともよく使う火力の値域は0から+2あたりまでですが、損害発生確率が20%近く削減されていることがわかります。
火力と防御力の差が大きくなっていくとこの削減幅は減少することからすると、日本軍に対しては圧倒的な火力をもって、士気チェックなどではなく、損耗や除去といった絶対的な損害を与えていく必要があると言えるでしょう。
冒頭の”盲目的に(unthinking)に従った”という文章に対応するとすると、日本軍はある種、戦闘ロボットと言っていいのかもしれません。

 

他にも日本軍特別ルールとして白兵戦時にダイス修正+1が挙げられています。
ただこれは微妙なところもあります。
もともとOSTの日本軍分隊ユニットは他国の通常のライフル歩兵分隊よりも火力においても防御力においても弱い数値(3)が与えられています。
日本軍はアメリカ軍よりも火力で劣る代わりに白兵戦時にダイス修正+1がはいるという訳です。

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上段の茶褐色のユニットが日本軍、下段がアメリカ軍のそれぞれ主力となるライフル分隊。数値は左から火力-射程-防御力-移動力。
まぁボルトアクションの38式歩兵銃とセミオートマのアメリカ軍の小銃とでは火力の差があるのは仕方がないことでしょう。
ユニットの話が出たので少し追加すると当然のようにアメリカ軍には海兵隊が登場します。

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アメリカ軍の海兵隊にあわせたのか、日本軍側にも海軍の陸戦隊が登場します。戦術級ゲームで日本軍の陸戦隊が登場したものははじめて見ました。SNLFは、特別海軍陸戦隊(Special Navy Land Force)の略かなと思うのですがいかがでしょうか。

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なぜか陸軍の分隊よりも防御力が1大きいです。海軍の陸戦隊はアメリ海兵隊のようにエリート部隊ではなかったし、また装備も充実していたという印象はあまりないのですが。
ちなみに各種装備(小火器・砲・車輌等)は全て陸軍のユニットを用いますので陸戦隊用の特別なものは登場しません。
 

バンザイ攻撃(Banzai Attack)

”太平洋戦域の多くの戦いにおいて日本兵は敵兵に対して熱狂的に時として自殺的な突撃を行い、名誉ある死を求めて戦いました。” 

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太平洋戦域を扱っているためバンザイ攻撃もルール化されています。
まずは概要。

  • バンザイ攻撃はシナリオを通して1度だけ発動可能
  • バンザイ攻撃を発動する指揮官を決め、その指揮官の指揮範囲内の分隊は攻撃に参加することができる。指揮範囲内に他の指揮官がいる場合、その指揮官もバンザイ攻撃に参加することができる。さらに参加した指揮官の指揮範囲内にいる分隊を攻撃に参加させることができる(バンザイ攻撃の範囲を派生的に拡大させることができる)
  • バンザイ攻撃は発動されるとシナリオの終了か、参加した全てのユニットが除去されるまで継続する
  • バンザイ攻撃を行うユニットは移動力いっぱいまで移動でき(それでも足りない場合はさらに1ヘックス分追加移動可能)、さらに同じアクションの中で、敵がいるヘックスに進入できる突撃移動まで可能。まだ既に白兵戦が発生しているヘックスに進入することができる
  • バンザイ攻撃を行うユニットはもっとも近い敵軍との接近を行う
    そのヘックスがスタック制限いっぱいの場合は次に近い敵軍ヘックスを目標として移動する
    バンザイ攻撃を行うユニットは可能な限り敵ユニットがいるヘックスに突撃移動を行う
  • バンザイ攻撃を行うユニットは射撃は不可。移動か突撃移動しかできない。移動途中に敵の機会射撃により損害が生じた場合も停止する必要はない


ASLにおけるバンザイ攻撃はシナリオ内で複数回発生させることができ、目標ヘックスを指定することで、その目標ヘックスを占拠することでいったんそのバンザイ攻撃を終了させることができました。
手練のASLプレイヤーにかかれば、例えばシナリオが指定する占領目標や途中の重要地形へ近接するための飽和攻撃を用いた手段として有効に活用されています。
言ってみればASLの中のバンザイ攻撃は、戦術手段のひとつとしてソフィストケートされているともいえると思います。

一方、OSTにおけるそれはシナリオ中、1度しか発動できず、かつシナリオ終了まで有効という終了条件からしても、究極、最後の手段としての性格が強く感じられます。
バンザイ攻撃が一度宣言され参加するユニットが指定されるとそれらのユニットは、シナリオが終了するかまたは全滅するまで、ひたすら近くの敵ユニットに向けた移動や突撃を行い、白兵戦を挑み続けることになります。
一度宣言された後は日本軍プレイヤーからもそのコントロールはできなくなると言ってもよいと思います。

前述の日本軍の損害ルールとあわせると、これってゾンビといっしょじゃね?

 

その他のルール

地形ルール

太平洋戦域ということで地形種類が追加されています。
「クナイ」「椰子の林」「椰子の残骸」「ジャングル」「砂浜」などです。

中でも最大のものは「洞窟」でしょう。

タンクキラー

残念なルールと言っていいかもしれません。
”爆弾を抱えた日本兵は自分の身を犠牲にして敵戦車の破壊を試みました”

陸軍ユニットのタンクキラーは、身体に直接爆弾を抱えたスタイル。海軍陸戦隊ユニットのタンクキラーは鉢巻をした悲壮感のあるイラストになっています。

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その他

主にアメリカ軍側の追加ルールになりますが、次のようなものが登場します。

  • 榴散弾
  • 照明弾
  • 焼夷弾(航空攻撃)

 

 

写真でわかる事典 沖縄戦

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  • 作者:平塚 柾緒
  • 発売日: 2020/03/30
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