Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「Nagashino 1575 & Shizugatake 1583」(SERIOUS HISTORICAL GAMES)を対戦する(1/2)

フランスのゲームメーカー、SERIOUS HISTORICAL GAMESがリリースした、戦国時代をテーマにした表題ゲームを対戦しました。シリーズ作品の第1巻ということで、ルールブックには、「Sengoku Jidai」と書かれています。今後共通ルールとして扱われるということなのでしょう。*1

 

 

 

 

スケール

作戦戦術級とされているのですが、マップはエリア式です。エリア=300メートル。当時の火縄銃の射程が50メートル程度とすると1エリアも射程がないことになります。1ターンは30分から45分。1ユニットは500人〜1000人規模。全体を指揮する大名や、軍団(Divisionとされ、活性化の単位)毎に大将ユニットが配置されます。今回の賤ヶ岳、長篠では、両軍とも3〜5軍団ずつの編成になります。



シーケンス

シーケンスはオーソドックスです。

  1. イニシアティブの決定
  2. 先攻プレイヤーから配下の軍団毎に交互に活性化し移動・戦闘を行う
  3. 再編成
    • 次のターンの「陣形」を決める

 

陣形と戦術マーカー

両軍は前のターンの再編成フェイズ中に次のターンの「陣形(Formation)」を決めます。戦国もので陣形というと、「魚鱗の陣」とか「鶴翼の陣」といった種類を想像してしまいますが、本ゲームでいう「陣形」は攻勢重視なのか、守勢重視なのかといった態勢を抽象的に段階設定したもので、物理的になんらかの形を表しているものではないです。

陣形には、「Extremely Aggressive」(+3)から、「Flexible」(0)を経て、「Extremely Defensive」(-3)まで7段階(!)が用意されています(( )内の数値はダイス修正値)。

「陣形」によって、イニシアティブ決定時のダイス修正値が変わり、攻撃重視の場合、イニシアティブを取りやすくなります。また、毎ターンドローする「戦術マーカー」の種類が、変わってきます。

「戦術マーカー」とは、戦闘解決の際にダイス修正に使うことができるマーカーで、自軍が攻撃側の際に使うことができるマーカー、攻守どちらの場合も使うことができるマーカー、防御の際に使うことができるマーカーの3種類があります。戦闘解決には6面ダイス2個(以降、2D6と表記)を使うのですが、最大3の修正値は大きいですね。

「戦術マーカー」は毎ターン、軍司令官のQL(Quality Level)分の枚数を引くことができるのですが(軍司令官のQLは4から5なので、4~5枚がドローされることになります)、その際、さきほどの「陣形」により引くことができるカウンターの種類が変わってきます。

「Extremely Aggressive」(+3)という攻撃に極振りした「陣形」の場合、引くことができる戦術マーカーは、攻撃を行う際にのみ使うことができるものばかりになります。代わりに修正値が大きいマーカーの割合が増えます。防御重視であれば、防御時にのみ使うことができるマーカーの枚数が増え、「Flexible」という中立的な姿勢の場合は攻守とりまぜたマーカーの中から、ドローすることになるのです。

 

兵種と諸兵科連合効果

兵士を表すユニットとして、足軽、侍、馬廻衆(ゲーム内では旗本と表記されています)、中間が登場します。

足軽は装備によって、鉄砲・弓・槍に分かれます。侍と馬廻衆は戦闘能力的にはほぼ同じで、騎乗状態と徒士の状態があります。

いずれのユニットも、白兵戦値と射撃値、QL(Quality Level)を持っています(射撃値は0のユニットもある)。

注目は中間なのですが、英文表記はChugen,説明文ではServant(従者)とされています。中間が独立したユニットとして扱われているゲームは初めてみました。

 

諸兵科連合効果ですが、戦闘に「鉄砲+弓+槍」の3種類のユニットが参加する場合、戦闘結果判定時の2D6に+2の修正、3種類のうち2種類が参加する場合は+1の修正を得ることができます。

侍と馬廻衆は諸兵科連合効果の判定時には、不足する兵種に成り変わることができます。組み合わせに「弓」がいない場合、「弓」足軽に成り変わることができるのです。

ところがここで登場するのが「中間」です。侍や馬廻衆が諸兵科連合効果判定時に他の兵種の代替になるためには、同じエリアか隣接エリアに「中間」がいる必要があります。

さらに「中間」ユニットの効果として、侍や馬廻衆のユニットが参加する戦闘で、同じエリアか隣接エリアに「中間」ユニットがいない場合、マイナスの修正がつきます!

若党/中間

ともに個々の武士が召し抱えた家来。武士に仕える武家奉公人である。通常「若党」は武士身分の者となり、中間以下は武士身分とはされない。武士が出陣するとき、騎馬の武士であると、鑓で戦うときに無防備となる鑓脇(やりわき。武士の馬の右方向)を固める家来が必要で、そのほか、鑓持ちや道具持ちなどを含めて数人の構成となる  (imdasより)

通常であれば侍ユニット、騎馬武者ユニットの中に含まれると整理されている存在が独立したユニットとされている訳です。しかもユニットの規模で、足軽や侍は1ユニット=500人規模とされているのが、中間ユニットは1ユニット=1000人規模とされていて、中間ばかり1000人もいるユニットが盤上に登場することになります。ムムム・・。なお中間は戦力的には弱小です。

諸兵科連合効果を発動させるためには兵種ユニットを集める必要があるのですが、その際にスタック制限が問題になります。通常のエリアでは3ユニット集めると制限値に近くなるので、兵種毎1ユニットずつ集めていっぱいなのです。侍や馬廻衆に代替させると中間ユニットはスタックできずに隣接した後方エリアに配置することになります。

 

長篠シナリオに登場する織田・徳川連合軍側の全ユニット。
ユニットの能力値は、左上から「白兵戦値」「射撃値」「移動力」、右下「QL(Quality Level)」となっている。
ユニット種類は右下のQLの上にあるアルファベット2文字。日本語の頭文字から2文字が構成されているので、逆にわかりにくい(例:「KH」騎馬旗本、「Ch」中間、「Da」大名、「Ya」槍足軽、等々)
軍団の分類は、右上の家紋による。家紋まできちんと記載されているのはうれしいが、少々区別がつきづらい・・・。

 

特徴的な戦闘ルール

活性化した軍団(Division)のユニットに隣接したエリアに対して戦闘を宣言することができます。攻撃を行う側に騎馬ユニットがいる場合「騎馬突撃」を宣言できます。

攻撃を受ける側(防御側)は、自軍内に射撃値をもったユニットがいた場合は、「防御射撃」を行うことができます。ユニークなのは、射撃値を使った戦闘は防御射撃が発生した時のみ起きます。攻撃側から射撃を使った戦闘は起こせないのです。

また攻撃側が宣言した「騎馬突撃」に対して、防御側はカウンターチャージ(対騎馬突撃突撃)を宣言することも可能です。

ただしこの攻撃側の攻撃ユニットの活性化から騎馬突撃、防御射撃、対騎馬突撃突撃といたプロセスのルールはやや不明確で、BGGのフォーラムには、防御射撃に関する質問が並んでおり、デザイナーからは「次作の「関ケ原」で手順を明確にする」と回答がでています。

 

戦闘解決方法はエリア内にいる全ユニット同士が戦闘を行うのではなく、攻撃側・防御側それぞれが戦闘に参加させる1ユニット、「Lead Attacker(LA)」、「Lead Defender(LD)」を選び、戦闘解決はこのLAとLDとの間で行われます。LAがLDを除去するなどいくつかの条件が成立した場合は、続けてLAは防御側の次のユニットに対して攻撃ができるのですが、そうでなければLDに対して1回の攻撃だけで終わります。

戦闘解決方法は、LALDの白兵戦値同士または射撃値同士との差をベースにして、様々な修正を施し、2D6にて決めます。

修正要素としては、白兵戦値を用いる通常の攻撃の場合は、地形効果、諸兵科連合効果、侍・馬廻衆の場合は中間ユニットの有無戦術マーカー、大名や大将ユニットの有無などかなり多くの種類の修正が積み上げられます。

ダイスの値は修正値によって大きくブレるので、戦闘にあたっては可能な限りなんらかの修正が適用できるようにユニットを集めたり、有利な地形から攻撃できるようにしたりなどの活動が発生します。

 

その他のルール

戦闘ルールの説明に多くを費やしてしまいましたので、その他の要素は簡単に。

移動には強行軍のようなものはないのですが、移動時にユニットの全移動力を消費するとQC(Quality Check)という士気チェックが強要されるので注意が必要です。

ZOCのルールも若干わかりづらいです。地形効果が高いヘックスから通常の平地などの隣接エリアにはZOCが及ぶのですが、その逆はありません。また平地同士など同じ種類の地形同士もZOCは及びません。もっとも本ゲームにおいてZOCによる束縛はあまりないので気にするほどでもないかもしれません。

再編成のルールも若干説明不足に感じました。

 

大名から大将、大将から配下ユニットへは指揮範囲にないとペナルティが発生します。オプションルールでこの指揮範囲の概念に伝令(母衣武者!)や相互に視認などの概念が登場します。ただ今回の2つのシナリオはいずれもマップが広くないのでそこまで深刻ではないでしょう。

 

ルール全般

全体的には難易度が高いルールではないですが、珍しい概念やルールも散見されます。

「陣形」から「戦術マーカー」の関係、戦闘解決のルールなどは十分に注意が必要でしょう。不明確な部分もありますし、ルールがぶれているようにみえる点もあります。適宜BGGのフォーラムなども参照されたほうがよいでしょう。

 

(つづく)

 

 

 


 

*1:BGGのフォーラム上の情報では、次作は「関ケ原」になる模様です(不確か)

「PLAN SUNSET Vol.5 SUMMER 2022」を読む

「プラン サンセット」は、シミュレーションボードゲームの販売を手掛けているサンセットゲームズが発売している雑誌で、作成がアナウンスされていたVol.5がこの度発売された。前号にあたるVol.4の発売から十数年ぶりの続刊だという。
Vol.5の特集がOCSシリーズということで、さっそく購入に至った。

OCSシリーズは、Multi Man Publishingがシリーズ化している、主に第二次世界大戦での各種の戦いをテーマに同一のゲームルールを基本とした作戦級ゲームで、当ブログでも度々対戦記事をとりあげてきた。
(当ブログでのOCS関係の記事一覧は本記事の最後に記載)。

 

裏表紙も含め(朝鮮半島ビルマ等が記載)、これまでに発売されてきたOCSの各作品毎の地域範囲が一目瞭然とわかる。なかなか再販がなされず入手困難な作品もあったりする。

 

巻頭はシリーズ中でも手頃なサイズ感(マップ1枚)で、まだ入手もしやすい「SMOLENSK」を題材にした翻訳記事。
ユニークなのは、エポック「エル・アラメイン」(「ドイツ戦車軍団」に付属)と、OCSでも最大規模かつ入手困難な1作「DAK2」との、ゲームデザイン観点での比較記事。続けて、「DAK」と同じアフリカ戦線キャンペーンを扱ったこれまた伝説級の作品、SPIの「CAMPAIGN FOR NORTH AFRICA」との比較(同記事の中には、翔企画の「NORTH AFRICA」も登場)。

これもまたビッグゲームすぎてなかなか手がつけられない「BYOND THE RHINE」の紹介もよかった。

もちろん手掛けやすい作品として、朝鮮戦争を扱った「KOREA」(当プログでも何度か紹介)をあげている。

ビッグゲームが故になかなかプレイ機会が得られない作品や、今では入手困難な作品も含めた俯瞰的な紹介は非常に興味深かった。特に各ゲームに付属しているシナリオについての比較や評価(用いるマップ枚数、ユニット数、シナリオ難易度)は今後、対戦やソロでもプレイを企画・実施していくにあたってとても参考になる内容であった。

あえて難を言えば、OCS未経験者に対するOCSルールの概要紹介などのページがあってもよかったかなとは思う。OCSの共通ルールについては日本語化ルールが無料公開されているので、そちらを読めということかもしれないが、本誌を十二分に楽しむ上では提供してもよかったのではないかということだ。

いまやコンスタントに作品がリリースされ続けている一大シリーズとなったOCSの特集した雑誌ということで、世界中を探してもなかなかない仕立てなのではないかと思う。OCSフリークはもちろんのこと、今後作戦級ゲームを扱おうとされているプレイヤーなら必携の一冊だ。

 


 

以下は当プログにおけるOCS関連記事

 

大変稚拙なプレイです。

 

国連軍を包囲したものの、北朝鮮軍の補給の弱さと、国連軍の砲兵部隊に主力部隊のヘックスが散々に射たれてしまいました。OCSの鉄則「高スタックはなるべく作らない」

 

 


(完)

「歴史群像」175号(2022年10月)を読む

第1特集は「【冷戦期】NATO軍VS.ワルシャワ条約機構軍」。

第二次世界大戦終戦直後から1991年のソ連邦崩壊までを扱っており、両勢力の戦略の変遷が非常に面白い記事であった。

大戦直後は英米を中心とした西側連合軍に対して、ソ連軍との戦力差が大きく後のNATOとなる西側の戦略はドイツ全土を占領された後にライン河を起点に反撃を行うという内容であったというが、その「ライン河防衛戦」も兵力不足から張り子の虎状態であったという。
一方で東側も問題を抱えており、東部戦線におけるソ連軍の補給線を支えたのは実質レンドリースで提供されたアメリカ製のトラック群であったが、終戦により部品供給が止まった後は消耗してしまったという。ソ連自動車産業ではとうてい、ワルシャワ条約機構の進撃を支えるだけの力はなかったという・・。

 

 

西ドイツ軍が整備され最初は郷土防衛隊のような性格から、NATO軍の中核になるようになってくると、NATOの戦略方針も変化していく。最終期にはワルシャワ条約機構の侵攻軍を押し返した上でエルベ河を超えての東側領域への進撃まで検討するようになったという。

どうしても正面戦力であった戦車や航空機などの兵器に目がいってしまうが、NATOワルシャワ条約機構という点では、全く違った要素のほうが影響が大きかったのかもしれない。

今回の記事の中で特に印象的だったのは次のようなくだり。

1960年代後半からアメリカ軍の野戦砲兵が射撃データの計算にコンピューターを導入しはじめる一方、ソ連軍は「・・砲兵の中から特に優れた計算の名手を選抜育成して人力による計算で対抗しようと試みた」。初期の段階では人力計算による対抗策による計算速度はコンピュータにほぼ近かったらしい。ところが1970年代にはいるとこれらのコンピュータがデータリンク機能を持つようになり、さらに機器が小型軽量化していくともはやソ連にその格差を埋めることができなくなった・・という。

やがてゴルバチョフの時代、1986年に西欧侵攻計画の放棄を宣言(これは知らなかったなぁ)、その5年後ソ連邦の崩壊に至る。

 

ゲームとしては最近、80年代に起こったかもしれない第三次世界大戦ものの再販や発売が続いているなど、人気テーマだけに参考にできる記事であった。

 

 

https://www.compassgames.com/product/nato-designer-signature-edition/

 

https://www.compassgames.com/product/the-third-world-war-designer-signature-edition/

 

シナリオを見ると40年代・60年代・70年代・80年代と各時代毎のものが用意されているようであり、今回の記事にぴったりに見える。未プレイ。

 

 

第2特集は1944年10月の「台湾沖航空戦」。台風と夜陰にまぎれて、アメリカ軍機動部隊に航空総攻撃を行うが・・という内容。1944年6月のマリアナ沖海戦以降、もはや海と空で日本軍は実質的な力を失ったということだろう。大錯誤を起こすに至る経緯をたどる。

 

さすがに台湾沖航空戦のシナリオがついたゲームは見たこと無いなぁ・・。
太平洋戦域を扱ったキャンペーンゲームのイベントカードや、ワンチャン、エポックの「航空母艦」あたりにあったりして・・(うちの「航空母艦」は奥深くに収納されて現物を見つけられず・・

 

 

中程にあるカラー写真記事は1943年イタリア戦線におけるモンテ・カッシーノの戦い

イタリア戦線のキャンペーンゲームなのですが、非常にオススメ

 

モンテ・カッシーノの戦いを扱ったエリアインパルスシステムのゲーム。ぜひ入手したいと思っているのですが、そもそものところでモノがでまわってこない。

 

 

巻頭のカラー記事からは「鎌倉殿の十三人」の放映とタイミングがばっちりの、畠山重忠が滅亡する「二俣川の戦い」。

 

太平記」システムで描く源平争乱初期の関東を扱った作品。時代としては記事が扱ったものと若干異なるが、畠山重忠は戦闘力3-統率力4として登場。戦闘力では源義経の4に続くレベルにあり、同戦闘力には、他に熊谷直実佐々木盛綱、小山朝光(結城朝光)しかなく、多くの御家人の戦闘力は2か1なので、一頭地抜けた能力を持つ。。

 

 

 

日本陸軍がレシプロ機のエンジンスタートに使った「自動車式始動機」の記事も非常に珍しく面白かった。



 

歴史群像 2022年10月号 [雑誌]

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「IMPERIAL STRUGGLE」(GMT)を対戦する

18世紀のイギリスとフランスの覇権争いを扱った「IMPERIAL STRUGGLE」(GMT)を対戦しました。2020年に発売され、あちこちでプレイされていた作品です。おくればせながら対戦の機会を得られました。

 

 

 

人気ゲームであるあかしとして、BGG(https://boardgamegeek.com/)のフォーラムの投稿数は1000件を超えています(2022年8月末調べ)。ルールのチェックでもしようか、と眺めるには多すぎる件数です。BGG評点は8.3。BGGの評点は最近発売されるゲームについて、軒並み8点台以上とインフレするので、8点台だからというだけでは手放しに評価することはできないのですが、本ゲームについて言えば、これだけ多数プレイされているにも関わらず、それでもなお高得点を維持できている、ということで逆説的に良ゲーといえるのかもしれません。

プレイに先立って有志による日本語化マニュアルを読み始めたのですが、これがいきなりとっつきにくい。別冊のプレイエイド(リプレイが記述されている)を読めば少しは理解できると思ったのですが、これはこれで「ラジがXXにXXマーカーを置くと、イライザはうめき声をあげます・・・。」とか「ラジはたじろぎます」とか妙にプレイヤー自らの生々しい描写が挟まれていたりして、プレイ内容にさっぱり注意がいかないのです。そういうのは無味乾燥でいいんだよ、と思わずうめき声をあげます。

日本語訳が悪いという訳ではなく、システム自体が少々わかりにくいようです。新しいシステムというのはどうしても説明が難しくなるということでしょうか。

 

補足:

結果としては、”習うより慣れろ”というタイプのゲームでした。ルールブックを読み込んで理解しようとするよりも、プレイ経験がある人が近くにいるのであればインストールしてもらったほうが遥かに早いです。

インストしてくれる人が近くにいない場合は、まずは並べてみるのが早いかな。総合的には決して難易度が高いタイプのゲームではないように感じました。

 

ゲームの背景(ゲーム紹介の抜粋訳、適宜補注)

1697年、太陽王ルイ14世は10年にも及んだ大同盟戦争(1688年-1697年)から解放されたものの、依然として大陸への野望を抱いたままであった。イギリス王ウィリアム3世は、新しい王座に座り、これまでよりも楽に過ごしていた*1。スペインの後継者問題が解決されないままの新世紀は静かなものになるとは思われていなかった。しかしながらフランスもイギリスも、この先、第二次百年戦争と呼ばれるまで争いが継続し、この二つのライバル国同士があらゆる軸で激しく、そして誇らしく競い合うことになるとは予想だにしていなかっただろう。インドからカナダ、カリブ海に至る戦場で、両国の軍隊と艦隊が衝突し、パリのサロンやロンドンの喫茶店で、近代世界の政治と経済が生まれ、ついには社会の根幹を揺るがす革命が起こる。この革命は、血と恐怖で終わるのではなく、民主主義と自由の勝利で終わり、想像を超えた世界の変化をもたらしたかもしれないのだ。

 

このゲームは1697年、スペイン王が後継者を指名するのを両国で戦々恐々と待つところにはじまり、1789年に新しい秩序がバスティーユを崩壊させたところで終了します。フランスとイギリスは、植民地時代の富の基礎を築き、ヨーロッパの他の国々を相手にし、栄光を競い合います。

プレイヤーは平和なターンにおいて、経済的な利益と同盟を築き、イベントカードに表された歴史的な出来事を利用します。プレイヤーは何にリソースを注入するのか(ゲーム内では「投資」とされる)を選択しなければなりませんが、同時に、相手にその機会を与えないようにすることも重要です。戦争ターンでは、各戦場は征服と名声という大きな報酬をもたらしますが、領土の獲得は外交のテーブル(条約)で消えてしまうこともあります。世紀末には、イギリスが日の沈まない帝国を支配することになるのでしょうか?それとも、フランスが太陽王の夢の超大国として、あるいはラファイエットの夢の共和国として、世界の道を照らすのでしょうか?

 

 

 

非常に美しいマップデザイン。しかもハードマップと豪勢なコンポーネントになっている。右上から時計回りに、英仏両国が覇を競い合った欧州、インド、カリブ海、北アメリカのマップになっている。エリア内にある拠点で青色はゲームスタート時のフランス勢力下(影響下)、赤色はイギリス勢力下にあることを表す。
各エリア毎にターン終了時に自国勢力下にある拠点数を比較して、優勢側はVPを得る。黄色は選択ルールで登場するスペイン帝国を表す。
各拠点は、ゲーム中登場する産物の産地などの経済の拠点、または軍事拠点、さらには外交相手となる他国を表す(それぞれ拠点の形、丸とか四角、六角形によって区別)

 

平時ターンと戦争のターン

プレイヤーはイギリス・フランスの指導者になります。

ゲームは1697年から1789年の92年間を全6ターンで扱います。6つのターンは「平時ターン」と呼ばれ、途中に4回の大きな戦争が発生することになっています。

順番に並べると次のようになります。

平時ターンでは「外交」「経済活動」「軍事活動」を行うのですが、第1ターンが終了すると「スペイン継承戦争」が自動的に発生します。回避はできません。戦争は外交や経済活動や軍事活動の結果として起こるのであって、先に発生することが決まる訳ではないのではないかと言われそうですが、これらの4回の戦争は必ず発生し、都度、結果が判定され、領土獲得(平時ターンの活動では領土のやりとりは通常発生しない)、大掛かりな勝利ポイントの獲得などが行なわれることになります。平時ターンではこれらの”予定された”戦争に向けた準備も重要な活動になるでしょう。

戦争結果が判定されると平時ターンである第2ターンが開始されます。

メジャー戦争があるのであればマイナー戦争もあるのではないかということで、イベントカードによって史実で起きたマイナーな戦争が発生することがあります(大北方戦争ポーランド継承戦争など多数!)。ただしこれらのマイナーな戦争はイベントカードによって戦争結果とその影響が処理されるため、”メジャー戦争”のように勝敗そのものから決めていくようなことはありません。

 

国のリソースを「外交」「経済」「軍事」のそれぞれに投入する

「プレイヤーは何にリソースを注入するのかを選択しなければなりません」と書きましたが、対象として「外交」「経済」「軍事」の3領域があります。なおリソースを投入することをゲーム内では「投資」と呼んでいます。

平時ターンの各ターン終了時に、各エリア毎に自勢力影響下にある拠点数がカウントされその数により各エリア毎(「ヨーロッパ」「カリブ海」など)に優劣を決め、VPを得ます。

「外交」では他国を自勢力の友好勢力にしたり、また相手の外交活動を妨害することができます。「外交」の対象となる国家はこの時代、欧州に集中していますので活動の中心はヨーロッパになるでしょう。少数ではありますが、「インド」や「北アメリカ」では現地民の政府、「カリブ海」では海賊国が「外交」の対象として登場します。

軍事的・地政学的に有力な国家と友好状態になることにより、来るべき戦争の際に有利に働くこともあります。

「経済」拠点はその名の通り一次産品の生産を行う拠点です。英仏両国が競う一次産品として「毛皮」「漁業」「たばこ」「砂糖」「綿花」「スパイス」の6種類が登場し、それぞれを生産する拠点が、「北アメリカ」「カリブ海」「インド」の各エリアに地域的な特性の上、点在しています。

各ターンの冒頭に、そのターンの得点対象となる産品がランダムに3種類選択されます。ターン終了時に得点対象となった産品について多くの生産拠点を確保していた側にVPが加算されます(得点対象となった産品毎に優劣が決められ得点される)。

「軍事」拠点として港湾と「要塞」拠点が登場します。港湾は全てのエリアに登場しますが、「要塞」が登場するのはヨーロッパ以外の植民地エリアになります。港湾拠点を抑える存在として「艦隊」ユニットが登場します。

 

ポイントは外交の対象となる拠点(国や領土)は「外交」、経済拠点は「経済」、軍事拠点は「軍事」とそれぞれ自勢力下に置くための手法が異なるのです。よくあるウォーゲームのように、産品の産地を軍事的に占領することでその産品の生産力を獲得できるという構造にはなっていません。3つの投資対象を組み合わせて勢力を伸ばしていくことが必要になります。

各ターンではフランス・イギリスは相互に4回のアクションを実施できます。ここでこのゲームは「投資タイル」というユニークな方法を使います。

ターンの最初に9枚の投資タイルを表向きに並べ、先攻のプレイヤーから好きなタイルを交互にとっていき、その内容を解決、つまり記載されたポイント内でアクションを行うのです。

各投資タイルには、メジャーアクションとマイナーアクションの2種類のポイントが記載されており、続け様に実行できます。ポイントはさきほどの3種類のいずれかのポイントになっています。「外交」施策を行うには「外交」マークがある投資タイルを選ぶ必要があります。

またイベントカードを発動することができることが示されている投資タイルを引くと、プレイヤーはイベントが記載された手札(通常3枚保有)を使ってイベントを発生させることが可能になります。

投資タイルの内容はタイルによって、投資先が異なる。記載されたポイントが異なる。イベントカードの発動など副次的な効果が異なる、ということになります。つまりタイルによって条件がかなりことなりますので、どのタイルから順番に使っていくのかを考える必要があるでしょう。

アクションの先攻・後攻はVPが劣勢にある側が選べることになっています。

先攻をとれば、有利に「投資タイル」を選択することができるでしょう。特に特定の投資領域のタイルが少ない場合や、イベントを発動できるタイルが少ない場合などは、先攻を取ることで先に選択できるというのは大きなアドバンテージになります。

一方で後攻の場合は先攻側の結果を見て最後のアクションを実施できるという強みがあります。各ターンの最後のアクションになる4回目のアクションにおいて、先攻側の行動を見た上で、その直後のポイント計算で得点できないように状況をひっくり返したり、また先攻側に妨害されないアクションを実施できるという点は後攻の強みです。

 

投資タイルのひとつ。上段(メジャーアクション)にあるのは「経済」の投資を表し(お金のシンボル)ポイントは3です。下段(マイナーアクション)は「軍事」のシンボル(当時の手榴弾だそうです)でポイント2。またその右側にある十字マークは手札のイベントカードからイベントを発生させることができることを表しています。
この投資タイルを使うことになると、まずプレイヤーはイベントカードによりイベントを発生させ、その後、メジャーアクション、マイナーアクションをそれぞれのポイント内で発動させることになります。なお借金をすることでその際に消費するポイントを増やして活動することも可能です。

プレイ中のあるターン終了時の投資タイルシートの状況。9枚の投資タイルが公開され、先攻から順に使用するタイルを指定し、アクションを行っていく。相互に4回ずつアクションを実施した後の状況。

 

戦争開始!

4大メジャー戦争はさらに複数の戦域をもっています。主戦場だったり植民地側で派生的に発生した戦闘(戦争)を表しています。

例えば最初に発動する「オーストリア継承戦争」には「中央ヨーロッパ」「ジョージ王戦争」「第一次カナティック戦争」「ジャコバイトの叛乱」という4つの戦域があります(下写真参照)。

4大メジャー戦争はそれぞれに専用のシートが用意されており、初期配置または平時ターン中の「軍事」への投資に応じて配置される戦争タイルを配置し、また対象となるエリア、戦力計算に用いる戦力(「ボーナス戦力」と表記)、勝利差に応じた得点計算表などが表示されています。

 

戦争が発生するのは必然なので戦争前の「平時ターン」のうちに、「ボーナス戦力」を確保していく、または戦争タイルを追加的に配置していくことが必要となります。

戦争タイルには史実で登場した将軍や政治家、またはイベントなどが得点化されており、ランダムに引くことになります。

戦争解決時にはそれまで裏を向けていた戦争タイルを同時に開示し、戦力ポイントを計算することになります。「ボーナス戦力」はマップ上から読み取ることができるとはいえ、ターンの中で刻々と状況が変化しますし、またシート上に配置される「戦争タイル」は修正値が大きい(有名な将軍の場合、1枚で「+3」)上に、解決まで相手がどのようなタイルを配置したのかわからないため、かなりギャンブル的で白熱します。

 

オーストリア継承戦争の解決に用いられるシート(ゲームオリジナルはもちろん英文だが、写真は有志が公開している和訳版)。4つの戦域が含まれ、戦域毎に戦力を比較して勝敗が決せられる。
写真はタイルを全て表に向け、戦争結果を決定した後の状態。
配置されている六角形のマーカーが、戦争タイル。戦争タイルは初期状態で配置されるものもあるが、「平時ターン」内で、「軍事」への投資を行うことで追加的に配置される。

 

重層的に組み込まれた仕掛けの数々

「平時ターン」で行う「投資」、また戦争解決を中心に説明をしてきましたが、それらだけでもかなりの紙数を費やしてしまいました。これ以外にも様々な要素が重層的に組み込まれていて飽かせない仕掛けが施されています。

  • かなり強力な特殊能力を及ぼす「閣僚カード」の存在
  • 特定の拠点を影響下におくことで獲得する「優位性タイル」
  • 両国財政を苦しめる「負債」、「負債限度」とペナルティ
  • 地政学的要素を加える「征服ライン」

など研究の余地があるルールがまだ多数存在します。ただルールとして散らかっている印象はなく、システム的に用意されているので理解はしやすい印象を受けました。
またイベントカード、閣僚カード、戦争タイルとして登場する政治家・将軍、また優位性タイルで扱われる歴史的事件・状況など、歴史を知れば知るほど深掘りができそうな要素が多数詰め込まれています。

 

左手のほうからカードスタンドに立てられているのが発動前のイベントカード、右手に見えるシートの左上が、「優位性タイル」、その下の少しだけ顔をのぞかせているのが「閣僚カード」になります。「優位性タイル」と「閣僚カード」の特殊能力は自分のアクション中であれば発動できます。

 

 

勝利ポイント

各ターン終了時、また戦争終了時に勝利ポイントの精算がなされます。
15点をスタート点として、0点以下になるとイギリス、30点以上がフランスの勝利となります。ゲーム途中でサドンデスになる場合も少なくないようです。

  • エリア毎の影響下にある拠点数の比較により得られるポイント(平時)
  • 指定された産品についての生産拠点数の比較により得られるポイント(平時)
  • 戦争時に戦域毎の結果により得られる(失う)ポイント(戦時)
  • そのほか、イベント等で得られる(失う)ポイント など

 

(了)

 

 

 

*1:オランダ総督の家系に生まれたウィリアム3世は、ルイ14世のオランダへの侵略を他国との同盟などにより度々防ぎプロテスタントの英雄となる。その後、イギリス王族に連なるメアリーと結婚するが、いろいろあってメアリーの父であるイギリス国王ジェームズ2世を追放し、自らが国王に就任、またメアリーを女王(メアリー2世)とすることでイングランドの共同統治者となる。1694年にメアリー2世天然痘で没し、以後はウィリアム3世の単独統治となる。2人の間には子供がいなかったので、イングランド王位の継承者はメアリーの妹アンと決まっていた。メアリーは背が高く大柄で、背の低いウィレム3世とは似合いの夫婦ではなかった。夫婦仲は良くなく、ウィレム3世には別に愛人がおり、同性愛的傾向もあったが、メアリーに敬意を払うことだけは忘れなかった。

「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦する(2/2)

ソ連邦崩壊後の1992年から2019年の欧州の国際情勢を扱ったカードドリブンによる2人用ゲーム「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦した。
重いテーマの作品だが、適度にボードゲーム的な仕様を施されている。プレイ時間は3時間強といったところだろうか。

 

Europe Divided, PHALANX, 2019 — front cover (image provided by the publisher)

 


 

 

 

2ターンごとに解決されるヘッドラインカード

勝敗はゲーム終了時に勝利ポイントを比べることで決められる。
勝利ポイントは、「ヘッドラインカード」に記載があるイベント条件をクリアすることでカード毎に定められた得点(1~4点)を得るか、ゲーム終了時に支配状態にある「紛争エリア」のエリア数(1エリア=1点)による得点がメインになる。
配点からもわかるように、「ヘッドラインカード」に登場するイベント条件をクリアすることで得ることができる得点が大きいため、ヘッドラインカードの成立を目指すのが効率的だ。

ヘッドラインカードでは、ゲームが扱っているソ連邦崩壊後の欧州で発生した、もしくは発生し得た様々な国際的・政治的な事件が扱われる。
題名を拾うと、「欧州移民クライシス」「コソボ紛争」「モルドバ暴動」「ウクライナ騒乱」「オセチア紛争」「バラ革命」「ドンバス戦争」「ボスニア戦争」「グルジア内戦」「ナゴルノ・カラバノフ紛争」「ビロード離婚」「オレンジ革命」「ジーンズ革命」・・・といった名前が並ぶ(全部で40枚)。
決して国際ニュースに疎い訳ではなかったが、発生した国は想像できても、その発生時期や前後関係、また内容までうまく説明できないテーマが少なくない。30年の間に欧州諸国ではかくも様々な歴史的事件が発生していたといったところだろう。

話を戻すと、ヘッドラインカードにはどちらの勢力のイベントなのか、事件のあらましと発生条件、またその事件を発生させた際に得られる得点、一部のカードには事件が発生した際に新たに発生する影響などが記載されている。
オレンジ革命」の発生条件は、ウクライナにおいてEUの影響度がロシアの影響度を上回っていること。この充足すると西欧諸国側が1点得点する。「ドンバス戦争」の発生条件は、ロシアが軍隊ユニット2個をウクライナに送り込んでいること。条件が満たされるとロシアは2点を得る、といった感じだ。
得点が大きいカードの場合は、成立しなければならない条件が複数設定されており、達成が難しくなる。

 

両プレイヤーはあらかじめ複数のヘッドラインカードを手札としている。それぞれ手札の中から1枚を自ら選んでオープン状態で配置する。ヘッドラインカードは常に両勢力として2枚がオープン状態で表示されることになる。
オープン状態のヘッドラインカードは2ターンに1回のペースで特定のターンに設定されているタイミングとその手順で条件の充足が判定され「解決」される。カードの条件が充足できていれば記載された得点を得ることができる。条件の充足未充足に関わらずオープンされていたカードは捨てられ、次のカードがオープンされることになる。

ヘッドラインカードは両勢力のカードを混ぜた状態で配布されるので、手札には自分が得点できるカードと相手が得点できるカードが混在した状態になる。カードの引きが悪いと、自勢力のカードはなく相手側カードばかりという状態もありえなくはない。
自勢力が得点できるヘッドラインカードはその条件を充足できるようなタイミングでオープンし、逆に相手勢力向けのカードは相手が得点できないようなタイミングや状況で「解決」されるようにカードを処理していかなければならない。配られるカード枚数は限定的ですので、相手勢力のヘッドラインカードを手元にとどめて置き続けることはできないようになっている。

 

ゲームの展開

ゲームは、2つの時代、1992年から2008年までをピリオド1「新しい世界秩序」と2009年から2019年までのピリオド2「新冷戦」に分けられ、それぞれ10ターンずつ、合計20ターンから構成されている。ピリオド1終了時にそれまでの得点計算やカードの入れ替えなどが行われるが、ゲームとしてはピリオド1と2は別のシナリオというわけではなく、キャンペーンゲームとして続けてプレイされる。

 

初期状態でロシアは弱体だ。軍事力は西欧諸国側の約半分、資金は4分の1にすぎない。アドバンテージは前述したアクションカードデッキの身軽さくらいだろうか。一方の西欧諸国側は資金も軍事力もロシアを圧倒している。ただし軍隊ユニットは西欧諸国各国に1ユニットずつばらばらに配置されており「競合エリア」まで距離があるため、ロシアに比べると軍隊投入に時間を要する。ロシアと異なり、NATOEUという2つの要素をすすめていかないといけないというのも手間かもしれない。

資金は、「競合エリア」の各国に対して最初の影響度を与える際に必要になる。最初の進出の足がかりを作るためにそれなりに資本投下が必要といったところだろう。いったん影響度を「1」としたエリアに対して影響度を高める際にはアクションカードは必要となるが、追加資金は不要。

資金を得る際もアクションカードが必要だが、得ることができる資金量はカードによって異なる。西欧諸国のカードはこの点、ロシアとの経済力の差を表し、1回で得る資金量が大きいカードが少なくない。特にドイツ、フランス、イギリスといった主要国の資金確保量はロシアの同種のカードを圧倒している。
資金量が少ないことがロシアのアクションの足かせになる。

 

ゲーム開始時、またピリオド2の開始時にアドバンテージカードと呼ばれる一種のボーナスまたは切り札となるカードが両勢力に一定枚数ランダムに与えられている。アドバンテージカードを用いることで、自勢力を助けるイベントを起こすか、資金をボーナスとして獲得する、またはゲームの最後まで使わずに残すことによって得点を得るかの3種類の効果がある。
ゲーム後半になると活動内容に対して資金が枯渇しがちなので、一種のへそくりのように資金の獲得手段としてアドバンテージカードを使うこともあるが、内容として面白いのはイベントとして使う場合だろう。

西欧諸国側のアドバンテージカードを使うことで発生させることができるイベントで目を引くのは「アメリカ大統領の訪問」「アメリカの援助」といったアメリカが関係するイベントだ。
このゲームの中でアメリカの影は全くない。欧州に駐留しているアメリカ軍自体が登場していないのだが、アドバンテージカードのイベントとして登場しているというわけだ。アドバンテージカード自体が、できれば使用せずにおきたいカードであり、さらにイベントで引き当てる確率は低いことを考えると、ゲーム中におけるアメリカの存在感の低さは、デザイナーの世界観が伺えて興味深い。

ロシア側のアドバンテージカードによるイベントとしては、西側諸国のうち1国を強制的に脱落させる、「EU離脱」があるが、全体に軍事色が強いものが多い。

 

各ターンの先手後手を巡る争い

各ターンにおける先手後手の順番はイニシアティブ値の比較により決まる。
イニシアティブ値は各アクションカードに記載があるのだが、より効果が大きいカードのイニシアティブ値は大きく、逆に効果が限定的(発動できるアクションのバリエーションが少ない、またはその威力が小さい)なカードの値は小さくなっています。ことさら「競合エリア」の国(エリア)を獲得することでデッキに加えられる副作用が大きいカードも概してイニシアティブ値は小さい。

両プレイヤーはそのターンに使う2枚のアクションカードを決め、2枚のカードに記載されているイニシアティブ値の合計値を同時に宣言することで、ターンの先手後手を決める。イニシアティブ値の合計が大きい方が先手になる。効果が大きいカードを使おうとすると自ずと先手になることが多くなる。

 

ここで問題になるのが、ヘッドラインカードの「解決」が行われるターンでのプレイの順番だ。「解決」が行われるターンでの手番は必ず後手のほうが有利なのは明白だ。先手側があるヘッドラインカードの実現条件を充足した状態にしていたとしても、後手側が後からその条件を崩すようなアクションを行うことで簡単に邪魔をすることができるためだ。こうした事情からヘッドラインカードの「解決」が行う2ターンに1回のターンでは、お互いにイニシアティブ値が小さいカードを出すことで後手を取ろうとする動きが多く発生する。

 

ポーランドとバルト諸国への影響度を高めていた西側諸国に対抗するように突如(まだロシアに対し公開していないヘッドラインがあったため、事前にポーランドとバルト諸国に対して工作を開始していたのだ)、ロシアがポーランドへの工作に割って入ってくる。
先のアゼルバイジャンの失敗を繰り返さないため、西側諸国はバルト諸国とポーランドへの影響度を「6」まであげ、ロシアの軍事介入を防ぐため、両国に軍隊ユニットを進駐させた。

 

ロシアが介入の理由は公開されたヘッドラインカードの内容により判明した。
ロシアが公開したヘッドラインカードは「ノードストリーム」。ウクライナ紛争で有名になったロシアからドイツまでの天然ガスパイプラインだ。獲得できるポイントは「3」。結構大きい。ポイントを獲得する条件(赤いカードの左肩部分に記述がある)は、ポーランドとバルト諸国においてEUより大きな影響力を持つことだ。
一方西側諸国が開示したヘッドラインは、欧州移民クライシス(European Migrant Crisis)。得点は「4」と大きく、得点条件はチェコスロバキアポーランドハンガリーにおいてEUの影響度がロシアを上回っていることだ(緑色のカードの左肩に条件が記述されている)。

 

ロシアはバルト諸国とポーランドに西側諸国の軍隊が進駐し、EUの影響度が「6」とされたことで、両国のエリアでの影響度で西側諸国を逆転することができないと考え、「ノードストリーム」による得点を諦める。
代わりに今度は西側諸国の「欧州移民クライシス」の成立を妨害することとした。
ロシアはヘッドラインカードの解決判定を行うターンのイニシアティブ決定において、西欧諸国よりも低いイニシアティブ値のカードを組み合わせることで、「後攻」をとった。
西側諸国はチェコ・スロバキアへの影響度「4」まで高めるが、ハンガリーにおいて「後攻」のロシアはハンガリーの影響度を「3」にあげることに成功する。ハンガリーでの影響度が、ロシアがEUを上回ったことにより、「欧州移民クライシス」の条件達成はできず、西欧諸国はカードによる得点獲得に失敗した。

 

ゲーム最終盤。
コーカサス地方では再び紛争が起き扮装に介入したEUアゼルバイジャンの隣国アルメニアの支配値を「6」とする。ロシアとの軍隊ユニットのやりとりの後、最終的にトルコ経由で西欧諸国の軍隊ユニットがアルメニアに進出した。

ウクライナはロシアが優勢、モルドバは西欧諸国が押さえた。
ポーランドはロシアの執念の工作によりついにはロシア優勢となり、トドメとしてロシアは軍隊を進出させた。ロシアはハンガリーにも軍事進出を果たした。

ポーランドハンガリーの帰趨は、ヘッドラインカードの条件判定を行うこのターンのイニシアティブ決定に大きく依存していた。結果、イニシアティブ値が小さいカードを出すことができたロシアが後攻をとり、西欧諸国が固めていた支配値をひっくり返したのだ。

フランスに丸い王冠のようなマーカーが載せられているが、これはフランスがロシアがアドバンテージカードにより発動させたイベント「EU離脱」によりEUを抜けたことを表す。「EU離脱」が起きるとその国のアクションカードは抜かれる。フランスのアクションカードはドイツ、イギリスと並んで強力なため西欧諸国にとっては痛いかもしれない。

 

感想戦

戦略級ゲームというよりもテイストはボードゲーム寄りになっている。
得点源のヘッドラインカードについては、手札からカードを場に公開していく順番はコントロールできるものの手札自体の構成はランダムにドローされるため、ドローしたカードの良し悪しがその後の展開に大きく影響する。ドローした手札が、相手勢力側のカードばかりであった場合、得点が難しくなるのだ。

アクションカードをエリア(国)と関連づけている点もボードゲーム寄りの処理だろう。シミュレーションとして見た場合、国とアクションカードをひもつけることでどういうことを表しているのだろう、という腹落ちが難しい要素だった。

このゲーム、ゲーム的な判断、つまりはアクションカードやヘッドラインカードに記述された数値や満たすべき条件だけを見て、パズルを解くように、ゲームを進行させるのであればはるかに早い時間で処理することはできるだろう。

ただし、そうした早解きプレイによりゲームを消費してしまうにはもったいないゲームだと思う。確かにあちこちに抽象化と単純化、ゲーム的な処理が施されているが、本ゲームが与えてくれる視点は貴重なものだと考える。冒頭に書いたような欧州現代史30年をたどるという点に、西欧諸国対ロシアという対立構造や両勢力間のせめぎあいの様相、なんとなく見過ごしてきた例えば旧ソ連邦諸国の内戦やロシア軍の介入と言ったニュースなどへの理解がすすむ。

 

(了)

 

 

 

 

 

「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦する(1/2)

ソ連邦崩壊後の1992年から2019年の欧州の国際情勢を扱ったカードドリブンによる2人用ゲーム「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦した。発売されたのは2020年。2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻が発生した直後、発売元のPHALANX社がFacebook上で変に製品のPRを行なってしまい、顰蹙をかってしまったらしい*1

ソ連邦の崩壊から30年、一時はG8として先進国首脳会議にまでロシアが出席していたりしたので見過ごしてきたが、旧東欧・中欧から旧ソ連邦においてはずっと鬱々と暗闘が続いていたということのようだ。日々のニュースの中で見過ごしてきた欧州情勢を俯瞰できるゲームと言える。

冷戦期を扱ったゲームとして「トワイライトストラグル」(GMT)や「ラビリンス」(GMT)があるが、これらのゲームとは異なった切り口で西欧諸国とロシアとの暗闘を扱った。なによりもアメリカの扱いが興味深い(後述)。

 

Europe Divided, PHALANX, 2019 — front cover (image provided by the publisher)

 

 

 

ゲームの紹介

プレイヤーは、EU(欧州連合)とNATO北大西洋条約機構)の両方を扱う西欧諸国か、ロシアを担当する。

欧州全体をカバーしているマップ上の国々は3種類にグルーピングされている。1番目のグループは1995年時点でEUNATOに加盟していた西欧諸国、2番目はロシア、そして西欧諸国とロシアの2大勢力の中間に位置する東欧・中欧旧ソ連邦諸国が3番目のグループだ。3番目のグループの国々は「競合エリア」と呼ばれ、本ゲームにおいて争奪対象となるエリアとなる。具体的には、ポーランドチェコスロバキアハンガリー、西部バルカン諸国(旧ユーゴスラビア諸国)、東部バルカン諸国(ルーマニアブルガリア)、バルト三国ベラルーシウクライナモルドバジョージアアルメニアアゼルバイジャンの12エリアになり、プレイヤーが操る2大勢力は「競合エリア」に属する国々への影響度を高め支配することで得点することができる。

 

マップはロシアから欧州全体までを含み、国ごとにエリアが分かれているが(一部復数国で1エリア、またロシアは1国が復数エリアに分かれている)、両勢力の勢力争いが起こるのは、西側諸国と、ロシアとの間にある「競合エリア」と呼ばれる国々となる。
西側、またはロシアのエリアに置かれている青いマーカーは西側諸国、赤いマーカーはロシアの軍隊を表す軍隊ユニットとなる。かなり抽象化された軍隊だが、「競合エリア」の影響度を妨害するため、または防御するために重要な役割を与えられている。
(なお競合エリアに属する国々の自国軍のようなものは登場しない)。

 

何をするゲームなのか?

両勢力はアクションカードを利用して「競合エリア」に属する国々に対するアクションを実施する。アクションカードにより実施できるアクションには次のようなものがある。

 

  1. 対象エリアに対して影響を及ぼす(影響度を1とする)[別途、資金が必要]
  2. 対象エリアにおける影響度を増加させる(最大6まで)
  3. 収入を得る
  4. 軍隊ユニットを生産する[別途、資金が必要]
  5. 軍隊ユニットを移動する[1エリアを超える移動の場合は資金が必要]

 

影響度は「競合エリア」内の国(エリア)ごとに設定されたパラメータで、ゲームでは3色のダイスによって表される。青色ダイスはNATO、黄色はEU、赤色はロシアと、それぞれの影響度を表す。影響度の最大値は「6」となり、いずれかの勢力がその影響力を「6」とした時点でそのエリアを支配したことになる。

NATOの影響度とEUの影響度は別に設定されている。現実でもNATOEUの加盟国は微妙に一致してなく、その違いは西欧諸国の中でも各国の立ち位置に影響している。後述するヘッドラインカードの処理やイベントによってはNATOEUが区別されているので、西欧諸国プレイヤーは各エリアへのアクションによる活動を行う際、NATOEUの二重に管理し増強していく必要がある。

 

エリアにおいて、先にどちらかの勢力の影響度が最大値6に達すると、相手勢力は影響度を6にあげることはできなくなる。
相手勢力の影響度が最大値に達した国(エリア)に対しては、影響度を下げる手段として軍事行動が有効になる。相手勢力の影響度が6に達した国(エリア)に対して軍隊ユニットを進出させると、影響度は6から5に下げられる(代償としてその軍隊ユニットは除去される)。相手勢力の影響度が5に下がったところですかさず自勢力の影響度を6にあげると、相手勢力はその国(エリア)において影響度を6にあげることが難しくなる。取り返すためには今度は相手勢力側が軍隊ユニットを用いて同じことを実施していく必要がある。結果、相手勢力はその国(エリア)に対する支配を失ったことになる。

ゲームでの軍隊ユニットの存在はかなり抽象化されているが、外交活動とは異なるもう一つの手段として位置づけられている。相手勢力の影響度を下げる手段、または相手に逆のことをされないようにするための抑止の手段として使われる。両勢力の軍隊ユニットが同じエリアに進出した際には自動的に同じ数ずつの軍隊ユニットを除去することになる。軍事衝突か!となるのですが、現実には西欧とロシアの直接的な軍事衝突は発生していないので、相互に示威行為を行なった挙げ句、止揚した状態とでもいうのではないかということだろう。

ともあれ、軍隊ユニットを用いることにより、軍事侵攻のような直接的な軍事行動もあれば軍事的に圧力をかけるといった行為も含め、抽象化しつつゲームに取り込まれていると言ってよい。
NATO加盟(西欧諸国側のNATOの影響度が最大値になった)を目指したウクライナに対して、ロシアは軍事侵攻を行うことでウクライナに対するNATOの影響度を1下げた、といった状況を再現することができる。

 

ゲーム序盤、NATOポーランド、バルト諸国からモルドバウクライナに薄く影響度を広げている。手番が限られるため、順番や効率性を考えながら影響度操作を行う必要があるだろう。あの手番を無駄に使わなければ、と後から後悔することはよくある。

政治暗闘が起こったのは黒海の東側、ジョージアアゼルバイジャンアルメニアといった旧ソ連から独立した諸国であった。
アゼルバイジャンで相互に影響度をあげていったEUとロシア。EU(黄色のダイス=5)に対して、ロシアは軍隊を送り込み、影響度を最高値の「6」とする。いったんいずれかの勢力が影響度を「6」としたエリアに対しては、相手側(この場合、EU)は「6」にあげることはできなくなる。影響度が「6」になると、軍隊を投入するか、イベントカードの効果によらなければ影響度を下げることができなくなる。

ロシアはそのまま軍隊を駐留させることにより、西側諸国の軍隊の侵入を牽制する。仮にアゼルバイジャンに西側諸国が軍隊を投入すると、双方の軍隊ユニットは除去される。双方の軍隊ユニットがいなくなったアゼルバイジャンに対して軍隊ユニットを生産して送り込むまでの所要時間を考慮すると、本国からアゼルバイジャンまでの距離が圧倒的に近いロシアが時間としても、コストとしても(軍隊ユニットを長距離移動させるには特別なコストが必要となる)圧倒的に有利だ。西側諸国はアゼルバイジャンに対して手も足も出なくなったといえるかもしれない。ロシアは用心してジョージアにも軍隊を投入し、影響度をあげる。こうして、アゼルバイジャン紛争はロシアの勝利で終わった。*2

 

非対称な両勢力のアクションカードデッキ

西欧プレイヤーとロシアプレイヤーのアクションカードのデッキは両勢力の特徴を表し対照的なものになっている。両勢力の初期状態のデッキは西欧プレイヤーが13枚、ロシアプレイヤーが7枚。アクションカードは毎ターン2枚ずつ使用し、手札には最大4枚とめおかれるので、初期デッキが7枚しかないロシアは西欧諸国に比べかなり頻繁にカードが一巡することになる。それだけカードが読みやすくコントロールしやすいといえる。

西欧諸国側のデッキには経済力をはじめ強力なカードが多いという特徴があるが、枚数が多く、カードカウンティングは行いにくい。

デザイナーによるとデッキの性能差は経済力に優れている一方官僚主義的で決断が遅い西側諸国と、決断・行動が早く軍事的行動を起こしやすいロシアを表したとのことだ。

アクションカードのデッキには、プレイが進み「競合エリア」でエリアの支配を獲得するとそのエリアの特性にあわせたアクションカードが追加されていく。「競合エリア」の支配により追加されるカードは概して性能は高くなく、獲得したエリアの特性にあわせた特別なアクション、エフェクトやリアクションが付随していることが少なくない。アクションはカードを使った側が実施できる特殊なアクションを指すが、エフェクトはカードを使った側、リアクションはカードを使われた側に発生する副作用を表す。

例えば西欧プレイヤーが「バルト諸国」を支配下に置くことで獲得するカードを用いてNATOが関係するアクションを実施した場合、ロシア側のリアクションとして、ロシア国内やカリーニングラードエリアに軍隊ユニットが無コストで発生するという副作用がでてくる。

ロシアが「ベラルーシ」を支配した後でデッキに追加されるカードを使ってベラルーシで軍隊ユニットを生産すると、自動的に発生するエフェクトとして「バルト諸国」のエリアにおいて、ロシアへの恐怖からロシアの影響度の数値が1自動的に上昇する。ところがこれには副作用があり、リアクションとして西欧諸国はこれまた自動的に軍隊ユニット1個を「バルト諸国」に移動させることができる。隣国に対して影響度を1上げることができたのに対して、その隣国に相手勢力の軍隊ユニットが移転配置されるということでこのエフェクト・リアクションの内容はロシアからするとやや歩が悪いようにも見える。

 

副作用が大きいカードはなかなか使い所が難しいが、一方で使っていかなければ手元のカードが回っていかないので、使わざるを得なくなるというジレンマに陥る。初期状態では身軽だったロシアのデッキもゲーム後半になると中途半端なカードが増えてきて、アドバンテージであった身軽さを失っていく。

アクションカードデッキの処理のデザインはいかにもゲームっぽい処理になるが、中盤終盤とゲームが進む中で、プレイヤーの行動に変化を与えていく要素として働く。

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

*1:問題となったメッセージは削除済なのでどのようなものだったのかはよくわからない

*2:ちょっとこのあたりのやりとりの印象は囲碁を思わせた。

「THE SHORES OF TRIPOLI」(FORT CIRCLE GAMES)を対戦する

ゲーム会で時間が空いたので「THE SHORES OF TRIPOLI」(FORT CIRCLE GAMES)を対戦した。19世紀初頭、私掠船により地中海を荒らし回っていた北アフリカ諸国(リビアチュニジア、モロッコ等)に対して、業を煮やしたアメリカ海軍/海兵隊が艦隊を動員し、無法の輩に膺懲を加えるという作品。

ウォーゲームではなくボードゲーム由来の作品だが、短時間にプレイできる良ゲームであった。

 

 

 

歴史的背景

アメリカ独立戦争末期から間もない、まだ若い国家であったアメリカ合衆国の商業船はバルバリア海岸(ベルベル人の海岸、今のモロッコアルジェリアチュニジアリビアを指す)の海賊の格好の餌食になっていた。1801年、就任したばかりのジェファーソン大統領は、この脅威に終止符を打つべく、地中海に「監視艦隊」を派遣した。ジブラルタルに到着した戦隊は、トリポリの海賊がすでに宣戦布告していることを知った。

 

ゲームの紹介

プレイヤーは私掠船を操る海賊側と、取り締まるために派遣されたアメリカ艦隊を担当する。1ターン=1年で、1801~1806の全6ターン、さらに各ターンは春夏秋冬の4つのフェイズからなるのでアクションを行う機会は1ターンあたり4回ということになる。

アクションは全てカードで起動されるカードドリブンシステムを採用している。カードに記載されたイベントを起こすことでユニットの操作を行うことになる。

海賊は根拠地となっている港から出港し、海賊行為を行う。ダイスにより成功すれば財宝を獲得する。一定の財宝を獲得すると海賊側の勝利となる。
アメリカ艦隊が港を封鎖すると、海賊は封鎖艦隊との海戦を行なわなければ外洋に出ることがかなわなくなる。
ただし封鎖にも損害が出ることがある。旅順港を封鎖した東郷艦隊が2隻の戦艦を失ったのと同様、イベントカードにより艦を失ったり損傷を受けたりする。

戦闘は戦闘力の分のダイスを振ることで決める、いわゆる「6出ろ」システムだ(戦闘力の数分のダイスを振り、「6」が出た個数分の損害を与える。実際はもう少しひねったルールになっている)。

船には3本マストの「戦列艦フリゲートと、「砲艦」がある。アメリカ艦隊の主力は堂々とした「戦列艦」で補助的に「砲艦」が参加する。海賊側は逆にフリゲート級は貴重でほとんどは「砲艦」クラスとなる。
海戦で損傷を受けた「戦列艦」はいったん戦域を離れ、修理のため次のターン(翌年)まで帰ってこない。損害が嵩むと撃沈されてしまう。「戦列艦」の補充は1年に1隻ときまっているが(イベントカードで登場する場合もある)、砲艦は自由に建造できる。

 

ハードマップは抽象化されているが、北アフリカ海岸を表す。オレンジや赤色の円は海賊が根拠地とする港、その周囲に薄い水色の円は海域を封鎖閉塞するために艦隊が出動した際のエリアだ。アメリカ海軍の根拠地は青色の円で、左がマルタ島、右がジブラルタル港を表す。

手前にある黄色と青色の積み木ユニットは軍艦を表す(帆船だ)。

 

帆船ユニットのアップ。青色がアメリカ海軍、黄色は支援として封鎖に参加したスウェーデン海軍を表す(スウェーデン艦はイベントで登場し、また別のイベントで帰還してしまう場合もある)。3本マストの船は「フリゲート/戦列艦」。1本マストの小型の船は、封鎖作戦には参加できないが戦闘には参加することができる砲艦(スプーナー級)。生産や修復に時間が必要となるフリゲート/戦列艦と異なり、補充が容易であるため、損害吸収鑑として使うことになる。

 

美しいデザインのイベントカード。各カードに記載された絵画も美しい。

 

アメリカ海軍の勝利条件は2種類あり、いずれかを達成することでなされる。海賊の本拠地であるトリポリを占拠するか、アルジェ・タンジュ・チュニスと海賊の根拠地となっている各港を平定した上で、本拠地トリポリから海賊のフリゲート/戦列艦をなくすこと(海賊側は戦列艦を2隻擁する)。前者の場合は、トリポリだけを相手にすればよいが、トリポリには守備隊がおり、艦隊が抱える海兵隊だけでは戦力的に不足することからエジプトから軍勢を呼び寄せる必要がある。このエジプトからの陸上部隊もアクションカードで移動させる必要がある。後者の場合は、陸上部隊の登場は不要なものの北アフリカの海賊の拠点各港から海賊船を無くしてしまう必要がある(ようだ)。
どちらの勝利条件を選ぶかもまたカードによるため、自由は効かない。いずれの勝利条件の場合も、一定ターン以降でなければ有効ではないため、ゲーム開始後、即ゲーム終了とはならない仕掛けになっている。

 

初期配置の状態(たぶん)。
ジブラルタに到着したアメリカ艦隊を待っていたのは海賊の2隻の砲艦(赤色ユニット)。海賊の本拠地であるトリポリには海賊の砲艦が集結しているのがわかる。
マップ右上になるターントラック上におかれた「戦列艦」は毎年新規投入される増援ではあるが、損害もそこそこ出るので決してアメリカ軍有利という訳ではない。
写真では見切れているが、左手のほうにはエジプトがあり、現地の陸上部隊を移動させトリポリに攻め寄せることはできる(ただし実際に陸上部隊が移動可能となるのはゲームが進行してからになる)。

 

 

感想戦

アメリカ軍を担当。

アクションはカードによるためが限定される。何をやればよいのかわからなくなるという場面は少なくないように思う。

トリポリ以外の港の私掠船を追い払い、トリポリ港自体は艦隊により封鎖をした。
途中、私掠船側のイベントにより船を失ったり、来援したスウェーデン艦隊が帰還したりする。トリポリ以外に私掠船が湧いてそれらを討伐するといったことが続く。

勝利条件は保有しているカードによって選ぶことができるが、各港から私掠船を追い払う必要がある(ただし陸上戦闘は不要)勝利条件ではなく、本拠地のトリポリ自体を占拠する条件を選ぶ。
最終ターン、全艦隊と全海兵隊、さらにエジプトからの現地軍部隊をトリポリに突入させた。

マップやルールが適度に抽象化され、行動もカードのアクションで縛られるため選択肢がある程度限定される。決して悪いわけではなくその分、ゲームの難易度やバランスが調整され、初めてでもスムーズにプレイできた印象。

なんでもアメリカ艦隊側には必勝法があったらしいのだが、ルール追加により封じられた模様だ。ともあれ、美しいコンポーネントと、短時間に遊ぶことができる良好なプレイアビリティはよかった。

(了)

 

 

 

「SWORD OF ROME」(GMT)を対戦する【2戦目】

ローマがイタリア半島を統一する100年間を扱った「SWORD OF ROME」(GMT)を対戦した。つい春先にプレイしたゲームだが、今回はエキスパンションキットを追加した5人プレイとなった。

登場する国家は、ローマ、エルトリア&サムニウム、ギリシャ植民地、ガリア人、それにカルタゴが追加された5勢力だ。

 

Sword of Rome - Front Box Cover - Second Deluxe Edition

 

ゲーム内容については前回記事を参照されたい。

 


第1ターン

くじ引きにより前回と同じくガリア人を担当。

前回の教訓により「ガリア人は土地に固執せず、占領はしない、略奪に徹する」ことにする。

ガリア人が国境(勢力)を接しているのはエルトリアだけだ。自然、略奪の対象はエルトリアのエリアとなる。

ZOCなどがあるゲームではないため、敵対する勢力の軍勢がいない限り、移動は可能だ。足を伸ばしてローマやサムニウムのエリアに攻め入ることはできるが、相手勢力により退路を絶たれる懸念があるためそこまでの無理はしない。

略奪が成功したエリアはそのエリアを支配している勢力が回復するまでは荒廃したままのため、無尽蔵には略奪はできない。

ひとつのエリアを略奪に成功すると、隣のエリアに移動してそこでまた略奪を行う。焼畑農業的に略奪地域を転々することになる。我ながらひどい民族である。

下手に都市を攻略してそこの守備に兵力をすりつぶすくらいなら、略奪を繰り返すことによりポイントを稼ぐ(ガリア人だけは略奪によりVPを獲得できる)ことに徹したほうがよさそうだ。

エルトリアはローマと同盟、ギリシャは宿敵であるはずのカルタゴと結び後顧の憂いを取り除いた。ガリアは後にローマと結んだ。こうして中央ではローマ、ギリシャ、サムニウムが争いはじめた。

同盟は各ターンの自分のイニングに締結を宣言できる。各ターンの最後に同盟の破棄を宣言するフェイズがあり、そのタイミングで破棄する分にはペナルティはないが、ターン途中に同盟破棄を行うとペナルティを喰らう。

 

初期配置状態。北から「ガリア人」(カウンターは青色)、「エルトリア」(クリーム色)、「ローマ」(赤)、「サムニウム」(緑)、「ギリシャ植民地」(水色)、「カルタゴ」(紫)となる。

赤色のローマのユニットの近くにあるオレンジ色のユニットはノンプレイヤーの都市国家。国家名は前記事のどこかに書いたと思う。彼らも「遠ガリア」と同様に、別プレイヤーのイベントカードにより操作することは可能だが(ローマの邪魔をする)、前回同様、はやばやとローマに占拠され滅亡してしまう。

 

第2ターン

他勢力が起こしたカードイベントによりアルプス山脈を超えて「遠ガリア」(今のフランスを根拠地としたガリア人)が北イタリアに侵入してくる。ガリア人がエルトリアに対して行ったように、1エリア移動しては次のエリア、と連続して略奪する略奪行をはじめる。

 

アルプス山脈を超えて肥沃な北イタリアの平原に侵入してきた「遠ガリア」(カウンターは灰色)。エルトリアとの勢力境に展開していた「ガリア人」の主力を急ぎ北上させた。「遠ガリア」のカウンター、またエルトリアに置かれた丸形の蛇の紋章がはいったマーカーは略奪跡を示している。

その後、「遠ガリア」はカードイベントによりゲーム期間内は復活できない程度に撃滅させられる。

 

一つのターンは5回のイニングに分かれているため、手元にアクションを行うカードがあるかぎり5回のアクションを実施できる。

ガリア人はエルトリアとの境から取って返し、「遠ガリア」と戦闘を行った。戦闘において野蛮なガリア人に恐れをなして相手兵力が後退するというカード等を用い、「遠ガリア」勢力を全滅させる。本来はローマやエルトリアとの戦闘に使おうとしていたカードで、「遠ガリア」に使うには少々もったいないカードだったのだが、結果的には早く撃退できたことになった。

ガリア人は手持ちのカードを毎ターン全て捨てなければならないという特別ルールがあるため、良いカードを手元に置いておくことができない。

 

第3ターン

シチリア島の西半分と北アフリカカルタゴ、またスペインを勢力圏に持つ海洋国家カルタゴシチリア島の東半分を抑えているギリシャ植民地と同盟を結んだことにより、軍勢を他の地域へ転用できるようになった。

カルタゴは10戦力(フルスタック)分の海上輸送能力を持ち、港湾マークがある都市に上陸させることができるという、特異な能力を持つ。

そのカルタゴがエルトリアの港湾のひとつに侵攻、エルトリアに隣接して略奪を重ねることでVPを伸ばしていたガリア人を抑えるよ、ということでエルトリアと同盟を結んだ。

 

エルトリア(カウンターはクリーム色)のすぐ南のエリアに上陸してきたカルタゴ(紫)に注目。
カルタゴはたくみにエルトリアを盾にしつつ、ガリアと戦闘を繰り返した。
ガリアは防御を行いつつ、小部隊を繰り出し略奪を行う。

 

第4~5ターン

全6ターンのゲーム(オプションで延長すると全10ターンになる)の中盤の展開は混沌としていたため点描となる。

カルタゴはエルトリアの港湾から抜け出し、ローマの一都市をいったんは占拠するがその後、引いていった。

本ゲームの戦闘は3D6のためダイスの目によるブレが大きい。戦闘は保守的に守るのが大崩れしないコツだと思う。

ガリアはようやく戦闘力「3」のリーダー「ブレンヌス」を登場させた。主力をブレンヌス配下に置き、少数戦力による略奪部隊を組成すると南へ略奪行に行かせる。討伐され全滅してもよい部隊だ。

業を煮やしたローマやエルトリアがフル戦力の軍団を派遣し、ガリア人の拠点を攻撃してくるが、ダイスの目が走ったことで撃退に成功する。2回、3回と戦闘に勝利することで、略奪品を奪うことになり、VP獲得する

他の勢力はVP獲得は基本、都市を占拠することで得る。都市の場所と数は限られており、都市を失うとペナルティになることから、VPはゼロサムになる。唯一、略奪によってVPを得るケルト人だけはゼロサムにならずにVPを得ることができる。また戦闘に勝利することで略奪品を獲得し、その略奪品をVPをにしていくことができるという点でも他の勢力とは異なる。

 

南方ではギリシャとローマのまさに血みどろの戦争が続いた。ローマは虎の子の独裁官(デクテーター)を登場させるが、ギリシャのダイスが冴え、ローマのダイスが走らなかったことから複数回の決戦でローマはことごとくギリシャに負けてしまう。

史実ではガリア人のブレンヌスによるローマ侵入に対抗するため「独裁官」が登場し、これを退けるのだが、ゲームでは1回1ターンの間のみ登場させることができる。

終盤、シチリア島東部の都市メッセナで反乱が起きる。メッセナを支配していたギリシャはローマとの戦争にかかりきりであったため南方へ戦力を送ることができなかった。代わりにギリシャと同盟関係にあったカルタゴがこれを鎮圧、同盟関係を壊すことなくギリシャの一都市を占拠してしまう、という波乱が起きる。

 

カルタゴが去った中央やや北イタリア。
ガリア人に、戦闘力「3」を誇るリーダー「ブレンヌス」がようやく登場。
青色ユニットがある場所はいずれもガリア人の拠点となるVP都市。

第6ターン

最終ターン、VPはカルタゴガリア人が伯仲した状態にあり、ゼロサムにより、ギリシャは中位、ローマ、エルトリア&サムニウムは停滞していた。

カルタゴギリシャとの同盟を破棄し、シチリア島東部を占拠し、さらには半島の先に侵攻する。

ローマは最後の力を振り絞りギリシャとの戦闘に及ぶが打撃を与えるには至らない。

ガリア人はカルタゴとの1VPを埋めるため、最後、ローマの都市に侵攻、ダイスの目に掛けるが、攻略には失敗した。

 

 

最終ターンの最終盤の状況。

ガリア人の一スタックはローマの都市に侵攻し、包囲・略奪を試みるがダイスの目はよくなかった(成功確率はそこそこあった)。

 

感想戦

細長い半島では逃げ場も迂回路もない。また各勢力間には緩衝地帯になるようなエリアもないため、アクションを起こせば即戦闘という過酷な状況からはじまる。この点、「戦国大名」なんかよりもずっとシビアだ。北進するか南に行くかの判断だけでガラリと状況が異なる。

今回ガリア人を担当したが、ガリア人はイベントで発生する「遠ガリア」を除き、後背を心配することなく、また領土も縦深があるため比較的ラクに感じた。動員能力が高く、回復力がある点も魅力だ。他勢力とのゼロサムに陥らない勝利条件も良い。

カルタゴは絶えずスペイン植民地を配慮しておくという必要はあるが、10戦力をどこの港湾にも送り込むことができるという海上輸送能力はどの勢力にもない特異な能力のため強力だ。

残る3勢力は書いた通り、かなりシビアな判断を要求される。

 

 

 

ギリシャを担当されたザハさんのブログです。冷静にルールや各勢力を分析されています。


 

 

(了)