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「沖縄の落日」(ゲームジャーナル)を対戦する(1/3)【訂正あり】

沖縄戦の陸戦を中心に、日米両軍の主力が激突した南部の戦いを首里防衛線が崩壊し第32軍が南部撤退を行う前あたりまでを扱ったゲームジャーナル誌の「沖縄の落日」を対戦した。発売当時、首里城火災のため、発売自粛?で入手できないといった話があったと聞くいわくつきの作品だ。

 

 

 

写真右手が北、マップ左上あたりに那覇の市街地ヘックスがある(ゲーム内では使うことはないが)。途中の高地や森林が主戦場となり、有名な嘉数高地(Kakazu Ridge)なども登場する。赤で縁取られたヘックスが日本軍が拠るところの陣地ヘックス。
カーキ色のユニットがアメリカ軍、茶色は日本軍。当たりくじのような赤の縁取りがあり、旭光がデザインされたマーカーは、日本軍側のチット(陸上支援部隊)で、戦闘時に開示するまで内容は不明となっている。  

 

 

ゲームシステムの紹介

攻守交代しターンを進めるオーソドックスなシステムで、戦闘は防御側射撃ー攻撃側射撃ー白兵戦というシーケンスで進んでいく。
射撃戦はファイアパワー方式で戦闘力(火力)の数値分の個数(地形修正等あり)のダイスを振ることで相手に与える損害を算出する「"6"出ろ」システムだ。結果は1ステップロスして後退か、単なる後退か。

射撃戦では物量(火力)がものいうためアメリカ軍有利、白兵戦では白兵戦値という異なる数値を用いるが、適用されるダイス修正により日本軍が若干有利にある(これにアメリカ軍が「火炎放射器」チットあたりを使うとその優劣は逆転される)。

全12ターン。
時間的なスケールは明示されていないが、史実と照らすと、1ターンは3~4日程度と想定される。主力となる歩兵部隊はアメリカ軍は大隊単位、日本軍は中隊~大隊単位となっている。歩兵以外の支援部隊の多くはチットとして提供される。


チットシステムは本ゲームの最大の特徴

チットは各プレイヤーターンの最初に決められた枚数を引き、その内容によってすぐに適用されるものや、手元に保持しておくことができるもの、部隊ユニットとして増援と同じようにマップ上に登場させる必要があるものがある。なお手元に留め置いた場合の枚数制限はない。

  • イベント:即イベントを発生させる
  • 海空戦部隊(水上艦艇、航空機):航空部隊や水上部隊、または海空でのアクションを行う
  • 陸上支援部隊:マップ上に配置し、陸上ユニットとして使う
  • 戦術:戦闘発生時に使用し効果を及ぼす(アクションカードとしての機能)


陸上戦闘に直接関係がするのは陸上支援部隊と戦術に関するチットになるが、相手に効果を与えるものと、その効果を打ち消すチットがあり、チットを出す、出さないというカードゲームでの札の出し合いのような展開になる。

日本軍の歩兵部隊の多くが配置される陣地ヘックスは防御時の地形効果として、戦闘解決に扱うダイスの数を半分にする。例えばアメリカ軍が火力を20戦闘力を集めると戦闘解決に20個のダイスを振ることになるのだが、陣地ヘックスはダイスの個数を10個に半減してしまう、というかなり強力な防御効果を持っている。
この陣地ヘックスに対抗できるのはアメリカ軍の「戦闘工兵」になり、陣地ヘックスの地形効果を無効化できる。
アメリカ軍が「戦闘工兵」チットを投入すれば、日本軍はその対抗として「狙撃兵」チットを投入することで「戦闘工兵」チットを無効化できる。アメリカ軍はさらに「コマンダー」チットを投入することにより日本軍の「狙撃兵」チットを無効化できる。結果として、当初の「戦闘工兵」チットが残ることになり、陣地ヘックスはダイスの数を半減させるという地形効果を失うことになるのだ。

このように戦闘解決に際して、戦闘に参加させるチットを交互に提示していくことにより、兵力を強化したり、特殊な効果を及ぼしたり、さらに相手のチットを無効化できたりする。

アメリカ軍側の白兵戦値を強化することができる「火炎放射器」チットに対しては日本軍の「狙撃兵」チットが有効。「狙撃兵」に対しては上記の通り、「コマンダー」により無効化が可能。
日本軍の「夜襲」に対しては「照明弾」、アメリカ軍の「戦車」と「火炎放射戦車」に対して、日本軍は「対戦車砲」や「対戦車班」が対抗する。「対戦車班」はアメリカ軍の「コマンダー」により無効化される。
チットは一度使用すると除去されるが、一部のチットを除き、一定の処理の後、プールに戻され、再度ドローすることが可能となる。

 

史実を考慮すると日本軍・アメリカ軍のチットの利用環境の差は理解できるが・・

沖縄戦においてアメリカ軍は豊富な補給と膨大な増援を擁し、さらに制海権・制空権を握っていた。一方の日本軍は、孤立化した状態にあり、救援は望めなかった。制空権を握られた状態では、日中の部隊の自由な移動はまず不可能であった。
こうした両軍のおかれたシチュエーションの違いにより、チットの種類や構成だけではなく、チットの使用環境は両軍でかなり異なる。

アメリカ軍のチットは特に制約もなく再使用できるのに対し、日本軍は支援部隊系のチット(「機関銃班」「重擲弾筒」「対戦車砲」などのチット)を中心に一度除去された後は補充ポイントがなければ再配置ができない。日本軍に十分な補給や補充があった訳ではないため、補充ポイントを得る可能性は低い。ポイントを得るには「補充」チットを引く必要があるが、「補充」チット自体の出現頻度がレアな存在だ。

毎ターンに得られるチット枚数はアメリカ軍は終始6枚なのに対し、日本軍は初期の3ターンのみ5枚、以降は4枚と差がある。さらに記載した通り、日本軍は支援部隊を中心に再利用がほぼ難しいのに対し、アメリカ軍には制約がない。アメリカ軍は下手に手元にとどめておくよりも、どんどん使っていくことで、有益なチットを何度も登場させることができる。
日本軍のいくつかの戦術チットを無効化できる「コマンダー」や、陣地の地形効果を無効化できる「戦闘工兵」など最たるものだ。一度引いて使わないで手元に置いておくチット枚数に制約がないこともあって、アメリカ軍は、日本軍のチットを使った活動を封じることは比較的容易に思われる。日本軍からすると「狙撃兵」チットを使って除去したこれらのチットがペナルティ無しに(再登場までに多少タイムラグがあるのと、プールからドローしてくる「運」は必要だが)何度も再登場してくることになる。
またカードドリブン系のゲームにあるような手元に貯めておいておける手札制限がないため、アメリカ軍は有用なチットは何枚でも手元にとどめておくことができ、使用したい時に登場させることができる一方、日本軍はマップ上に配置することが前提になるチットが多いこともあって、手元に留めおくほどの余裕はない。
アメリカ側の攻撃に対して日本軍の有効な反撃手段となる「狙撃兵」や「対戦車砲」といったチットはマップ上に配置することが前提になるのに対し、アメリカ軍は、「戦闘工兵」や「コマンダー」をあらかじめ配置する必要はなく、使いたい戦闘にそのまま使用することを宣言することで使用できる。
【訂正】「コマンダー」や「戦闘工兵」を宣言することで自由な箇所で使用できると書いているが、これは適用間違いと思われる。基本的にアメリカ軍の部隊または戦術チットも日本軍と同様に移動をしていく必要がある。
日本軍が当時自由な移動ができない状態であり、一方のアメリカ軍の移動や配置を邪魔するすべがなかったことを考慮すると、チットの扱いの差は当然の仕様とも言えるが、如実に戦いの流れに影響を与える。

日本軍は戦力が貧弱であるため強力な地形効果が得られる陣地ヘックスにこもることになる。それでも初期のうちは「重擲弾筒」や「機関銃班」といった支援部隊のチットとスタックさせることでなんとかアメリカ軍側に多少の損害を与えることもできるのだが、こうした支援系チットもいったん除去されると復活は難しく、またゲームが進むにつれ増援が到着するアメリカ軍に対して日本軍はほぼ増援がないことからも、だんだんとジリ貧になっていく。地形的に包囲されやすい陣地の場合は、防御側後退であっても除去になること、後方の陣地は構築が間に合っていない(日本軍の「設営工兵」チットがあれば陣地とすることはできる)こともあり、拠るべき拠点が十分ではないことなどのため急速に日本軍はその勢力を失っていく。
増援が(ほぼ)ない、補給もないというのは実際の日本軍の通り、といえばそれまでなのだが、本ゲームの日本軍もあるところまでは敢闘できるものの、物量に押されて最終的に防衛線を破られることは必然となっている。

 

【補足】 こうしたチットの利用環境(再利用環境)のアンバランスな状態を埋めるために、アメリカ軍には各プレイヤーターンにおいて攻撃を発起する地点分の補給ポイントを消費するというルールがある。この補給ポイントというのはチットを消費することで得られる、ということで余計にチットを消費させるルールとなっているのだが、そもそものところでドローできるチット枚数が多いためそれほどの負担になる訳ではなく、今回のターンは補給ポイントが苦しいから攻勢を控えよう、といった抑制効果はあまりないように感じられた。

 

勝利判定はVPによるが得点方法は独特

勝利判定は勝利ポイント/VP制なのだが、「最終的には戦線崩壊する」ことが必然である戦闘を扱うにあたってポイント獲得方法は独特なものになっている。
VPのメインの獲得方法はマップ上にある制高点ごとに点数がわからないように伏せられて配置されたVPマーカーを取り合うことによる。ゲーム開始時にマップ内の制高点のすべては日本軍が占めているのだが、アメリカ軍は毎ターン1個ずつこのVPマーカーを獲得しなければならない。制高点を確保するとそのままVPマーカーはアメリカ軍の手に落ちる(ただし点数面を見ることができるのはプレイ終了時だ)
日本軍は、あるターンでアメリカ軍が1個もVPマーカーを確保できなかった場合、任意の日本軍支配下にある制高点のVPマーカーを獲得できる。アメリカ軍側からすると、毎ターン1個のVPマーカーを確保するというノルマが与えられていると言える。
制高点の多くは日本軍の陣地ヘックスとなっていることから、戦闘は制高点の取り合いとして展開するという訳だ。
ただこのルールはゲーム終盤、アメリカ軍におかしな行動を引き起こす。
日本軍の戦線を突破し、那覇に突入が可能になったとしても、アメリカ軍部隊は踵を返し、VPマーカーのある制高点の確保に向かってしまうのだ。もっとも戦線突破され、その穴を塞ぐ手段もない時点で日本軍の実質敗北ということだろうから気にすることはないかもしれない。

 

日本軍の特攻作戦もVP獲得手段だが、全面的に「運」の要素に依存している

制高点におけるVPマーカーの争奪というだけでは日本軍が不利とされたか、日本軍はチットによって引かれた海空戦の結果によってVPを得ることができる場合がある。
「菊水作戦」は特攻作戦だが、ダイスによる結果によって成功すると、VPを得るか、アメリカ軍の水上艦を撃退することができる。「大和特攻」も同様だ。他にも「特殊作戦」として、桜花による攻撃、彗星による薄暮攻撃、義烈空挺隊の突入などが発生し、VPを得ることもある。
こうした特攻作戦のチットを引くことも、その後のダイスでの判定もいずれも運次第となるので、運次第の方法に大きく依存(感覚的には日本軍のVP獲得手法の2/3程度)してしまうのは問題ではないかという印象はある。

 

(つづく)

 

 

 

 

写真でわかる事典 沖縄戦

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