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「INFERNO: GUELPHS and GHIBELLINES VIE for TUSCANY, 1259-1261 」(GMT)を対戦する

 Levy & Campaignシリーズ第3弾「Inferno: Guelphs and Ghibellines Vie for Tuscany, 1259-1261 」(GMT)を対戦しました。
第1弾「NEVSKY」はドイツ騎士団の北辺ロシアでの侵略、第2弾「ALAMORAVID」はイベリア半島レコンキスタときて、今回の舞台は中世イタリアです。豊穣の地、北イタリアへ進出をはかる神聖ローマ帝国ローマ教皇との権力争いを背景に、イタリアの都市国家や封建領主が教皇派(ゲルフ Guelphs)と皇帝派(ギベリン Ghibellines)の二派に分かれた争いの一部を切り取ったものになっています。

 

 

背景

イタリアの都市国家教皇派(ゲルフ Guelphs)と皇帝派(ギベリン Ghibellines)に分かれ対立していました。

それぞれの派閥は、教皇権・皇帝権それぞれの擁護と強化を主張し、教皇派は皇帝派の都市国家同盟に対し教皇の権威に従うことを求め、皇帝派は神聖ローマ帝国の皇帝権を教皇派の都市国家同盟から奪い返すことを目指していました。

教皇権と皇帝権は中世ヨーロッパ史を見た際に避けて通れない世界史の必須用語ですが、ChatGPTに訊ねると次のように答えてくれました(細部がちと区別がつきにくい印象がありますが)。

教皇権とは、ローマ・カトリック教会の最高権威である教皇が持つ権限のことを指します。教皇は、信仰上の問題や教会内の権力関係に関する問題などを決定する権限を持っており、政治的・宗教的な問題に対する決定権がありました。

一方、皇帝権とは、神聖ローマ帝国における皇帝が持つ権限のことを指します。神聖ローマ帝国は、9世紀にカロリング朝カール大帝によって建国され、10世紀以降はドイツ人の支配下に置かれました。皇帝は、国家の統治や司法制度、宗教的問題などの権限を持ち、ローマ帝国を継承することで、神聖なる権威を有していたとされています。

中世ヨーロッパにおいて、教皇権と皇帝権の間にはしばしば対立が生じていました。教皇と皇帝の間で権力闘争が起こることがあり、教会と国家の関係や、教会と各地方の権力者との関係に影響を与えることとなりました。

本作が扱う1259年から1261年にかけての時期は教皇派の代表格としてフィレンツェ、皇帝派の代表格としてシエナという、トスカーナ地方を代表する2大都市国家*1が相争う関係にありました。やがて両者は1260年、モンテアペルティ(Montaperti)の戦いにて激突しました。

イタリアにおける教皇派と皇帝派の説明として次のサイトがわかりやすいので紹介します。

教皇党/ゲルフ/グェルフ

皇帝党/ギベリン

 

モンテアペルティの戦いは英語Wikiにて紹介されています。

 

ゲームシステム

 Levy & Campaignシリーズのルールを踏襲しています。

2作目以降のルールブックの巻頭にはそれまでのシリーズ作品の変更点が一覧化されていて親切です。全体として根幹になるルールの変更はなく、細かなアレンジが施されているといった印象です。Levy & Campaignシリーズの特徴的なルールについては過去2作にて紹介していますので参照してください。

 

 

プレイした印象では前2作に比べると(特に第1作の「NEVSKY」に比べると)、補給や徴収がやりやすい印象です。
従来は、前線に軍隊を送り込んだものの十分な補給を行うことができない、資金が足りずに動員した領主たちが軍役期間を終了させるとさっさと帰国してしまう、という悲劇に何度見舞われたことでしょう。

本作では、糧秣(軍勢を養うのに必要)や資金(領主たちの軍役期間を維持するのに必要)繰りは取り組みやすく、楽になったように感じられました。それぞれのゲームの題材の差、かたや茫洋と凍てつくロシアと、人口が密集し開かれたイタリアの平原との気候条件・環境やインフラの差に拠るのか、あまりに厳しい状況にプレイアビリティを向上させるためわざと条件を緩和するようにデザインされたのかはよくわかりません(デザイナーズノートは未読です)。

輸送手段は、馬車と船だけになりました。船は皇帝派の有力都市であるピサだけが使うことができる輸送手段であるため、実質は馬車のみということになります。
第2作「ALMORAVID」では、運搬手段のひとつである驢馬は、驢馬自身が糧秣を消費する、ということになっていましたが、馬車を牽く馬匹は糧秣を消費しませんので、考慮が不要となりました。

本作から追加されたルールに「反乱と裏切り」があります。
教皇派と皇帝派はいずれも都市国家や封建領主の集合体であり、それぞれ一枚岩ではなかったのです。都市ごとの支持層や政治情勢は複雑で、同じ都市でも時期や状況によって支持する派閥が変わることもありました。例えばシエナは13世紀なかば頃まで教皇派だったのですが、1249年に皇帝派の勢力下に移行しました。1260年のモンテアペルティの戦いで教皇派のフィレンツェに敗れ、シエナの皇帝派の指導者たちは追放されました。シエナは再び教皇派に接近し、教皇派の都市国家として発展していきました。
シエナの例にも見るように各都市国家がいずれかの勢力に強く結びついている訳ではなく、国家内外の勢力争いの中で旗幟をころころと変遷させていったようなのです。

「反乱」はいずれかの勢力が都市や街などの拠点を相手方に占拠されたり、領主が戦闘で除去された場合に、マップ上の都市や街がリストアップされた判定表でランダムに決められた場所で「反乱」が起こる可能性がでてくる。「裏切り」は直接的に相手勢力下の都市や街、領主などに「裏切り」を働きかける、という内容になっています。

プレイをした印象としては「反乱」はランダムに指定された都市や街が「反乱」を起こす条件が揃っている事自体が珍しいと思われるため、発生確率は高くないように感じられました。ただ、ランダムに指定された場所が悪い場合は、連鎖的に「反乱」が発生する可能性が高まるので注意が必要という印象です。

「裏切り」については相手に働きかけるためには資金が必要なアクションになっています。過去作品に比べ資金繰りが厳しくはないとは言うものの、資金がふんだんにある訳ではないため、「裏切り」工作にどれだけ回せることができるか、という印象を受けました。
いずれも十分にプレイ内で検証した訳ではないので、今後のプレイの中で使っていくこととします。

 

他には、両勢力の長であるフィレンツェシエナについてはより大規模な兵力を招集しいっしょにアクションを行うことができるようになっています。
ただより多い兵力はそれだけ糧秣を消費することになります。本拠地やその周辺に位置している際はまだしも、少し本拠地から離れた場所に移動を行った場合、より多くの馬車を集め、長い補給線を引く必要がでてくるという悩ましい制約が生じてくるのです。

 

マップは前2作に比べるとコンパクトになりました。マップ上辺の中央あたりにある大きな町のシンボル(都市)がフィレンツェ(白地の盾に赤色の十字架の紋章マークがある)、そこからまっすぐ下へおりてマップ中央やや下あたりに同じ大きさの町シンボル(都市)がシエナになります(いくつかの紋章が記載されていますが、目立つとことでは盾の上半分が白・下半分が黒の紋章)。
皇帝派の都市国家(かつ今回唯一、船を移動手段として使うことができる)として登場するピサは、フィレンツェから左手に移動したマップ左端にある大きな都市がそれです。

マップは上が北。太めの道路が街道、茶色の線はそれ以外の道になります。ローマ時代から伝統的に街道が整備された地域ということからか、街道を通る際には移動可能距離が増加し効率的な機動ができるようになります。

街道は南北に敷設されていることが多いため南北方向(マップの上下方向)の移動は容易いのですが、東西方向には街道がないことからマップの左右の移動は動きにくくなっています。

 

グーグルマップと比べると都市間の位置関係は同じですが、街道の様相は異なりますね。

 

キャンペーンゲームでの初期配置。紫は教皇派、黄が皇帝派。シリンダー型の木駒が領主に率いられた軍勢を表します。
マップ上に登場するシリンダーの数はそれほど多くないことから、ゲーム自体はサクサク進みます。今回は初回だったこともあり、半日強で10ターン程度の進行といったところでした。

 

ターン記録表
春2・夏2・秋1・冬1の計6ターンで1年となります。キャンペーンゲームは全16ターン。そのうちターンが属する季節によってターンの間に使うことができるアクションカードの枚数が異なり、春・秋は7枚、夏は6枚、冬は4枚になります。
各軍勢(シリンダー)はひとつのターンの間に複数のアクションを実施できますが、復数の軍勢がマップ上に展開するようになると、どこに重点を置きアクションを行わせるか悩むことになります。

ターン記録表上のシリンダー型木駒は動員前の領主が登場する時期、長方形のマーカーは軍役期間の終了時期を表します。軍役期間はイベントカードによっても短縮化や延長が発生するため、常に注意を払っておく必要があります。期限を迎える領主に対しては資金を与えるか(与えるためにはその資金を徴収か略奪により確保しておく必要があります)、直接略奪を許すかしないと帰国してしまいます。

 

各紋章毎のカードは領主、カード上におかれた木駒は動員された軍勢を表します。領主によって動員できる兵種や数は異なり、これらの兵力を表す木駒は形と色により区分されています。三角形の木駒は騎兵(1個で100~200騎)、長方形の木駒(1個で500名)は歩兵です。例えば、灰色の三角形はドイツ騎兵、緑の三角はイタリア騎兵です。兵種によって攻撃力・防御力ともかなり差があります。最強はドイツ騎兵です。
戦闘は、①弓兵による射撃戦、②騎兵による攻撃、③歩兵による攻撃と順番に解決されます。
復数の領主が参加する戦闘の場合は、戦術ボードが登場し、本軍の他、左翼軍・右翼軍と展開し、戦闘解決を行います。

 

勝利条件はVPによります。相手勢力圏内の拠点(都市・町・城郭)を占拠等を行うとポイントが獲得できます。拠点の占拠のためには「強襲」と「包囲」があります。「強襲」は相応の損害が出る可能性があり、またその拠点を廃墟にしてしまう可能性があります。防御側の降伏を目指す「包囲」には時間が必要です。「強襲」を行う場合、盤面に展開している軍勢以外にその拠点特有の防衛部隊が登場するため、敵軍勢がいないからと言っても安易に攻撃をしかけるのはリスクがあります。

 

プレイ

 

 

 

教皇派(フィレンツェ、紫色)を担当。
教皇派は初期状態で、皇帝派(シエナ、黄色)に勝り、皇帝派の勢力圏内のいくつかの町/城砦にもシンパを集めています(紫色のマーカーが配置された町/城砦がそれ)。逆に教皇派の勢力圏内の2か所の町/城砦が皇帝派の影響を受けています(黄色マーカーの場所)。

皇帝派の軍勢はシエナに配置されていますが、教皇派の軍はフィレンツェとアレッツォ(AREZZO)の2つに分かれている状態です。

 

いつもの事ながらこのシリーズの作品は展開に悩むことになります。

教皇派は、一度は自勢力内の皇帝派シンパの町を包囲するものの、本拠地を離れている間は統治系のアクションを起こせないことと、対象の町が街道沿いに位置する場所でないことから補給や移動に手間がかかることなどから早々に手を引くことになった(街道以外の道では、移動が1アクションで実質1つしか移動できないため、不自由になる)。

 

10ターン近く。
両軍とも動員が進み、そこそこの数のシリンダー(軍勢)がマップ上に展開された状態。皇帝派は、自勢力内の教皇派シンパの町を包囲降伏させポイントを稼ぐ。
町の陥落により、「反乱」チェックを行うことになるが、なかなか反乱が発生にはつながらない(上述したように「反乱」の発生確率はあまり高くないように思える)。

教皇派は一部の軍勢が「長距離略奪騎行」のカードを用い、教皇派勢力圏内の町を略奪して回るという悪辣な手段によりポイントを得ている。とはいえ同じ町を何度も略奪することができず、ひとつの町あたりに1/2ポイントしか得られない。

今回は時間切れにてここで終了したが、皇帝派が街道による機動を利用して軍勢の終結と、自勢力圏内の平定を効率的に進めたのに対すると、教皇派は作戦目的が一定せず、効率的な運用はできなかった。

 

上にも書いたが今回、補給や資金の徴収はシリーズの以前の作品よりはスムーズに実施でき、その分、封建領主たちの軍役のコントロールは楽だった。補給の制約はこのシリーズならでは。まだまだうまくできている訳ではないが、非常に面白い要素でもある。

反乱と裏切り、また旗幟をはっきりしない一部の領主に関する特別ルールなど本作特有のルールやイベント等については今回のプレイの中では十分でてこなかったこともあり、次回以降での研究としたい。

 

(終わり)

 

 

 

 

 

 

*1:地図から両都市は70キロ程度しか離れていない