Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

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Churchill(GMT)を対戦する

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千葉会 年末オフ会でGMT Churchillを初プレイしました。2019年最後のゲーム会となりました(12/28)。お相手いただきましたRさん、Hさんありがとうございました。

と、AARに入りたいところなのですが、どうもこのゲーム、会議を中心に外交や軍事を描くという意欲作でゲームエンジンはかなりシステマティックで(こうした抽象化という行為がゲームデザインであり、デザイナーの腕の見せどころなのだと思います)、叙情的ではないというか想像力が働きにくいというかそういうゲームのように感じられて、あまり良いAARになりそうになかったので簡素に行きます。

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左側の3方向にマス目が伸びているエリアが会議エリアです。中央におかれた議題チットを自分のほうに引き込んでいるとその議題を有利に運んでいるとみなされます。右側は戦況図エリア、四角のブロック状のユニットが概念的に部隊を表します。丸い円盤だったり円筒はそれぞれの国に対する影響力を表します

外交団

担当はソ連スターリンです。オーナーのRさんがチャーチル、Hさんがルーズベルトです。
最初に3人の首脳のカードと各国21人のスタッフカードが配られます。
史実ではルーズベルト終戦を見ずに亡くなっていますのでルーズベルト自らが交渉に出ると健康チェックが発生します。チャーチルも心臓病の持病があるため同様に健康チェックがあります。両名はそれ以外にもイベントカードで死去することがあります。
スターリンには健康問題はないのですが、スターリン自らが交渉に挑んだ場合は一定のダイスの目により、スタッフが萎縮するというハンディを抱えています(偏執症、常に他人が自分を批判しているという妄想を抱くものを指す…)。
さらにイベントカードでは他国指導者に立腹したとか、モスクワから移動できなくなったといった理由で議事へ参加できなくなるイベントが散見されます。

20数名のスタッフカードはそれぞれ実在の名前が記載されています。
ソ連のスタッフで名前がわかったのはジューコフとベリヤくらいです。スタッフにはそれぞれ得意分野だったり特殊スキルが記載されています。
ベリヤの場合は扱う議題が「原爆開発」の場合、交渉力が+3になるという優秀なスタッフなのですが、怖い特殊ルールが付随しており、他のスタッフを一定のダイスの目が出た際に粛清してしまいます。*1
それ以外のソ連外交スタッフの能力で目立つのはスターリンが活動する会議では交渉力があがるという、おべっか使いなのか、虎の威を借りる系の人物といったスタッフが数人います。逆にスターリンが活動する会議では交渉力がかなり下げるスタッフもいるのですが、これはこれでスターリンとの関係性は大丈夫なのかしらと心配になります。

各国のキャラ付けとして国家の特性という国ごとにルールが設定されています。
イギリスは協議時の交渉力が常に1プラスになります。ソ連は逆にディベートを行う(=議事に反対する)際の交渉力が1プラスになります。
ソ連の国家特性はまさにミスターニエットと言われたグロムイコの体現ですね。

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ソ連の軍事的状況

戦域マップは欧州戦域と太平洋戦域があります。
欧州戦域の東部戦線側、また太平洋戦域はモンゴルの北方にソ連軍は位置します。
欧州戦域側のソ連が主力となる東部戦線は、スタート時点では「ドン河」に戦線があり、順に「ベラルーシ」「ウクライナ」「プロシア」「東ドイツ」とあって、「ベルリン」になります。通常は戦闘に勝利すると1個ずつ前進、防御側と戦力に差があってさらにサイの目が良いと2個前進できます。ソ連がベルリンに先乗りするとボーナスがもらえますので、勝利のためにはアメリカ・イギリスに先駆けて前進する必要があります。

ゲーム開始時、西部戦線側はまだフランスに上陸する前の段階になり上陸作戦を行うには、会議で「第二戦線」という議題に3国が合意する必要があります。「第二戦線」はドイツ軍戦力の牽制になる一方、ベルリン占領に向けた競争が生じることになるので、ソ連としてはそれを許容するタイミングは考えどころかもしれません。

3国合意がないと進めることができないという状況は太平洋戦域側のソ連も同様です。「ソ連の対日参戦」が合意されて初めて、ソ連満州に侵攻することができます。ソ連の対日参戦は日本が無条件降伏*2をする際の条件のひとつになるため、アメリカ・イギリス側はそのタイミングを考慮することになるでしょう。それまでシベリアのソ連軍は休憩状態です。

第1回目の会議は史実では1943年1月に開催されたカサブランカ会談になりますが、この時期ソ連はまだウクライナでドイツと激突している時期です。
ドイツ軍も強大であるためなるべくイギリス・アメリカに牽制してもらい、東部戦線の負担を減らしてもらう必要があります。またノルウェー沖に一定の海軍部隊をおいてもらい、ムルマンスク輸送船団の安全を図る必要があります。

プレイの状況

プレイが始まると即、第1回目の会議が開催されます。
会議の主導権を取るためのビッドを行います。ビッドはスタッフカードの中から1枚を選び、出されたカードの交渉力を用いて行います。
最初のビッドはイギリスが先行。ソ連は様子見で低いカードを出しました。

会議の議題についてソ連は東部戦線で対面しているドイツ軍の圧力を減らすため、アメリカ・イギリスに牽制してもらうのが常道ということ。よってソ連から提案する議題は「攻勢目標」や「援助」になります。
「攻勢目標」の議題についてソ連のほうに引き込むと、アメリカやイギリスの攻撃部隊の配置を指示できるようになるのです。

議題のひとつである「政治軍事情勢」、通称「Pol-Mil」は最初分かりづらかったです。これを(議論の末に)獲得すると中小国に対して働きかけ、その国の内部に諜報網を設定したり、または政治的な団体を組成することができるという項目です。最終的にはその国がどちらにつくのかとう話に発展するという議論マーカーです。

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8ターンにドイツは降伏します。ソ連はいち早くベルリン一歩手前まで迫っていたのですが、ダイスの目に恵まれずアメリカ・イギリス軍に先を越されてしまいます。ベルリン先乗りボーナスはとれませんでした。東欧諸国は真っ赤になっていますが、占領の過程で赤化を進めていた結果です。 太平洋戦域ではアメリカは日本の無条件降伏条件をクリアできず(原爆の開発ができなかった )、本土決戦になだれ込みました。フィリピンから攻め上げたマッカーサー軍と中部太平洋から迫った軍と挟撃され日本は降伏します。ソ連満州まで来ていますが、船を用意していなかったため、この日本本土分捕り合戦に参加できずに終わりました。

感想戦

最初の数回の会議で会議の回し方などの手順が飲み込めて、次の数回でどの議題を選び、どのような考慮が必要で、結果どのような影響が出るのかを理解できました。勝つためには何をしないといけなくてという動きができるようになったのはようやく最後の数回という感じでした。

お昼にインストから初めて夕方には10回の会議を行うキャンペーンゲームを終わらせることができました。慣れるともっと早い展開が期待できそうです。

マニュアルに史実に即した行動を取ることが勝利への道すじだ、といったことが書いてあったため、史実でのソ連の行動を想定しながら勧めていくことにしました。特別ルールもあることですし、「Niet」を連発してしまいました。

前半は枢軸軍も強力であるため協力しながら枢軸側の力をそいでいく協力プレイ状態なのですが、戦争の帰趨が見えてくるとだんだんとそれ以外の領域も考慮した競合状態を意識する必要がでてくるでしょう。「政治軍事情勢」「グローバル*3」「原爆開発」といった競合関係がかかわる議題を意識してきます。

結果的にはイギリスが圧倒的なポイントを稼ぐことになり、このままだとアメリカとポイント差が開きすぎるということで抑制しないと勝ちにならないというこのゲーム独特の状況*4はあったのですが、結果、圧倒的イギリス、アメリカ、ソ連の順位になりました。なおルーズベルトは途中で死去し、トルーマンが大統領職を引き継ぎました。チャーチルも最後には心臓病で伏しました。

ゲームシステム自体の抽象度が高い割には、個々に発生する事象や状況はヒストリカルになってくるところはよかったですね。

一通りゲームを回しシステムが理解できたところですので、またいつか再戦したいものです。

*1:ベリヤはNKVDを指導し大粛清を実施した人物です。

*2:日本は無条件降伏をすると本土決戦を避けることができる。

*3:戦後体制に関する議論

*4:アメリカとイギリスは協調路線であることが前提なので、どちらかが一方的にポイントを稼ぐということはこの協調路線の否定になるということによるペナルティのようです。