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”浄土”という名のゲーム「The Pure Land: Ōnin War in Muromachi Japan, 1465-1477」(GMT)をテストプレイ対戦する

COINシステムを用いて応仁の乱を描くという話題のゲーム「The Pure Land: Onin War in Muromachi Japan, 1465-1477」のテスト版を対戦しました。

デザイナーはミュンヘン在のJoe Dewhurstさんという日本史に通暁されている方です。

応仁の乱と言えば戦国時代の端緒となった動乱であり、11年も続いたという日本史を語る上で外せない事件にも関わらず、日本人でも説明が難しいこの複雑な戦乱が、どのようにゲームに落とし込まれているのか非常に興味深いところです。
「浄土」というタイトルもまた意味深です。

注意!

今回の記事内容は、ルールブック等と照らし合わせて書いた内容ではないため、正確ではない部分も多分に含まれています。

また写真のコンポーネントもテストプレイ用に提供されたマップやカード内容の他のユニット・駒類は他のゲームからの転用ですので、製品版のものとは異なります。

 

 

COINシステム

今回、ベースとなったゲームシステムとしてCOINシステムが用いられている。

COINシステムは従来のウォーゲームが描いてきた正規軍同士の戦闘や戦争ではなく、体制VS反体制、正規軍VSゲリラ・テロといった不均衡な戦争をマルチプレイヤー、特徴的なカードドリブンシステム、エリアマップといったスタイルで扱ってきたシリーズだ*1。このブログでもこれまでいくつかのCOINシステムのゲームを扱ってきた。基本システムについてはそちらの記事を参照してほしい。

COINシステムの過去記事 *2

 

「The Pure Land」の基本システム

プレイヤー勢力

プレイヤーが操作する勢力は全4勢力。「細川氏」「山名氏」「地侍」「一向一揆」となる。

体制勢力 ー「細川氏」「山名氏」

COINゲームに登場するプレイヤー勢力は体制側か反体制側かに分類されるが、このゲームにおける体制側(COIN側)は「細川氏」と「山名氏」が該当する。

細川、山名は足利将軍家を中心とする幕府体制を支持する勢力なのだが、応仁の乱における東軍・西軍それぞれの総大将として両者は敵対関係にある。

反体制勢力 ー「地侍

今回もっともユニークな存在は「地侍」だ。

地侍」と「一向一揆」は反体制派であるが、ゲーム内ではその名称が示している在郷の武士階級だけを単純にあらわしている訳ではないようで、地侍」が行使できるコマンドや能力、またプレイ中のイベントを見ると、農民としての性格、商人としての性格も仮託されていることがうかがえる。

地侍」は全国から年貢(ゲーム内ではリソースを呼ばれる)を集めるが、その国(例えば、“近江”、“播磨”などの旧国によりマップは分割されている)を「細川氏」か「山名氏」が“支配”している場合は、リソースを上納する。「細川氏」「山名氏」はその上納されたリソースが収入となる。

各国の生産力や“足軽”の動員力はその国に配置された農民ユニットの数に依存するが、農民ユニットの追加は「地侍」だけが行うことができる。

各国を支配する「細川氏」や「山名氏」は自国に配置された農民ユニットが増加すると国力や動員力が増えるというメリットがある一方、“一揆”が発生するとその国の農民ユニットはすべて“一揆”ユニットに変貌するため、手放しでは喜べない。

農民を増やすのと同様、“一揆”を発生させることができるのは「地侍」だけである*3

細川氏」「山名氏」のような武家が各国に城を構築できるのと同様に、「地侍」は国に“町”を構築できる。“町”があると「地侍」は、手元の年貢(リソース)を“富(Wealth)”に変更することができる。

地侍」の勝利条件のパラメーターのひとつには“富(Wealth)”の蓄積があるため、町をつくって“富(Wealth)”を蓄積することは重要な行動となる。

支配層である武士に収奪されない富を蓄積していくというのは、商人としての立ち振舞いと思われる。*4

反体制勢力 ー「一向一揆

最後の「一向一揆」はその名の通り反体制の宗教組織である。登場する「僧兵」の扱いは他のCOINゲームにおけるゲリラ勢力を基本としている。

一向一揆」勢力が足場のない国に進出する際はまず“念仏マーカー”を置く。民衆の厭世観を高揚させるといったところだろうか。次に、僧兵ユニットが配置される。僧兵ユニットは、通常は“潜伏状態”で配置され、“潜伏状態”の間は体制側の軍勢などに攻撃されない。が、一度、叛乱、本ゲームの場合は「一向一揆」が起きると“顕在化”状態となり、兵力として扱われる。

一向一揆」はその根拠地として、「寺院」を建立することができる。

 

 

マップとエリア

マップの収録範囲は、北は越中、美濃、尾張を結ぶラインが北端、南は筑前が南端。近畿、中国、四国はすべて収録されているという範囲。基本は旧国単位の国に分割されている(伊賀、飛騨といった小国は捨象されている)。

COINゲームとしてはエリア数が多く、また細長い。端から端まで通常の移動コマンドだけでは移動がままならないことを受けてか、「細川氏」「山名氏」には海上輸送という手段が提供されている。

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「支持」と「支配」

COINゲームシステムにならい、各国には「支持」と「支配」というふたつのパラメーターが用意されている。

「支持」は足利将軍家を頂点とする室町幕府に対する“支持”状況を表す。

「支配」は「細川氏」か「山名氏」のいずれかの支配下にあるか、または支配されていない状態かを表す。

ノンプレイヤー守護大名の登場

さらにこのゲームにはノンプレイヤー勢力として各国を領地とする守護大名*5が登場しており、それぞれの守護大名が、「細川氏」「山名氏」のいずれに忠誠を誓っているのか(または中立か)がパラメーターになっている。この守護大名の「忠誠」のパラメーターは、各大名の領国の「支持」や「支配」の状況に関わらず独立して動くため、マップ上の各国の状況を表す3つ目のパラメーターとして機能し、応仁の乱当時の混沌とした支配状況が表現される。

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有力守護大名クラスのノンプレイヤー勢力が、「細川氏」(青色)と山名氏(赤色)のどちらに忠誠を向けているかを示している。この「忠誠」状況は、カードイベントや、コマンド、または戦闘結果などにより左右される。

細川氏」「山名氏」とも自分に忠誠を向けている守護大名の領地からのみ徴兵(足軽の募集)を行うことができるため、軍事力の拡大のためには彼ら守護大名の忠誠状況は重要な要素となる。

 

例えば、加賀の国はノンプレイヤー守護大名のひとりである富樫氏の領地だが、すでに「一向一揆」勢力が幅を効かせているため、「細川氏」「山名氏」のいずれも勢力下に置くことができずに無秩序状態にある。加賀の国では、幕府に対する「支持」も失われている。富樫氏は「細川氏」(東軍)支持であるため、「細川氏」はここから徴兵をすることができるが、「支配」はないため年貢を徴求することはできない(「地侍」は加賀から収穫した米を上納する必要がなくなるため、そのまま収入とすることができる)。

美作の国は「細川氏」支持の赤松氏の領地だが、隣接する「山名氏」が兵力を送り込んでいるため「山名氏」支配下にある。「地侍」は美作から収穫した米の一部を支配している「山名氏」に上納しなければならない。が、「山名氏」が美作から徴兵するためには、赤松氏の忠誠を、「細川氏」からひきはがし、「山名氏」支配にしなければならない。

京都は特別なエリア

マップの中で京都だけは特別なエリアとして扱われる。

京都に軍勢を駐屯させることができるが、「収穫期(Harvest)」(中締め)を超えて駐屯させるには費用を支払わなければならない。京都を「支配」していることは幕府中枢を握っていることを表し、イベントによって、守護大名たちの「忠誠」が、京都を支配している側(「細川氏」か「山名氏」)にシフトするものがある。

このため「細川氏」「山名氏」両勢力にとっては京都の支配は優先すべき目標となる。こうした仕掛けにより、不毛で収入がなく、軍隊が駐屯するためには逆に費用が必要な京都を舞台にした戦闘が、実際史実でもあったように度々、発生することとなる。

また京都で負けた側がいったん領国や勢力圏内に退いて再編した上で京都に攻め上るという、状況を再現することとなる。

守護大名の「忠誠」というパラメーターを導入した意味は、史実における京都や位置づけや、軍事的にはずば抜けた力を持っていなかった足利将軍家や幕府を最後まで細川氏や山名氏が担いだという中世日本の独特の政治的ヒエラルキーを表現することにあったのかもしれない、とも思った。

なお本ゲームにおいて天皇の姿はほぼ見えない(もしかするとゲーム中、見ていないカードイベントとして登場したのかもしれないが、今回のリプレイ中では見えなかった)。

 

勝利条件

COINゲームの常として各勢力はそれぞれ異なる複数のパラメーターが勝利条件として指定されている。これにより同じ体制派・反体制派であったとしても最終的は相争う必要が生じるなど、利害の一致・不一致といった情勢を表現していることが多い。

細川氏」の勝利条件は、体制(この場合、幕府)を“支持”する国の国力合計を一定基準以上にすること。もうひとつのパラメーターは、「細川氏」に忠誠を捧げる守護大名の領国の国力合計を一定基準以上にすることである。

一方、同じ体制派の「山名氏」の勝利条件は、ひとつは「細川氏」の1番目の基準と同じく、体制を“支持”する国の国力合計を一定基準以上にすること。もうひとつは、「山名氏」が“支配”する国の国力合計を一定基準以上にすることになる。

細川氏」「山名氏」の両勢力は幕府を維持する方向では一致している。このため「地侍」や「一向一揆」の討伐を行う国の“支持”状況を守ろうとする。一方で、「細川氏」は守護大名からの忠誠を得ることができるように動く一方で、「山名氏」は守護大名の忠誠よりも自分の兵力・城などにより他勢力を圧倒する力を誇示し続けるということになる。

室町幕府の中で将軍に次ぐ地位は「管領」となり幕政を統括していたが、管領に就くことができる家格は決まっていて、細川氏、斯波氏、畠山氏のみとなっていた。一方の山名氏は、侍所のトップである所司につける家格で、こちらは赤松氏、一色氏、京極氏、山名氏が交代で務めていた。

こうした差が細川氏・山名氏の間の勝利条件の差として表現されているのかもしれない。

 

地侍」の勝利条件のひとつは前述の、「富(Wealth)」になる。もうひとつは反体制側勢力ということから、体制を支持しないという反体制の国の国力合計となる。

いわば幕府からの支配を逃れ、町を興し、「富(Wealth)」を蓄えるということになると、有力商人によって自治が行われた“堺”あたりを想起する。もっとも「地侍」が本来指している在郷の武士階層ということを思うと、守護大名に代わって領国にいた守護代をはじめとする、後の戦国期に差し掛かる中で下剋上を頻発させた武士層ということなのかもしれない。

 

一向一揆」の勝利条件はひとつは「地侍」と同じく、幕府を支持しない国の国力合計だが、もうひとつがわからない(未確認)。

 

軍事

兵力としては正規軍である「武士団」クラスと、徴募された「足軽」「農民兵」クラスの2種類が存在する。

細川氏」「山名氏」、また数は少ないながら「地侍」は「武士団ユニットを保持できる。「足軽」は領国(支配国ではない)の農民から徴募され、「足軽」が徴募されると一定割合で農民ユニットが減少する。農民がいない領国では「足軽」の徴募が実施できないことになる。また「収穫期(Harvest)」(中締め)の際に、「足軽」の半分は帰農し、今度は逆に農民が増加することになる。

「農民兵」は一揆が発生した際にその国の農民ユニットが成り代わるもの。

一向一揆」の持つ兵力としては「僧兵」があるが、これは前に紹介した通りである。

 

なお武将ユニットなどは登場しない。そういったキャラクターゲームではない。

 

感想戦

戦国期を題材にしたエポック/サンセットゲームズの「戦国大名」に代表される国盗りゲームが支配階層の戦国大名といった武家勢力同士の争いとして描いていたのに対し、本ゲームは、応仁の乱を単なる”東軍”勢力対”西軍”勢力という構図に納めず、「地侍」「一向一揆」として扱われている勢力を加えることで社会的階層を超え、立体的に描いているように思う。

最初、「地侍」や「一向一揆」がプレイヤー勢力だと聞いた時に、全国規模での横の連帯か?と思ったものだが、実際プレイしてみると、この社会階層代表、といった表現が自然にゲームシステムに組み込まれていたのには感心した。

また「地侍」が名前が示す階級だけを表しているのではなく、多面的な役割を仮託されているという点は記事内で書いた通りである。

これらの様々な要素が、まさに応仁の乱の時代の混沌とした雰囲気をうまく表しているように思った。

戦国期を題材にしたゲームの多くが自分の勢力がある領国を中心とした戦闘、ある種、固定的な戦線での戦闘になることが多いのに対し、本ゲームシステムの中では、京を中心に地方へと流動的に戦闘が発生する点もよかった。戦闘の発生箇所が流動的に成る点は、戦国期というよりも鎌倉末期~南北朝期や源平合戦期に親和性が高いかも。

 

ここまで大胆なゲーム的解釈がなされている一方で、「京都桜祭」への参加がかなわなければ切腹、一騎打ちに負けたら切腹といった類のヘンテコルールは皆無であったことも書いておきたい。

今回はほとんど紹介していないが、COINゲームのキモの一つであるカードイベントでも、おかしなものはなく、リサーチが行き届いている点が伺えた。

繰り返しになるが、社会情勢も含めた大胆なゲーム的解釈はうならされた。

 

※ AARを書こうとしていたのですがなかなか難しいことがわかりましたので今回はここまで。製品版などをプレイした際にまた報告したいと思います。

 

 

 

 

*1:COINシステムをによるゲームの中には2人プレイヤーの作品もあるので、マルチプレイヤーは必須条件ではない

*2:

※ 「FALLING SKY」の続きの記事を書いてなかった・・。
 「FIRE IN THE LAKE」も・・

*3:農民ユニットは「地侍」が追加することができるが、その国で「細川氏」「山名氏」プレイヤーが徴兵を行った場合や、飢饉が発生すると減る。「収穫期(Harvest)」(中締め)の中で、足軽は帰農するため、今度は農民が増える。

*4:デザイナーのDewhurstさんがdiscordで語っているところを見ると、「地侍」の紹介として堺の自治都市の話があがっていました。

*5:守護大名はゲーム開始時に11勢力が登場し、カードイベントにより2勢力が追加される。初期に登場するのは北畠氏、畠山氏、一色氏、土岐氏、斯波氏、足利氏、富樫氏、河野氏大内氏、赤松氏、武田氏(安芸武田氏)。「細川氏」「山名氏」もこうした守護大名のひとつであり、それぞれ自国領地を有している。

守護大名のひとつとして登場する足利氏は、近江と大和に勢力を有する大名として登場する。将軍家そのものではなく、足利一族諸家を表しているといったところだろうか。近江の源氏と言えば佐々木氏(京極・六角など)、大和は筒井氏があるが、佐々木氏はこのノンプレイヤー勢力には入っていない。カードに佐々木氏をテーマにしたカードが登場する。結局のところこの足利氏がどれを指しているものなのかはいまひとつ不明。

なお追加になる2勢力は守護大名ではなく、北のマップ外に登場する「関東公方」と、同じく南のマップ外から登場する「”南朝”勢力」(!)である。