Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「War For America : The American Revolution, 1775-1782」(Compass Games)を対戦する

アメリカ独立戦争がテーマの表題のゲームを対戦した。

南北戦争ものには手を出さないと決めていた。嫌いというわけではなく、積みゲーを多数抱えている中、ジャンルとして手を広げてしまうのはやめておこうということだ。
南北戦争テーマの作品はダメで独立戦争ものがOKかというとそういう訳はなく、独立戦争テーマの作品にも手を出していない。南北戦争というの向こう側にある姿もよくわからない完全な未踏破領域だ。

 

 

 

ゲームの紹介

アメリカ独立戦争は、アメリカ合衆国とイギリスの間で戦われた。後にフランスも参戦する。
1年を、冬・早春・晩春・初夏・晩夏・秋の6つのターンに分け、1775年の初夏から1782年までを扱う。冬季は冬営ルールにより活動に制限を受ける。7年にも及ぶ戦争のため、キャンペーンでは全45ターンとなる。

デザイナーズノートによると、独立戦争テーマのゲームで評価が高い「Washington's War(再販版)」(GMT)の物足りない部分を踏まえてデザインした、とある。物足りないとされた点は、移動、海上戦力、北米外での英仏の争いの影響といった点らしい。

マップにはカナダからアメリ東海岸の最初の13州の他、海上移動や封鎖に用いる海路が記載され、さらにカリブ海マップも用意されている。*1マップはポイントトゥポイント方式。都市・町を陸路・河川や湖による水路・海路が接続した形式になっている。古いマップを背景にデザインされているため雰囲気はよいのだが、州名・都市名などの必要情報がわかりづらい嫌いがある。アメリカの地理をきちんと把握していないとこの州名・都市名についてはプレイ中、散々悩まされた。ルールで記載している地名とマップ上の記載が異なる・・・記載が相違している訳ではなく、記載方法が異なることが度々あったのだ。「XXXXルールは神奈川県に適用される」とルールブックにあるとすると、マップでみると町田市と記載があるのだが、町田市は神奈川県なのか?を判断する必要があるレベル、おそらくアメリカ人であれば地理の常識として判断できるのであろうが、外国人にはすこしわかりづらいぜ、といった内容だ。

13州を中心としたメインマップ。右手が北(赤色の部分はカナダ)。実際の地図を背景にしているため、雰囲気はあるがかなりウルサイ印象になっている。

 

カリブ海マップ。植民地軍には海上戦力がないことを考慮すると、ゲーム内で使うようになるのはフランス参戦後の1778年以降ということになるだろう。

 

ひとつのターンは4つのインパルスからなる。インパルス毎にダイスによりイニシアティブを決める。1回のインパルスの中ではアクションはひとつだけ実施できる。基本は、1スタックについて移動を行うと1アクションとなる。移動の結果、敵ユニットが存在するエリアに侵入すると、戦力比が大きい場合はオーバーラン、それ以外は戦闘になる。
1回のインパルスに1スタックだけか?と思うが、アクション数にカウントしないフリーアクションと呼ばれるアクションがあるので、まるっきりひとつのことしか行うことができないという訳ではない。ただ同じインパルスに複数のスタックが自由に移動するということはできないのは確かだ。分進合撃のようなことは起きにくいことになる。

デザイナーが力を入れたと言う移動ルールは、移動を行うにあたって実施可能かをチェックを行う。リーダーユニットがいないスタックや統率能力が高くないリーダーが率いるスタックの場合は十分に移動できずに、戦力を集中したいときに対応できないといったことが頻繁に発生することになる。

リーダーユニットとして、両軍の著名な将軍がユニット化されており、中には個人別に特別ルールがついているリーダーも少なくない。このあたりのデザイナーが強化した要素なのかもしれない。残念ながら名前を知っているのはワシントンくらいしかなかった。
リーダーユニットには、階級・統率力・戦闘力ランクが表示されている。スタック内に複数のリーダーユニットが存在する場合は階級が最上位のリーダーが指揮をとることになる。上位のリーダーが如何に無能でも、上位である限りはその命に従わなければならないといったところだろう。
統率力は前述の移動時のチェック、また共に移動させることができるユニット数を表す。戦闘力ランクは、AからCまであり、戦闘解決時の修正値として影響する。

リーダーは史実にあわせて登場や退場(イギリス軍人の場合は帰国してしまう等)、また昇格といった変更がある。

 

戦闘は一種のファイアパワー方式。自軍の戦闘力を用いて、攻撃を仕掛けた側、防御側それぞれが相手に与える損害を判定する。相手との戦闘力の差は、戦闘力比率によるダイス修正をもって反映される。相手に与えた損害が大きい側が勝者となり、敗者は退却する。

兵には兵種はないため騎兵や砲兵が登場する訳ではない。代わりに正規兵と民兵が区別され、動員方法や戦闘時の扱いが異なる。
イギリス軍は正規兵と植民地側でイギリス支持の「王党派」と呼ばれた民兵、さらに戦争が進むにつれて欧州からやってきたドイツ傭兵などがいる。植民地側は、民兵民兵が組織化され大陸軍と呼ばれた正規兵がいる。ほかにどちら側を味方するかはダイスによって決まるネイティブアメリカンの主要部族の部隊などもいる。
「王党派」以外のイギリス軍は欧州から船でやってくる。植民地側の「民兵」は”湧いて”くる。イギリスの正規兵部隊が今まで進出していなかった州に進出すると、民兵の発生チェックを行う。それも少数ではなく、イギリス軍部隊を圧倒するくらいの戦力が登場する(州の規模によって異なる)ので、イギリス軍はうかつに移動しまわることができない。どこかを占拠しようと戦闘を挑むにも、民兵の発生を計算にいれておかなければならない。

移動や戦システムはオーソドックスだ。新味があるシステムは採用されていない。難易度も高くはない。ただ史実を再現するために拡張されたルール(海上ルール等)や史実再現のめの細かいルールが多数用意されている印象だ。
海軍ユニット、海上輸送はイギリス軍の独擅場なのだが、後にフランスが参戦すると制海権争いやカリブ海を含んだ勢力争いに発展するようだ。今回、フランス参戦といったところまでは遠く及ばなかったのでカリブ海までゲーム範囲とされたことの良否は判断できない。
海軍関係ではユニークなところとして、湖に展開する湖上海軍といった部隊も登場する。陸上移動の中で、純粋な陸上移動のほか、河川などの水路を使ったルートもあるのだが、移動を通して河川上で移動が終始した場合、移動力が+1になるというルールがある。これにより、大きな河川がある地域では、河川沿いに移動が容易になることだろう。

 

プレイしてみた

ゲームは1775年の春のターンにはじまる。史実ではボストン郊外でイギリス軍がアメリカ側の民兵を襲った、レキシントンの戦いが起こった時期だ。
ゲームでもこの時期、両勢力とも兵力は少なく、分散している。

 

手前の緑色のユニットが植民地軍民兵ロードアイランド州)、その左手側にあるスタックがボストンとイギリス軍(赤色ユニット、リーダーは白色)。隣接するのは植民地軍の補給処。独立戦争の端緒となったレキシントンの戦いが起こった場所ということになる。

 

イギリス軍は未進出の州へはうかつに進撃はできない。民兵発生チェックにより民兵のスタックが登場する可能性があるのだ。またカナダ駐屯軍は国境を越えられない。結果としてボストンに駐屯する正規兵と王党派からなる部隊を使うしかない。本国から増援を得つつ、機会を伺う。
初夏ターンになり優秀なウィリアム・ハウ将軍(Howe、戦闘ランクA)が登場、ハウ将軍に一定の部隊を与え、植民地軍の小スタックを襲いはじめる。
植民地軍はボストン郊外に集結していた部隊を率い、カナダ国境近くにあるタイコンデロガ要塞を襲う。最低限の守備隊しかいなかったイギリス軍の要塞は簡単に陥落してしまう。

 

植民地軍民兵はカナダ国境近くのイギリス軍のタイコンデロガ砦を攻撃、陥落させる。
(水色と緑色のユニットが植民地軍、白色と赤色の兵士ユニットがイギリス軍)

 

植民地軍はその勢いのままカナダとの国境を越え、北上をはじめる。カールトン知事が防衛するモントリオールを避け、港町のケベックを占拠した。後で判明したことだが、植民地軍の民兵はカナダへ移動させることはできなかった。

 

タイコンデロガ砦を落とした植民地軍は北上し、守備が固いモントリオールを超え、ケベックを占拠した(右端の水色スタック)。
左上に見えるオレンジ色ユニットは、ネイティブ・アメリカンの6部族。後にほとんどがイギリス側に立って戦争に参加する。


イギリス軍のハウ将軍の梯団は、ボストン郊外から13州の中で最も小規模なロードアイランド州に進出。その後、小規模の植民地軍が守備するニューヨークを陥落させるなど、個別撃破に努めた。

 

イギリス軍最優秀のハウ将軍(戦闘レベルA)はロードアイランド州を占拠。ところがここからコネチカット州(CT)やニューハンプシャー州(NH)などへ侵入するとすぐさま植民地軍の民兵がワラワラと湧いてくることが判明。兵力が十分でない中、不用意な侵攻は敵の数を増やすだけとわかった。
植民地軍の民兵、普段は農作業をしている人々がいざ事あらば銃を抱えてすぐさまに集結したらしい。これが「ミニットマン」の語源とのこと。


イギリス軍はイベントカードによりネイティブインディアンの調略に成功し、イギリス軍側で参戦させることに成功させた。年後半、植民地軍側にワシントンが登場する。
その後、両軍とも大きな動きはできず1775年は終了する。

1776年独立宣言がなされ、植民地軍は大陸軍が成立する。州ごとにダイスにより大陸軍のユニットが”湧いてくる”。
今回、時間切れによりここで終了。

 

感想戦

今回のプレイでは戦争の1年目をやっとのことで終了させるところまでとなった。
1インパルス=1スタックがアクションを行うことができる、という制約、さらには移動を行う際のダイスによるチェックがあるため、移動ひとつをとってもハードルがあり、思ったように機動してくれない。信頼度が高い(=統率力が高い)リーダーユニットがいるスタックだけが頼りという印象だ。

戦闘も解決方法が若干変わっているものの目新しさや難しさ、また面白さを感じるような内容ではなかった。

デザイナーの焦点は、戦闘そのものではなく戦略級ということもあり両軍がその時々でおかれた状況の再現ということなのだろう。独立戦争の史実に思い入れがないとなかなか面白みを引き出すには至らない印象だった。

 

 

付録:史実をみてみよう

あまりにもこのあたりの史実に疎いことがわかったので、今更ながら史実にあたってみようと思う。(意外とゲーム内でも史実に沿った動きになったような印象)

 

■ 1775年

  • 4月:ボストン郊外のレキシントンにて民兵と英軍との間で銃火が交わされる(レキシントン・コンコードの戦い
  • 5月: タイコンデロガ砦のイギリス軍守備隊を植民地側民兵に急襲し奪取(この時期、同砦は荒廃しており一握りのイギリス軍守備隊がいるだけであった)
  • 6月:ボストン包囲戦民兵が包囲)開始。 バンカーヒルの戦い。包囲線は破られなかった。
  • 7月: ワシントン将軍登場
  • 11月: タイコンデロガ砦を進発したアメリカ軍がモントリオールを陥落させる
  • 12月: アメリカ軍がケベック市を攻撃するも、イギリスのカールトン知事により撃破される

 

■ 1776年

  • 2月: ノースカロライナ州ウィルミントン近くで行われたムーアズクリーク橋の戦いにて、アメリカ軍がイギリス側の王党派の軍に勝利する
  • 3月: イギリス軍のハウ将軍はボストンの放棄を決定しハリファックス基地まで退却。これにともないワシントンは軍の大半をニューヨークに移動
  • 6月: トロワリピエールの戦いによりカナダを侵攻した植民地軍は敗北
  • 7月: アメリカ独立宣言を採択
  • 8月: イギリス軍ハウ将軍がロングアイランドに上陸し、ロングアイランドの戦いによりアメリカ軍を駆逐する
  • 9月: イギリス軍ハウ将軍がニューヨーク市を支配
  • 10月: バルカー島の戦いにより、イギリスのカールトン知事は、アメリカ軍のカナダ侵攻軍を打ち破り、アメリカ軍はタイコンデロガ砦まで退却する
  • 10月: ニューヨーク州ホワイト・プレインズにて同戦いが発生。ハウ将軍麾下のイギリス軍がワシントン将軍麾下のアメリカ軍を破り、アメリカ軍は北に後退。
  • 12月: イギリス軍コーンウォリス将軍ニュージャージーに進軍。同地にて冬営。
  • 12月: ワシントンはトレントンの戦いでドイツ人傭兵で構成されるイギリス軍に対し、悪天候の中、渡河攻撃を行い勝利する。崩壊の瀬戸際にあったアメリカ軍はこの勝利により組織の存続と拡大につなげることができた。

■ 1777年

  • 1月: イギリス軍コーンウォリスはトレントンの奪取を試みるが、ワシントンは裏をかき、プリンストンの戦いにて、イギリス軍後衛部隊に勝利する
  • 7月: カナダを進発したイギリス軍バーゴイン将軍の軍はタイコンデロガ砦を占領
  • 8月: バーゴイン将軍の軍はベニントンの戦いにて植民地軍に敗れる。
  • 8月: モホーク族ブラント率いる軍がアメリカ軍側のスタンウィックス砦を包囲するが、後にカナダに退却。
  • 9月: バーゴインはアメリカ軍の側面をつこうとしたがフリーマン農場の戦いで反撃される。
  • 9月: ハウ将軍の軍はブランディワインの戦いにてワシントンの軍を破り、フィラデルフィア(当時の革命勢力の首都であった)を占領。
  • 10月: べミス高地の戦いに敗北したバーゴイン率いる軍は降伏する。
  • 10月: ワシントンとハウ将軍が、ジャーマンタウンの戦いを行う
  • 12月: ワシントンとハウ将軍が、ホワイトマーシュの戦いを行うが、決定的な勝敗に至らなかった。
  • この年をもってカールトンとハウが辞任。

 

■ 1778年

2月: フランスはアメリカと同盟条約を締結。フランスが参戦した。

フィラデルフィアの放棄

6月:ワシントンは撤退するクリントン軍を負いモンマスの戦いを実施。

6月: スペインがフランスの同盟国として参戦

 

(以下、略)

 

 

 

 

*1:当時イギリスとフランスは北米だけではなく、カリブ海でも角を突き合わせていたらしく(このあたりの事情は「IMPERIAL STRUGGLE」(GMT)でも描かれていた)、兵力を北米に送るのか、カリブ海方面に送るのかという選択であったらしい。この事から、北米戦線を正しく描くためにはカリブ海も必要だ、と判断されたとのことだ。