模型雑誌「Hobby Japan」のストーリー付きジオラマ連載で描かれた原作を、戦術級ゲームとして扱った本作、シナリオをいくつかプレイしてみた。
感想戦
市街戦シナリオ(シナリオ1,2)をソロプレイしてみた。
リプレイ内容自体は平板なものになるので、まずはゲームの感想を、ゲーム設定(兵器設定など)とゲームデザインの2つの観点で書いてみたい。
ゲーム設定(兵器設定など)
ガンダムに代表されるロボットアニメ題材のゲームと同様、本作も雑誌連載記事を原作にしたキャラクターゲームのようなものだ。
原作付きの空想テーマの作品の場合、作品や作品世界、またはそれらの設定を愛し、どこまで作品世界に没入できるか、にかかっているように思う。
連載当時の記事を熱心に見ていた訳ではないため断定はできないが、最初は大型の宇宙服のようなパワードスーツの兵士たちを扱うことで始まった設定が、連載が進むにつれて次々と兵器が追加されていった印象がある。
登場する兵器の種類が増え作品世界が拡大していった過程は、背景ストーリーは用意されていたものの*1、兵器進化や兵器体系の必然性よりも、模型・ジオラマとしての見栄えなどが優先されたような内容であった。
トップダウンな発想から兵器体系が考案された訳ではなく、模型やジオラマとして作りたいところから、ボトムアップ的に拡大してきた兵器体系なのでどうしても後付けの理屈が目立ち、また兵器体系としての網羅性やバランス、必然性に欠いている。
本作ゲーム内ではそうした設定間の“ちぐはぐさ”が目立たないように調整がはかられているのだろうが、それでもどうなの?と思わざるを得ない点が散見された。
愛があるファンであれば突っ込んだりせずに受け入れる範囲なのかもしれないが、ニワカな当方が、ゲーム中、気になった兵器設定についてファンの人たちのクレームは気にせずに書くと・・
- シュトラール軍が最初に投入したパワードスーツ“PKA”の主要武装はパンツァーファウスト2基だけ。WWⅡ時代末期のドイツ軍の国民擲弾兵もかくやという貧弱かつ継戦能力が弱い装備だ。当然2本のパンツァーファウストを発射して使ってしまうと、補給集積所(Depot:シナリオ中、マップ内の複数箇所に設置できることが多い)や飛行機体(PK41など)のところに行って補充しなければならない。ゲーム内の運用上もルール上も煩雑。特に防御側は防御射撃でひとつのターンの中で何度も射撃ができることを考えると、2回射撃すると新たに補給してもらわなければならないなんて悪夢のような条件に見える。
そもそも人力以上のパワーを持ち重装備が可能であろうパワードスーツの兵の装備がパンツァーファウスト2基だけ、というのはどうなの?だ。なお傭兵軍のパワードスーツ”AFS””スーパーAFS”、またシュトラール軍の後期の主力となる”Gustav"はレーザー兵器を装備している。
- シュトラール軍の主力であるパワードスーツ“PKA”や“Gustav”は、“PK41ホルニッセ”という飛行兵器と一体化して空中機動ができる。パワードスーツ1体が1機の機体と合体して空中移動し、着陸して分離、分離後、“ホルニッセ”はそのまま制空任務や対地支援ができるという・・。
この飛行機体の存在がよくわからない。初代ガンダムに登場したザクやグフを載せていた、“ドダイ”のような存在か、はたまたマジンガーZの“ジェットスクランダー“か?といったところか。
歩兵を空中機動させるとすると現代のヘリコプターに近いかもしれないが、1機でパワードスーツ1体しか運搬できず、その一方で、単体で対地支援ばかりか制空戦闘もできるというのはなにぞ?、といったところ。
ちなみに傭兵軍側には同種のパワードスーツを輸送できる飛行機体はなく、通常の制空戦闘と対地支援を行うことができる”Faike”という航空機が登場する。
<追記>
PK41のモデル写真を見ると、パワードスーツを着用した兵士1名が機首部分に搭乗したようなサイズと形状をしている。機体自体も非常に簡素な形状で(模型的には組み立てるのが楽しそうだが)、航空機というよりも空中機動を行う一人乗り軽飛行装置といった趣がある。
問題はパワードスーツの兵士が降りた後、PK41は飛べるのか、という点だ。形状などからは他に搭乗員もなさそうで、自動で自律的に飛行して戦闘を行えるようには見えない。
ルールには搭乗兵が分離した後、PK41が移動や攻撃ができるともできないとも明記はされていない。どのように処理するのが妥当なのだろうか?
- 両軍に浮揚して移動する機構を備えたいわゆるホバータンクが登場(シュトラール軍の“ナッツロッカー”、傭兵軍の“サンド・ストーカー”など)するのだが、この活用方法がよくわからない。確かに無限軌道タイプや歩行タイプの兵器よりも移動力はあるのだが、軽武装で装甲は薄い。偵察用途という考え方はあるが、このゲームは隠匿・隠蔽ルールはほとんど用意されていないため(選択ルールで隠蔽配置ができるものもある)、使い途があまりないように感じた。もちろんこれまでプレイしたのは市街戦シナリオだけなので野戦シナリオではまた様相が異なるのかもしれない。*2
- ホバータンク以上に使い途がわからないのが、歩行タイプの大型兵器だ。シュトラール軍には2本足の“クレーテ”(ちょうど、マクロスに登場するゼントラーディ軍装備の“リガード”のような形状)、傭兵軍には4本足の“シェンケル”という大型兵器が登場する(こちらは攻殻機動隊やパトレイバーに登場する多足歩行の戦車のサイズを大きくしたようなもの)。これらも戦闘力は弱く、歩行タイプなのでパワードスーツ部隊と同程度かそれ以下の移動力しか持たない。戦術幅が限られたゲーム内で有効な用途が見つからなかった。
なお”シェンケル”についてはストーリー上の設定でも、実戦では役に立たなかったと明記されている(前記事参照)ので使い途がない事自体が設定ともいえる。
- ホバータンクにしろ、パワードスーツ以外の歩行兵器にしろ、どうしてそのような形状や動作機構を採用したのか、という必然性が弱いことが弱点になっている。または隠蔽・隠匿、偵察といった行為、またヒットアンドアウェイのような戦法をゲーム内で再現しにくいことからでてきているのかもしれない。このあたりも模型的には見栄えはするが、兵器としてはどうなの?だ。
ゲームシステム
入門用ゲームとしてルールが簡素になっている点は異論はないが、ルール上、説明が足りていないのではないの?という点が散見される。プレイ時には適宜、プレイヤー同士が取り決めをして進めていく必要があるだろう。特にLOSの処理は注意。防御射撃の回数もわかりにくかった。
戦闘解決では2個の6面ダイスを使うが、2個のダイスの目の合算の数字を用いるのではなく、掛け合わせた数字を使う点は前記事にも書いた。実際にプレイの中で使ってみると、このダイスの目の処理は事前に想像していたのに比べるとそれほど奇妙ではなかった。ただし時々、混同してしまったのも事実。若干神経を使う。
システムが簡単で良かったと書いたばかりでなんだが、簡素化したばかりに、対戦車戦闘、対空戦闘、航空機による対地攻撃などなど戦闘解決がすべて同じように処理される。兵器間の関係性に得意な相手/不得意な相手といった相性もなく、同じような戦闘解決になっている。
例えば、この世界で歩兵にあたる、”SAFS”や”Gustav”といったパワードスーツユニットは装備したレーザー兵器で、”ドールハウス”のような装甲車両を破壊できるし、航空機相手に対空戦闘も行うことができる。攻撃力や射程の強弱はあるものの、みな等しく万能兵器なのだ。
正直、戦術級ゲームの醍醐味のひとつでる多種類の兵器を扱い、それらの運用を楽しむという快感に欠ける。
その他
ユニットのデザイン上、表面には移動力と移動形態のみが表記されており、攻撃力・防御力・射程・耐久性能といったスペックは裏面に記載されている。戦闘の毎にひっくり返して裏面のスペックを参照することになる(エポック社「装甲擲弾兵」と同じだ)。地味に煩雑だった。
まとめ
ゲームバランス上、仕方なかったのかもしれないが、同種類の兵器間での性能差がそれほどなく、性能差も数を投入すれば解決してしまうような印象がある。
また兵器種類間の差、地形や運用によってその強弱が変わったりといった性質の違いもあまり演出されていないため、多少形状やイラストが異なっても単なる数字上の差でしかなく(その数値差もそれほど大きくない)、兵種・兵器運用の楽しみが薄い。
ひとつのシナリオに登場するユニット数が多いこともあって、せっかく様々な兵器を登場させた割には同じ様な戦闘が延々と展開することになるなど、戦闘全体が大味な印象を受けた。
この感覚で思い出したのは、往年の「激戦!ア・バオア・クー」(ツクダホビー)か・・。
要はキャラクターゲームの一種なのだから細かいところに突っ込むな、ということなのかもしれない。
とここまで書いて本作はデザイナーが最も大変だっただろうと思い至る。材料は断片的にしかない。ストーリーから兵器間の性能差などを想定していく・・。バランス調整を繰り返すうちに登場する兵器群の性能差が丸まっていったのも仕方なかったのかな。