シミュレーションゲームの名門ブランドであったアバロンヒルがハズブロ社に買われ、かつての多くのアバロンヒルのIPが日の目を見ることなく退蔵されていることは有名な話だが、中でもぜひ再版・復刊してほしいIPベスト5に必ず入ると言われる作品が「アップフロント」だ。*1
アップフロントはアバロンヒルを代表する戦術級ゲーム「スコードリーダー」を元にカードゲーム化したという、発売された当時では斬新なコンセプトの作品であったように記憶している。個人的には、当時すでに「スコードリーダー」をプレイしていたこともあり、なかなか購入には至らなかった(当時のボックス価格は6,800円でアバロンヒル製品の中でもやや高い部類の製品であったこともある)。
月日は流れてついぞプレイすることがないまま今に至る。今回、幻となっている本製品をプレイする機会があったため、インスト兼ねて対戦をしてもらった。
ゲームの特徴
第二次世界大戦の歩兵戦闘を扱うカードゲーム。カード1枚は歩兵1人を表し、通常のプレイでは各プレイヤーは1個分隊規模(おおよそ10名程度)を操ることになるようだ。シナリオが進むにつれ、ステップ方式で対象は拡張され、最終的には装甲車両も登場する。
プレイヤーは率いる1個分隊規模約10名の兵士を率いるのだが、分隊は班・チーム規模に分割されて操られる。
アメリカ軍であればチームを3個程度(1チームは3~5人程度となるイメージ)、ドイツ軍はじめ他の軍隊の場合は2個チーム程度が適正規模のようだ(理由は後で記す)。
なおシリーズ第一作の「アップフロント」はアメリカ・ソ連・ドイツの3カ国が登場。シリーズの後の作品で、日本軍、イギリス軍などが登場する。各国軍は装備している兵器が異なるのと、プレイのルールでも国籍の違いを特色づけられている。このあたりの加減は「スコードリーダー」にも似ているように感じた。
カードは分隊を構成する兵士カード(分隊長なども含む)の他、アクションを行う一連のカードがある。ゲームはこのアクションカードを扱うことで進んでいく。
兵士カードは1人カード1枚になっているため、名前が書かれ、モラル、KIAなど、個々人によって異なる数値が描かれている。また装備する兵器(Kar98小銃、M34かM42の軽機関銃、MP40など)が記載されている。
アクションカードには「移動」「戦闘」「回復」といったチームがとるアクションが記載されたものの他、各種の地形が記載された地形カード、それ以外にも、ヒーロー*2、狙撃兵、地雷、煙幕といったカードや、シナリオがステップアップしていくにつれて追加される各種要素を含んだカード(例:盤外砲撃)も登場する。
アクションカードは各種判定の際の判定にも用いられ、判定用の数値なども記載されている。ひとつのカードがゲーム内において復数の利用がされる点は、最近のゲームにも通じるところがある。
アップフロントのアクションカードの裏面。
地形カードの例(写真は英語版のカード)。地形の名称とその下に地形修正値が記載されている。右肩の数値はダイスの代わりに判定に用いる数値を表す(赤字はマイナス数値)。
射撃カードと地雷原カード。射撃カードの丸数字が、そのカードを発動するのに必要となる火力値。
「移動」カードと「回復」カード。写真に出ている「回復」カードは、アメリカとドイツは回復カードとして使えるが、ソ連は別の内容になる。また、右端の「RADIO(無線機)」は盤外射撃を行う際に有用な文言らしいが詳細不明。このように一つのカードが何役も兼ねていたり、国籍によって異なる意味合いになっているものもある模様。
プレイの手順
各プレイヤーはチーム毎にアクションカードにより活動内容を指示する。
「移動」をしてチームを前進させると相手との相対的な距離は縮めることができる(もちろん移動により相手から距離をとるように移動することも可能)。「移動」に伴い地形カードを示すことでその地形にはいることも可能。もちろん多くの地形では地形防御効果を得ることできるようになる。
「移動」を行っているチームは敵から身を晒している状態になるため、射撃を受けた際に、損害を受けやすい。
「移動」にあわせて「地形」カードを出すことでその地形にはいったことを表す。「建物」は最も防御効果が高い地形で、地形効果は「森」、「繁み」と続く。「丘」は見晴らしが良いなどこのあたりは「スコードリーダー」の地形の感覚そのものだ。
「射撃」カードには「射撃3」「射撃5」などと射撃の強さがあわせて記載されている。闇雲に射撃ができる訳ではなく、射撃を行うチームの各メンバーの火力の合計値が、「射撃」カードのなかに記載している射撃を可能とする数値以上でなければ発動できない。「射撃5」のような強力な射撃カードはそれだけ発動するのが難しくなる。
各メンバーの火力は目標との相対距離によって減衰する火力表によって決まる。距離が遠くなると火力は減衰し、近くなると大きくなる。
自分のチームの火力が許すのであれば、複数の「射撃」カードを同時に出すことも可能。「射撃1」といった弱い威力のカードだとどうしても地形効果を覆すことが難しくなるため、複数カードをあわせて出すことで威力を高めたほうがよい。
「射撃」の解決は、「射撃」カードの威力の合計値から地形効果や他の効果により修正をプラス・マイナスを行う。その後の数値がモラルチェック時の修正値となり、目標となったチームの兵士毎に、1枚ずつカードをめくりカード右肩の数値によりモラルチェックを行う。修正後の数値がKIAの数値以上になると兵士は戦死、モラル値以上の場合は「萎縮」となる。
通常状態の兵士カード。
それぞれ兵装とその下に距離に応じた火力が記載されている。
距離(Range)=5の状態が最も近い状態。ライフルの火力から推測するとRange=1あたり100メートルといったあたりだろうか。右から2番目の軽機関銃(MG34)の数値がやはり大きく、こうした歩兵戦闘では頼りになる存在であったことが表されている。右端の下士官が持つサブマシンガンは近距離では火力は大きいが、中距離以上では役にたたない。
カードの最下層に、射撃を受けた際に萎縮状態になる「モラル」値、またその右端に戦死状態になる「KIA」値が記載されている。
「回復」カードは対象となるチームの中で「萎縮」状態になっている兵士を、効力値の数値分通常状態に回復させることができる。
あとは様々なバリエーションが用意され、シナリオ毎に組み込まれていく模様。
「地雷原」「鉄条網」「隠蔽」「煙幕」「狙撃兵」「ヒーロー」などなど・・。
こうしたアクションは分隊を分割したチーム毎に実施していく。
チームを2つに分けるか3つに分けるかは、射撃カードの必要火力値に依る。アメリカ軍は比較的個々人の火力の装備の火力が大きいが、ドイツ他の軍隊の場合は人数を増やして、火力値を高めるということが必要になるだろう。
全てのチームがアクションを行うか、パスをすると、手札から不要カードを捨て札し、手札枚数の制限までドローして自分のターンは終わる。
なお、ひとつのターンに可能な捨て札枚数は、ドイツ1、アメリカ2、ソ連全てらしい。また各国の手札制限枚数は、アメリカ6、ドイツ5、ソ連4となっている。
プレイ概観
もっとも基本的なシナリオを対戦。両方とも1個分隊規模の部隊による遭遇戦。ドイツ軍を担当。アメリカ軍は部隊を3チーム、ドイツ軍は2チームに編成(まぁ、このあたり考えがあった訳ではなく、お試しなので適当な判断で)。
軽機関銃を持った側を支援チームとし5人を配置、残り5人を突入チームとする。
突入チームをアメリカ軍に向かった「移動」。距離を詰める。まずは進めだ。アメリカ軍も前進。
序盤、カードの引きとして、「移動」は来るが、「射撃」カードがなかなか現れない。やむなく軽機関銃チームも前進。
「移動」のままだと地形修正で不利に働くので地形カードをひいたところで「枯れ谷」に進む。「枯れ谷」は周囲からは窪んでいるため、射撃されにくい地形だ。こうした地形による効果は「スコードリーダー」をやっていると直感的にわかりやすいが、そうでないと、わかりにくいかも、と思う。
アメリカ軍の中央のチームは「丘」に登る。「丘」からは「枯れ谷」の中は見えてしまうらしい。射撃を食らい兵士一人ずつの判定で一人「萎縮」してしまう。
「萎縮」状態のチームは「移動」ができなくなるので、すかさず「回復」を行う。「回復」カードに書かれた数値分の人数の回復が可能だ。「回復」の処理は、「スコードリーダー」よりも軽い。「スコードリーダー」であれば、指揮官が回復させないといけない訳だが、1個ユニットが分隊単位の「スコードリーダー」と、1ユニットが兵士1名の本ゲームとのスケールの差というところだろう。
「回復」カードもけっこうな枚数で登場するし、本ゲームは「回復」がしやすい。
突入チームがさらに「移動」し、前進したところで「河川」カードがアメリカ軍から配置される。「河川」カードは自分側の地形としてよりも相手側に配置することで移動を妨害することに使う。「河川」カードがおかれると「移動」カードの中でも「渡河」という但し書きがあるカードがなければクリアできない、などと制約がある。
同種の妨害カードとしては「鉄条網」がある。
相対距離が3といったあたりで相互に射撃戦が発生する。
書き忘れたが、勝利条件は4名が相対距離5まで進ませた側が勝利というところ。
ドイツ軍の接近にアメリカ軍が猛射を加えてきた・・。
状況としては、アメリカ軍が左からAチーム・Bチーム・Cチームと配置。
我が方はアメリカ軍のBチームに相対するように突入チーム、Cチームに対し軽機チームが相対している。
アメリカ軍のBチームは「丘」、Cチームは「建物」に位置し、ドイツ軍は軽機チームが「建物」内に位置。
ドイツ軍の突入チームが地形に依らず突出しすぎたらしく、Aチーム・Bチームの射撃を受け、次々とKIA(戦死)を出してしまう。
「スコードリーダー」の原則から言っても、地形に依らない不用意な移動はアウトだ。容易に損害を重ねてしまう。
一方で軽機チームは有利な「建物」地形にいるものの、相対するアメリカ軍cチームも同様に「建物」内に位置するため、お互いに有利な地形効果により相手に損害を与えることができないでいる。
途中、「狙撃兵」などによる射撃も発生するが、「回復」がしやすいためなかなか損害に繋げられない。畳み掛けるように「射撃」を行う必要であることはわかるものの、うまく「射撃」カードが回ってこないため、連撃ができないでいる。
軽機チームも相手に損害を与えるためには、もっと前進して火力を高める必要はあるのだが、これもまた有利な地形を離れて移動するだけの、カードもタイミングも回ってこない・・。このあたり、お互い軽機関銃までしか装備していない歩兵分隊同士の射撃戦の限界といったところか。
重機関銃や軽迫撃砲(日本軍であれば擲弾筒)がほしいところ。
といったところ時間切れ終了。
損害はドイツ軍が4名戦死、アメリカ軍が1名戦死。
中断終了直前の状況。ドイツ軍の左側のチーム(突入チーム)は、相対距離3まで接近するが、地形に依らない移動を行ってしまったところをアメリカ軍の猛射を受け後退するものの、うまいこと「地形」カードを引けず、最終的には4名を失うことになった。
右側の軽機チームは地形効果-3という「建物」内に射撃位置を構えるも、相手に効果的な射撃を加えるにはいま一歩近づくべきであった。
アメリカ軍はBARの射手を「狙撃兵」の射撃により失ったことから、隣の兵が、放棄されたBARを拾い上げ射撃を続けた・・(このあたりも「スコードリーダー」っぽい処理)
感想戦 想像力をたくましくしてプレイする
手札がドイツ軍の場合は5枚しかないため、タイミングよく「移動」「射撃」「回復」カードが来る訳ではない。移動したくてもできない、射撃したくてもできないという場面が、何度も訪れる。このため毎ターン、いらないカードは捨て札をする必要があるが、これもまたドイツ軍の場合は毎ターンの捨て札枚数が1枚という制限がある。
カードがないために、敵が目の前にいるのに射撃ができない、明らかに不利な地形にいるのに移動できないというのはいかにも理不尽に感じられるが、ここはカードがないからできないのではなく、なんらかの理由があってできない状況を表しているのだろうということだろう。状況ひとつひとつの説明は省略し、戦場での行動をカードの中に落とし込んだというゲームデザインだ。抽象化ということだ、と理解した。
「スコードリーダー」のような戦術級ゲームのプレイヤーだと、カードによって描かれる状況はこういう状況だから、とその後の行動を思い浮かべるのは難しくないだろうが、本ゲームからはいったプレイヤーはどうなのだろう。逆にこうした想像力で補完しながら、すすめることができ、本ゲームは十分に楽しかった。このあたり本ゲームが傑作と言われる所以であろうと理解した。一方で、こうした補完がないまま本ゲームを純粋カードゲームとしてすすめるのは省略された要素からもハードルが高くないかしら、とも感じた。
「スコードリーダー」はそれなりにルールのボリュームがあるため、それらを理解するよりは本ゲームのルールのほうが軽いのも事実。
今回はもっとも初歩のシナリオをやったのみなので、今後、ステップアップしたシナリオにも挑戦していきたい。
次のゲームは、ベトナム戦争を舞台にしたカードドリブンの戦術級ゲーム。各アクションは「アップフロント」と同様に手札内にあるカードを用いて行うことになるが、「アップフロント」と異なり、ヘックスタイプのマップは使うため、地形や彼我の距離などは抽象化されている訳ではない。マップが登場したため、戦術級ゲームにつきものの「LOS:Line of Sight (視線)」ルールが登場する。ただし本ゲームの場合、高度を捨象することによりLOSルールの複雑さを多少簡便化している。・・・と書いて、「アップフロント」は「地形」をカード化することにより、戦術級のルールの複雑化の元凶である「LOS」に関するルールを排除したのだと理解した。なるほどね!
(了)