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ASLSK シナリオS76 A LESS PEACEFUL CHRISTMAS をプレイする(1)シナリオ訳出・背景等

先ごろ発売されたアドバンスドスコードリーダー スターターキット(Advanced Squad Leader Starter Kit)シリーズの拡張キット#2より、シナリオS76です。

いよいよ太平洋戦争に突入します。本シナリオは緒戦のフィリピン戦です。

第48師団は日本陸軍の中では数少ない自動車化された師団*1でした。師団は、リンガエン湾に上陸するなりその機動性を生かし、約200数十キロ南のマニラに向けて突進します。フィリピン軍は動員途上だったということもあり防衛線を十分に整えることができず後退を余儀なくされます。
本シナリオはこうした状況を背景にした、日本軍の上陸4日目の歩兵戦を扱ったシナリオです(自動車化部隊なのですが、車輌は登場しません)。
yuishika.hatenablog.com

 

今回の記事はシナリオカードの訳出とシナリオ背景になります。

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ASL SCENARIO S76 A LESS PEACEFUL CHRISTMAS

フィリピン ルソン島 ウルダネータ 1941年12月25日
日本軍43,000人がリンガエン湾に上陸した。その主力は台湾で編成され、まだ戦闘を経験したことがなかった第48師団であった。12月22日、日本軍は上陸用舟艇や動力付きの平底舟を使い数回に分けて上陸し、戦車と歩兵が縦隊となり進撃した。アメリカ・フィリピン現地軍は素早く反応したが、まもなく南に置かれた防衛ラインまでの後退を余儀なくされ、秩序だって撤退した。ルソン島北部方面軍の司令官であったジョナサン・ウェインライトは前日の上陸地点での戦闘でひどく混乱しており、第一防衛ライン(D-1)はすでに地図上で部隊を再編できるラインに過ぎなかった。

勝利条件

ゲーム終了時までに合算されたVPが多い側が勝利者となる。VPは以下の通り

■ ユニットの除去(除去時)

除去した分隊ユニット/操作班ユニット毎に2VP、

半個分隊毎に1VP除去した指揮値”-1”指揮官毎に2VP、”0”または”+1”指揮官毎に1VP

■ 建物の占領(ゲームターン毎に加算)

各ゲームターン終了時に建物を支配している側にゲームターン毎に加算する

X8、Z5の建物はそれぞれ、各ゲームターン毎に2VP

その他の建物はそれぞれ、各ゲームターン毎に1VP

■ ユニットの脱出(フィリピン軍のみ、脱出時)

フィリピン軍は、マップの南端より脱出したユニットについて脱出VPを得る。ポイント値はユニット除去時のポイントと同じ。なおシナリオ特別ルール項番4.を参照すること。

ターン

全5.5ターン(日本軍先攻で6ターン目の日本軍プレイヤーターンにて終了)

バランス調整

アメリカ軍:シナリオ特別ルール項番2を削除する

日本軍:シナリオ特別ルール項番4にて、”少なくともひとつの建物を支配した場合”ではなく、”ひとつの建物を支配したゲームターンの後”に変更する。

配置

アメリカ軍: 第11師団 第13連隊[ELR:2]ヘックス列V列を含む南側に配置する

日本軍:第48師団 台湾第1歩兵連隊[ELR:3]ターン1に北端より進入する

シナリオ特別ルール

  1. 太平洋戦域に関する地形ルール(8.2)は、”疎生ジャングル(Light Jungle)”含め有効。
  2. フィリピン軍戦闘序列にある9-1指揮官ユニットは、アメリカ軍の軍事顧問を表す。彼はフィリピン軍分隊を回復することはできないが、他の指揮官機能は影響を受けない。
  3. 古い弾薬のため、フィリピン軍の迫撃砲の故障ナンバー(B#)は10になる。
  4. 日本軍がいったん少なくともひとつの建物を支配するとフィリピン軍はマップ上から脱出することができるようになる。盤外のヘックスは潰走の際は林として扱い、また移動フェイズや突撃フェイズに脱出することができる。混乱状態のフィリピン軍ユニットは盤外に向かって通常のルールに従い潰走することができ、脱出ユニットとしてVPに加えることができる。

顛末

フィリピン軍にとって前線は長すぎ、十分な縦深をとることができなかったため、防衛線という言葉は見掛け倒しに過ぎなかった。彼らにできたことといえば、日本軍の前進にあわせて部隊を展開することだけだった。12月25日までに阻止部隊の庇護の元、戦線の大部分は”D-2”ラインまで後退した。第11師団にとってまさに安息のないクリスマスとなった。第11師団はウルダネータの小さな村の周囲に防衛線を張り、台湾第1歩兵連隊と接触した。戦闘は午前中いっぱい続いたが、台湾第2歩兵連隊からの増援を得た日本軍が村を占拠し、フィリピン軍はアグノ川まで後退した。

マップ

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ヤシの木(1ヘックスに4つの点がある)とクナイ(背の高い草原)(黄色のヘックス。後述)の中にいくつかの建物や小屋が点在し、周りを疎生ジャングル(Light Jungle)(濃い緑の部分)があるといったマップです。
マップ上方から侵攻してくる日本軍は4-4-7一線級分隊*2 9個と2個操作班、フィリピン軍は3-3-6分隊14個からなっています。両軍とも複数の機関銃と軽迫撃砲(日本軍は擲弾筒)を保有しています。

 

シナリオの背景

開戦時の状況

開戦時、日本陸軍は51個師団を有していたのですが、南方攻略に回したのは予備を含めても、そのうちの12個師団にすぎません。この少ない師団と航空部隊、また支援する海軍諸隊をパズルのように複雑な運用して、各所の攻略を行います。フィリピン攻略を担ったのは第14軍*3で2個師団と1個旅団、1個飛行集団からなっていました。
一方のフィリピンは米極東陸軍の指揮の元、フィリピン軍10個師団、アメリカ陸軍師団1個で総兵力は11万人を超え、日本軍の数倍規模と、人数の上では圧倒する兵力を有していました。
ただしフィリピン軍師団は動員途上で訓練不足、また装備も劣っていました。アメリカ陸軍師団「フィリピン」は実質フィリピン人との混成部隊でこれも本国の正規軍に比べると装備は劣っている状態でした。

第48師団の戦い

マニラ北方のリンガエン湾には第48師団を含む第14軍主力、またマニラ南東のラモン湾より第16師団が上陸し南北から挟み込むように進撃する計画でした。
1941年12月22日、第48師団はリンガエン湾に上陸します。すぐに機械化部隊としての優位性を最大限生かし速度優先で南方への進撃を開始します。シナリオの舞台はその3日後にあたる12月25日。下の図は24日時点での状況図ですが、()付きでFORMOSAと番号1が書かれた歩兵連隊が上陸後、実線矢印に沿い進撃した先、フィリピン軍側の第11師団の陣地線の右端にある”Urdaneta”が今回の舞台になります。

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上の写真は現在のリンガエン湾ですが、植生や山々の風景はいかにもフィリピンという印象です。
3年後、アメリカ軍はここに再上陸し、幕僚を率いたマッカーサー将軍が足元が濡れるのも構わず上陸用舟艇から歩いてくる様子を前から写したいかにもな広報用写真を撮られるのもこのリンガエン湾の砂浜です。

その後

マニラ市は「非武装都市」宣言を行い、アメリカ・フィリピン軍主力はマニラ方面ではなく、マニラ湾を挟んだ西側に位置するバターン半島に後退、集結します。第48師団はその退路を妨害できる位置に進撃していたのですが、第14軍は既定路線通りマニラ占領を優先させ、アメリカ・フィリピン軍にバターン半島の防御を固めさせる時間を与えることになったのです。

翌1942年1月2日、第48師団・第16師団がマニラ無血入城を果たします。第48師団はその後、バターン半島攻略に向かわず、蘭印攻略に転用されるため第16軍配下に入り、2月同地に転進します。

バターン半島にはこの時、約9万人のアメリカ・フィリピン軍が集結しており、1月下旬に始まった同地への日本軍の第1次攻撃は失敗、その後、大本営総予備の第4師団や大規模な砲兵部隊を集結させ4月に第2次攻撃を実施、洋上のコレヒドール要塞の占領はさらに5月にずれ込むことになります。
マッカーサーが「I Shall Return」と言い残してフィリピンを離れたのは3月。バターン半島での捕虜を60キロ徒歩で移動させた「バターン死の行進」はバターン戦の後の7万6千人の捕虜の扱いにあたって発生した事件です。
シナリオカード冒頭にも登場するウェインライト将軍はコレヒドール降伏時に捕虜となり、1945年の終戦まで満州の捕虜収容所に収容されます(逃げたマッカーサーと大違い)。
第14軍の本間雅晴中将はバターン攻略の不手際から1942年8月内地に召喚されそのまま予備役編入。後、バターン死の行進が捕虜虐待とされ戦後のマニラ戦犯裁判で有罪、銃殺刑に処せられました。

 

シナリオについて

まだ戦闘序列やマップを見ただけの印象ですが、面白そうなシナリオだと思います。車輌が登場しませんので取り組み安いシナリオです。

フィリピン軍にとっては撤退戦です。
フィリピン軍からすると自軍ユニットを脱出させるだけで敵ユニットを除去した際と同じだけのポイントが入るため、個々のユニットの戦力が弱いことを考慮すると、自軍ユニットの脱出に主眼を置いたほうがよいのかもしれません。
ただしシナリオ特別ルール項番4により、日本軍が建物を占領するまでは脱出はできないという制約がついています。

一方の日本軍もジレンマがあります。建物を早く占領すればするだけポイントが入るわけですが、占領するとフィリピン軍の脱出が始まってしまいます。どのタイミングで占拠するのか、考えどころかも知れません。

 

太平洋戦域の地形について

クナイって何?

ASLのマップを太平洋戦域に持ってきた際には地形の読み替えが発生します。林がジャングルになったり、果樹園ヘックスがヤシの木ヘックスになるというものです。麦畑ヘックスは「クナイ」と呼ばれる地形になるのですが、「クナイ」って何でしょうか?

単純に英文で「Kunai」で検索すると、忍者が使う「クナイ」が出てきたりします。もう少し調べるとこういう植生のようです。なるほど、”繁み”と同様の効果というのもうなずけます。

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和名はチガヤ。

ja.wikipedia.org

 

以下、このシナリオのマップに登場する地形の復習です。
(以下はスタータキットでのルールです。スタンダードルールではもう少し複雑になっています)。

総論
  • 密生ジャングル、クナイ、竹林、湿地林にいるユニットは別の密生ジャングル、クナイ、竹林にいるユニットと複数ヘックスからなる射撃グループ(FG)を組むことはできない。
  • ジャングル、クナイ、竹林では、回復時に+2のdrmを得る。
  • 林と同様、ジャングル、クナイ、竹林では、不意打ちが起こる可能性がある。ただしフェイズプレイヤーのユニット/スタックの不意打ちdrに+1drmを適用する。
疎生ジャングル(Light Jungle)

「林」ヘックスは「ジャングル」として扱う。
ジャングルには「密生(Dense)」と「疎生(Light)」とがありシナリオで特に指定されない限りは「密生ジャングル」として扱う。ちなみに今回のシナリオは「疎生ジャングル」扱い。
地形効果等は「林」と同等。

 

フィリピン軍のルール

フィリピン軍固有のルールは以下のとおりです。

  • フィリピン陸軍のMMCは、戦禍においてもELRにおいてもアメリカ陸軍のMMCに置き換わることはない。

 

最後に、参考図書はフィリピン戦というとどうしても1944年のほうの戦いを扱うものが多いです。緒戦のものばかりではないのですが、面白そうなのをいくつか・・。

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戦争と外邦図: 地図で読むフィリピンの戦い

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*1:開戦当初、揚陸能力を備え自動車化された師団は同師団と第5師団(広島)だけであった。

*2:分隊の数値は、火力-射程-士気値

*3:ちなみにマレー攻略が第25軍、蘭印攻略が第16軍、ビルマ攻略は第15軍です。