Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「THE LAST HUNDRED YARDS」(GMT)を対戦する

GMT社の「THE LAST HUNDRED YARDS」(以降、「LHY」)をプレイしました。
小隊から中隊規模の小さな戦闘組織をシミュレートしており、ルールブックの冒頭に次のように謳っている作品です。

The game introduces new and innovative systems to model small unit behavior in combat.(このゲームは、戦闘における小規模な組織の行動をモデル化するため新しく革新的なシステムを導入しています)

f:id:yuishika:20201122192034j:plain

boardgamegeek.com

 

ゲームの概要

f:id:yuishika:20201122193141p:plain

第二次世界大戦時の1944年ノルマンディー作戦以降を舞台にドイツ軍とアメリカ軍による歩兵戦闘を中心とした小規模な戦闘を扱っています。*1

プレイヤーは中隊から大隊規模の部隊を指揮し、1ユニットは歩兵は分隊から班単位、指揮官ユニットは指揮官と伝令、通信兵などを含めた指揮チーム(4名程度と説明されている)、また車両は1両単位で登場します。
機関銃、携帯対戦車兵器、砲兵器などはその兵器と操作する要員(5人~10人前後)も含んだユニットになっています。

1ターンは2~5分、1ヘックスは50ヤード(約45メートル)というスケールです。

分隊単位の戦術級ゲームのスタンダードというべきMMP社「Advanced Squad Leader」シリーズ(以降、「ASL」)とほぼ同一です。また今年前半に盛んに対戦をしていました、Flyingpig Games社の「Old School Tactics」(以降、「OST」)ともスケール感はほぼ同一です。

f:id:yuishika:20201103170622j:plain

マップは「ASL」のように複数パターン用意されたマップをシナリオによって組み合わせて使います。ダイスは10面ダイスを使います。
カード類はありません。

 

ゲームシステム

f:id:yuishika:20201122193758p:plain
 

「THE LAST HUNDRED YARDS」のゲームシステム

リアクションシステム

 「ASL」のオーソドックスなターンシステム、「OST」のインパルスポイントシステムに対して、「LHY」のゲームシステムはアクション-リアクションシステムとしておきます。
作戦級のゲームで、プレイヤーターンの途中(例えば第1移動フェイズ、第2移動フェイズの合間など)に非プレイヤーターン側のプレイヤーがリアクション移動を行うことができるといったシステムに組み込んだものがありますが、イメージは近いかもしれません。

  1. イニシアティブを決める。
  2. イニシアティブを得たプレイヤーは小隊毎に活性化させ、アクション(移動・射撃・回復)を実施する
  3. 小隊のアクションが終了すると、相手にリアクションを求め、相手方はリアクションが可能なユニットについてリアクションを行う
  4. リアクションに対するリアクションも可能で、双方がリアクションを行わないと宣言すると、イニシアティブプレイヤーは、次の小隊の活性化を行う(2~4を繰り返す)
  5. イニシアティブプレイヤーが配下の全ての小隊の活性化を終了させるとターン終了

ここで言うリアクションが可能なユニットとは基本的には、

相手方のユニットが、自分のLOS内で移動、射撃、回復などのアクションを行ったユニット。言い換えると敵のアクションを視認できたユニット、がリアクションが可能なユニットとなります。

ただこれ条件だけだと前線にいないユニットは何の行動もできないことになりますので、敵アクションを視認していないユニットについては限定的ですが許容しているアクションもあります。例えば、指揮官ユニットとスタックしているか隣接しているユニット(ただし後者は制約あり)による移動・回復が該当します。

このゲームの特徴のひとつは次の点にあります。
活動プレイヤーによる一連のアクション、それに対するリアクションが終了すると、「ASL」であれば今度は攻守交代した上で、攻撃側のプレイヤーがたどった手順を相手方プレイヤーもたどる訳ですが、本ゲームの場合はここで次のターンに進みます。

そうです。
イニシアティブを取らなかったプレイヤー(非活動プレイヤー)はそのターンの間は、活動プレイヤーのアクションに対応したリアクションは行うことができますが、自らアクションを行うことはできないのです。
リアクションでは基本的にはアクションに反応したものになるため、自ら能動的な行動を起こすことが難しいことになります。

複数ターンに渡ってイニシアティブを取ることができなければ、その間、基本的には相手のアクションに応じたリアクションの範囲の中でのみ活動することになります。

プレイの手順

f:id:yuishika:20201124131653p:plain

簡単にプレイの手順を紹介します。

Ⅰ.イニシアティブフェイズ

イニシアティブを決めます

Ⅱ.活性化フェイズ

活動プレイヤーは小隊毎に活性化し、アクションを実施、それに対するリアクションの実施という流れを繰り返します。小隊の活性化とリアクションが完了すると終了。
上に書いたアクション-リアクションの流れはこのフェイズの中の手順になります。

Ⅲ.攻撃解決フェイズ

Ⅱ.の中で射撃は攻撃値の算定までを行います。実際にダイスを振って戦闘解決を行うのはこちらのフェイズでまとめて実施します。
発生した結果は同タイミングで適用されます。

Ⅳ.強襲解決フェイズ

白兵戦です。白兵戦への突入はⅡにおける移動やⅢの結果として発生するのですが、解決はこのフェイズで実施します。

Ⅴ.迫撃砲砲撃フェイズ

歩兵戦闘主体ということもありこのゲームでは盤外射撃扱いで迫撃砲による支援がけっこうフィーチャーされています。

Ⅵ.時間経過判定フェイズ

後述

Ⅶ.クリーンナップフェイズ

 

時間経過の判定

f:id:yuishika:20201124131811p:plain

終了するターン数が読めないという点では、サドンデスルールの変形とも言えますがユニークなので紹介します。

「LHY」では各ターンの終了時にそのターンでどのくらいの時間が経過したのかをダイスにより判定します。結果は2~5分になります。
シナリオによって異なりますがこの経過時間は勝利条件にもつながってきます。
シナリオによって定められた勝利条件を達成するために要した時間がそのままポイントになり、途中に生じた除去ユニット数やシナリオによって定められた条件によるポイントに加算されます。
(シナリオによって定められた)攻撃側は早く攻略する(勝利条件を満たす)ことが求められ、防御側は長く保持する、持久することが求められます。


AARは次回につづきます。
 

 

 

ご参考:「OLD SCHOOL TACTICAL」のシステム

2020年の前半集中的に同じ戦術級ゲームにあたる「OST」をプレイしていました。

OST」を特徴づけるシステムは「インパルスポイントシステム」ということになるでしょう。全体の難易度は「ASL」に比べると高くありません。

yuishika.hatenablog.com

 

インパルスポイントシステムの概要

インパルスポイントは各ゲームシナリオ毎、またそれぞれの軍ごとに定められたダイスにより決められます(3D6、2D+6など)。

ルールブックの説明を借りれば、「インパルスシステムは戦場における不確実性、例えば指揮命令の貧弱さ、弾薬の欠乏、戦火の元での怖れや勇気、その他多数の考慮事項を表したもの」とされています。

各ユニットは移動(Move)、突撃移動(Assult Move)、射撃(Fire)、回復、盤外射撃の誘導、退避(Take Cover)などを行うことで、ユニット毎にインパルスポイントを消費します。両軍がインパルスポイントを全て消費したところでそのターンは終了します。

イニシアティブポイントが多いほうのプレイヤーは、ポイントが相手方と同じになるまでの間、ポイントを消費する行動を行い続けることができます。いわゆる「俺のターン」が続くのです。
相手方はその間、相手の移動に即した「臨機射撃」を行う権利はありますが、それ以外は行動を行うことはできません。
両軍のポイントが同じになった以降は、交互に行動を行うことになります。

OSTのスケール

1ユニット:1個分隊(最小は班)、指揮官、狙撃兵は1人、
車両、砲兵器は1両・1門単位
1ヘックス=40メートル
1ターン=明記なし

 

OST」におけるインパルスポイントシステムの問題点(私見

ゲームのスケールとしては「ASL」と同スケールなのに対し、ゲームシナリオの展開としてはこじんまりとした展開になることが多いのが気になっていました。その原因について考察すると次のように考えています。

各ターンのインパルスポイントはダイスの目によって決まります。特徴はその振れ幅が大きいことです。例えば、インパルスポイントを決めるダイスの設定が”3D6”の場合は最大18となる一方最小値は3となります。”2D+6”の場合は、8~18となります。*2
例えば「ASL」の場合は攻守を野球のように交代しながら、基本登場しているユニットは全て移動でき射撃などの戦闘も可能です。特に全体の行動量について制約がかかることはないです。
「ASL」のゲーム展開の中では(シナリオの規模にもよりますが)、攻撃側の進撃ルートは1本ではなく、複数の攻撃軸をたてることが多いです。主攻・助攻といった複数の軸です。当然、防御側もそれを予想して防御を考慮します。

一方、「OST」の場合、各ターンの行動量はダイスの目によって決まりますので、かなり変動が大きいことになります。大きく多数のユニットに行動を行わせることができるターンがある一方で、ほとんど動けないターンも生じるのです。行動にムラがでてくるのです。

次に同じくらいのインパルスポイントが得ることができるかわからない、という状態になると、今のターンでのインパルスポイントの振り分けも、主攻軸に重点を置いた配分になり、助攻軸への振り分けは小さかったり、助攻軸自体はできないということにつながるのかと考えます。結果、攻撃も一本調子の単調なものになってしまう・・。
まぁ「OST」でももっと大掛かりなシナリオへ挑戦するなどすれば印象は変わるのかもしれません。

yuishika.hatenablog.com

yuishika.hatenablog.com

yuishika.hatenablog.com

yuishika.hatenablog.com

*1:続編では空挺部隊、さらに現在太平洋戦域を舞台にした作品がラインナップに上がっています。

*2:インパルスポイントはゲーム進行の中で損害が累積すると一定割合でポイントがマイナスになるのですが、基本はダイスの目によって決まる割合が大きいです。